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山越え~デルフォイへの道:2

 盃山~山頂が盃のようにえぐれていヴァルドシア山の北西峰。


 1000年前の大戦で岩巨人ギガースに吹き飛ばされたとも、それ以前の時代に龍達の戦争によって吹き飛ばされたともいわれている。どちらにしても三日月を天に向けたようなその偉容は数百年も前から詩や歌に詠まれている絶景である。


 そしてすり鉢の上半分を削ぎ取ったような山頂は、翼人ニケー達の国家、イリオスの飛び地。

イリオスは内海の上に浮かぶサモトラケ島を首都とする翼人たちの国で、他の王国とはあまり交流を持たないことで知られている。


 彼女らは背中の羽根で空を飛ぶため、各地の高地の山頂部を領地もしくは租借地として領有している。


 彼女らは……というのは、翼人は種族的な特性なのか男性はほとんど生まれず、そして大多数が羽根を持たない非翼人ニンフと呼ばれる階級に属し、女王の下で厳しい階級秩序を守って暮らしている。


 妖魔バルバロイと言われるアトラス側に寝返った種族の中でも、女人族アマゾネスはそのニンフが進化した種族であり、500年前の大戦の後に再びヘレネス側に帰属したハルモニア公を始めとする女人族も翼人とはきわめて仲が悪い。


「ほう、それは大変でしたね。私も相棒が行方不明で無ければお手伝いしたいのですが……」


 盃山の山小屋につくと翼人の警備隊が出迎えてくれた。だが、そこにいた翼人は一人だけであった。

山小屋にいたのはアンジェロという男性の翼人。風を通さない黒皮のズボンに青い長袖のシャツ。更に長い瑠璃色の貫頭衣の胴を銀細工で飾られた飾り紐で結びつける翼人独特の装いである。


 そして何より特徴的なのは、顔の上半分を覆う鳥の顔を模した仮面。


 鳥のくちばしが人の鼻の部分で大きく前にせり出し、丸い大きな目の部分には遮光ガラスがはめ込まれていて、表情をうかがい知ることができないようになっていた。


「空で君らを倒せる者がいるとも考えにくい。もしや鷲獅子グリプスにやられたのであるまいか?」


「カルロは今年から守備隊の任についたばかりでした。三日も帰らぬとなれば、何かあったと考えざるおえません」


「この時期の鷲獅子は縄張り意識が強いのよね。雌に気を取られてるうちに雄に背後を取られたのなら、ひとたまりもないわ」


「鷲獅子が子育てのためにつがいで行動することは言い含めていたのですが、ヘリオス様にもフィオナ殿にもご助力できず、もうしわけございません。」

 

 初夏に山を下る時には、そこがどれだけ休憩に適していたとしても、決して更地に出てはいけない。

子供の餌を探す鷲獅子は相手が人間でもかまわず襲いかかって来る習性を持っている。


 普通は空で翼人に勝てる者は龍だけといわれているが、凶暴さを増した鷲獅子は、そんな翼人にとってもなかなかにやっかいな敵だ。


 特にまだ戦いに慣れていない若者は、鷲獅子に不意を討たれることもある。


「負傷して避難している可能性もあるのだろう? こちらもできる限り手は尽くさせてもらう」


 ヘリオスがいうように、飛ぶことができないのであれば山頂にたどり着くことはできない。代わりの者が来るまでアンジェロはこの場を離れられない。


 異変を告げる狼煙は上げたが代わりが来るまで、まだ4、5日はかかる。

それまでに麓を確認できるのはこれから山を下るフィオナ達だけだ。


「多少危険だけど鷲獅子の巣の辺りまで捜索してみるわ。何かわかれば狼煙で知らせるわね」


「助かります。フィオナ殿」


「うちの村も貴方たちにはいつもお世話になってるしね。お互い様よ」


 この地に駐留する翼人にとって雪割り谷の人間は、唯一交流のある人々。

フィオナはこの山小屋に逗留するついでに補給物資も持ってきていた。


 昨日も飲んだ大豆スープや岩舞藻。それに岩塩などだ。


 そしてここについてから、メディアはずっとこの珍しい翼人に見入っていた。彼らは一度すべて女王の養子となり、同じ翼人階級の女性と結婚する決まりになっている。


「翼人の殿方って、初めて見ました」


「そうでしょうね。我々は女王陛下の許可無く国の外には出られませんから……」


 七年に一度の五王の帝都参勤期間を例外として、男性の翼人を普通の人々が目にする機会は、まず無いと言っていい。


「その仮面を外すにも許可がいるのであったな?」


「こればかりは仕方有りませんね。翼人の男に生まれた宿命です」


 翼人の王、エリュシオンの名を冠する栄誉を受ける代わりに、全てを女王と国家に捧げる。

顔も名も奪われるその生き方は、人間ヘレネスには想像もつかない息苦しさだろう。


「それでも、考えようによっては楽な生き方ですよ。あなた方のように自分で自分を縛ったり、進む道を決める生き方よりはよっぽど楽だ」


「そうよね。家から逃げられないのはヘレネスもアトラスも同じなのよね」


フィオナだけではない。ヘリオスも、それにメディアだって家には縛られている。

それだけに、その運命は自分で選んだのだ。と、納得したい気持ちはある。


「まあ、皆さんも明日には沢を下るでしょう。こういう時はあまり難しい話はよしましょう」


 幸い明日は天気が乱れる様子も無く、早朝からアンジェロが途中の道も見回ってくれるという。

行方不明になったカルロのことは気になるが、まずは体を休める必要がある。


その夜は数日ぶりに暖かいベッドで寝ることができたのだった。

今回は翼人が登場しました。あまり種族的特徴や設定に文字数を割くと文章が冗長になってしまいますが、必要な情報なのでこれからも世界観設定に関しては細かく入れていこうと思います。

さて、次回はようやく山下りも終わり戦闘回になる予定です。

よろしければ次話もおつきあいください。

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