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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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大審問

『まだだ。まだ立ち上がらなければ……フィオナの元に帰らないと』

 

 どこまでも身体が沈み込んでいく底なしの渕。

もう自分が自分である感覚すら思い出せない。


それでもリアムは愛するフィオナを思い出し、最期の気力を振り絞る。 

 

『忘れるな! 思い出せ! 思い出せ!!』


 自分がここにいる理由。浸食する魔精霊に対して、少しでもヘリオスが優位に戦えるように意識を繋ぎ止める。


 それがリアムにできるせめてもの抵抗だった。


 夜明けの太陽が全て上り切った後、意識を失うと同時に彼は自分の意識がこの世とは違う別の空間に引き込まれたことを理解した。


 その時、目の前に現れた顔に大きな傷のある長い鈍色の男。それがずっと彼の中で世界に表出する機会をうかがっていた風の魔精霊ダイモーンアイアースだった。


 ボーラを繰り出し、それに気を取られれば、今度は真ん中に穴の空いた円形の刃の着いた武器などを飛ばしてきた。

 

 しかも懐に入り込むと徒手格闘を挑んでくる相手は手強く、互いに体力の尽きることの無い世界で、ずっと戦っていた気がする。


 防ぎきっている間は主導権を奪われないのでは無いかと考え、デメトリオスに教えられた防御の構えで攻撃をやり過ごし相手が武器を持ち替える瞬間を狙って、テオドリックから学んだカウンターを叩き込む戦い方で善戦したが、腹部に相手の飛び道具を受けて膝をついたところで記憶が途切れていた。


そして、今は一面の闇だ。

どこからか自分に問いかける声が聞こえてくる。


《なぜ……故郷を、家族を捨てて逃げた》


『僕は逃げたんじゃ無い。故郷を出たのは戦うためだ!』


彩眼族イーリスの血を飲めば助かるとは思わなかったか?》


『そうして得た幸せに何の意味がある? 僕はそこまでして幸せになどなりたくは無い』


質問は繰り返される。


それらはとても些細なことだが、産まれてから彼が積み重ねてきた罪だ。


 大審問の奇跡。


 それは心の檻に魂を閉じ込め、魂の資質を見定めるために尽きる事なき尋問を行う不破の牢獄。


《エイドスの紋章を継ぐ者、リアム・ライアン。お前は生を得る者か、それとも死すべき定めのものか?今こそ審判の時!》

 

 誓って恥じるような生き方をしてきたつもりはない。

だが……もし自分が諦めることで、恐らく今は自分の身体を乗っ取っているだろう魔精霊を滅ぼせるのなら?


 フィオナや両親のいる世界を守れるのなら、ここで裁きを受けいれることも許されるのでは無いか?


《選べ。お前は生きるべきか? 死ぬべきか?》


 自分の手の紋章を見る。これを捨てれば敵は自滅する。これは望んだ結末では無いのか?

生きて帰れぬかもしれぬとわかっていても、騎士の宣誓を行ったのはその覚悟があったからだ。


 でも、それでも自分は帰りたい。フィオナに逢いたい。


「フィオナアァァァッ!」


 彼の心に最期に残された名前、その名が呼ばれた時。自分の左手に懐かしい感触が甦る。


「見つけたわ! リアム!」


 ガシリと自分の左腕を掴む細い腕。目を開けるとそこには夢にまで見たフィオナの姿があった。


「良かった。貴方の魂が見つからなかったらどうしようかと思ったわ」


「待ってくれ、フィオナ。君がどうしてここに?」


「私も大審問を受けたのよ。同じ場所で大審問を受ければ、きっと貴方と同じ場所に来られると思ってたわ」


「馬鹿な。下手をすれば君まで死ぬところじゃないか」


「この中のことはテオドリックさんに聞いてたから多少は心構えもできてたけど、それでも辛かったわね。でもね、なけなしの勇気を振り絞ってここまで来たから貴方を助けに来られたわ」


 フィオナには確信があった。


 テオドリックの話を信じるなら、大審問とはその場で秩序の神の支配する領域に転送され、己の心と記憶に裁かれるのだと。


 つまり、肉体が魂と切り離されたこの空間でなら、魔精霊に取り込まれたリアムの魂を見つけ出せるはずだと考えていた。


 そうだとしても、よくよく考えて見れば、フィオナが同じ場所で大審問を受けると言うことは暴れ回る魔精霊に近づくことだ。


 戦う力のない彼女にとっては自殺行為だ。自分がどれだけの傷を負わせたかは考えたくもない。


「聞いて、リアム。ここからは紋章にもう一度誓いを立てれば還ることができる。たぶんあのアイアースという魔精霊の人格はこの場に永久に囚われるはずよ」


「待ってくれ。そうなると例え僕が現実世界に帰っても魔精霊は僕を殺すんじゃないか? 大審問の奇跡は資格無き者を自害させるんだろ?」


 問題はそこだ。

例えここでリアムを助け出せても、身体を共有している以上はアイアースの自害に巻き込まれてしまう。


「そこは私に考えがあるわ。リアム、私を信じてくれる?」


「答えるまでも無いことだけど、信じるよ。絶対にみんなで生きて還ろう」


「うん。約束、守ってもらうからね」


 フィオナは嬉しそうに何度もうなずいて、リアムに手を重ね合わせる。


 二人の手の中にある紋章。

二人の魂は、それを持つにふさわしい高潔さを持っている。


それゆえ、生きるという決意を決めると周囲の闇が急速に晴れていく。


大審問の奇跡に打ち勝つことができたのだ。 

次回、最終回。

次回とエピローグで完結となります。

後残り二日、よろしくお願いします。

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