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山越え~デルフォイへの道:1

「ごめんなさい。途中で無理だって言えば良かったわね」


「いや、気づくことのなかった私の過ちだ。許しを請うのは私の方だ」


 無理な行軍が祟り、フィオナは一日倒れ込んでいた。


 尾根には一日ごとに休息できる山小屋があるが、太陽が天頂に昇る頃には一つ目の山小屋を通り過ぎ、これなら大丈夫だろうと二つ目の山小屋へと続く尾根を急ぎ足で抜けてきた。

 尾根筋は決してなだらかとはいえず、ゴツゴツとした岩肌を這うようにして進まなければならなかった。その結果がこれである。


「そこはわたしがなんとかするべきだったんです」


「二人とも悪くないわ。やせ我慢するのは私の悪い癖だって、昔からリアムにも言われてたもの。そのせいでメディアにも迷惑をかけたわ」


 ぐったりとしたフィオナの背中の上に拡げた手をのせ、メディアが聖印を握りしめる。


『秩序の神 我が祈りに応えよ 旅人が再び立ち上がる 健やかなる息吹を与えたまえ』


 正法~それは秩序の神が与えた奇跡。

世界を清浄かつ正常に保つ力を行使することができる。


 解熱や体力の回復、傷口を塞ぐなどは【第一階梯祈念】と呼ばれる初歩的な技だ。

高位の聖職者になると消せない炎を操ったり、投石機によって放たれた巨石を弾き返す障壁を形成することもできる。


 メディアは本職は紋章官であるので、第一階梯以上は使えないが、それでも捧げた祈りの言葉は術者の精神力と引き替えに、対象の回復力を加速させる力を持つ。


 もちろん術者は精神的に衰弱するので次の日は一日動けなくなる。

メディアは休息のため、その場で横になる。


「ありがとう。すっかり楽になったわ」


「未熟とはいえ、誰かの役に立てるのは嬉しいです」


「そんなことはないわ。メディアは努力してなんでもできるもの。私なんかどれだけやっても魔法を覚えられなかったし、今だって足を引っ張ってる」


「フィオナは俺やメディアの何倍もの知識を持っている。それでいいじゃないか」


「そうですよ。わたしだっていってみれば器用貧乏なんです。ヘリオス様や先生みたいに一つのことに長じた人が羨ましいことだって多々あります」


 そういうヘリオスも魔法はとても苦手らしく、初歩の魔法をメディアに教えてもらっているらしい。


「そうえばヘリオスって、時々急に丁寧なしゃべり方になるわよね」


 正法を使ったメディアが休息している間、食事の用意を始めたフィオナは、隣で食材を仕分けているヘリオスにそう尋ねた。


「実は私は元々はこういう話し方であるのだが、陛下に言われていてね。普段のままではどうも慎重すぎて面白みにかけるらしい」


 流暢な共通語でそう語る彼は、なぜかいつもと違って見えた。


「そういうわけで、形から入ってみようってことになったんだ。まずは冒険者っぽく俺とかいってみることにした」


 今度はいつも通りの南部訛りのあるしゃべり方だ。


 結構、細かいことを気にする性格だったんだ。

と、いうか何度かメディアが指摘していたのは、それがきちんとできているか確認していたのだろう。


 そう考えると思わず笑みがこぼれる。


「なんだ。何かおかしかったのか?」


「ふふふ……。そういうわけではないけど、最初の印象とあんまり違うものだから」


「それをいうなら、フィオナがちゃんと笑っている顔は今初めて見たぞ!」


「え? そう!?」


 自分では気がついていなかったが、指摘されればそうだったような気もする。いつもリアムにはもっと笑うべきだといわれていた。


 それなら意識して笑顔をつくらないといけないな。などと思いつつ、ヘリオスに声をかける。


「メディアが起きるまでに食事の用意を済ませておくわ。そこの竹の皮の包みを取って」


 ぽんと放り投げられた竹の包みを受け取り、するりと解く。中には赤茶色の大豆スープのペーストが入っている。米や麦が育ちにくい雪割り谷では、大豆は貴重な作物である。


 大豆スープは煮た大豆に豆麹をあわせて熟成させた物。辛みが強く風味が良い。肉を煮るにも野菜を煮るにも合うので、雪割り谷では好んで飲まれている。そこに乾燥した薬草や野菜を入れて煮るのだ。


「それとパンと干し肉、あとはバターね、お願いできるかしら」


「任せておけ!」


 そうしてメディアが起きてくる頃には、食事の用意はできあがっていた。


「ごめんなさい。お手伝いできなくて……」


「何いってるのよ。メディアが治療してくれたからこうやって動けてるのよ。ほら、食べて食べて!」


 背嚢から取り出した木の椀にスープを注ぐ。幸運だったのはミケーネの隊商から乾燥させた岩舞藻ワカメを仕入れたばかりだったことだ。水につけるとわさわさと量が増えるので、かさばらずに野菜を取ることができる。


「この大豆スープはおいしいです。それにしても定番の具材が海藻だっていうのは不思議な気もします」


 山奥で冬場は新鮮な野菜が入り辛いからこそ、乾燥した海藻を多く摂ることになるとは、世の中面白いものである。


「それは俺も思った。だが、我がコリントスも北から薬草や麦を輸入している。移入して育ててもなかなかうまくいかなったりするものだしな」


「どこで何が足りていて、何が足りていないかを知るのは領主を務めるなら、必要な知識ともいえるわね。単純に別の地方に持って行っても作物は育たないわ」


「そうなのか?」


「土の中に含まれている成分や気候なんかに影響を受けるのよ。まあ、それよりも今はご飯に集中よ」


 ついつい気になってしまい、フィオナに聞いてしまうが、言われてみれば褒められた行為ではないなとヘリオスは考える。スープを作る時に熱を持った石を用意していたので、そこの上でパンと干し肉も暖めて黙々と食べ続けていた。


 フィオナとメディアの回復にはまだ一日かかるので、明日以降の行程について話をした。

明日には北西にある盃山の山頂を越えて、そこから沢下りをすることを確認した。


 途中で大きな滝が有り、そこを抜けて低山地部に入ると鷲獅子グリプスなども出没するので、慎重に進まなければいけない。


 特にこの時期は繁殖期に入っているので、細心の注意を払わなければならないのだ。

翌日、今度はペースを考えて休憩なども挟みながら、盃山山頂の山小屋にたどり着いた。

後書きでは初めまして。今回、ファンタジー世界にワカメの味噌汁を持ってきてしまいましたが、自然環境によって食事は変わるのは現実世界でもよくありますので、何もおかしなことはないですよね?

よね?

2018/3/23改訂。

山越え~デルフォイへの道:1と統合。

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