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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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村娘が世界を変えてもいいじゃない!:3

「風の魔法を撃つんですか? でも相手には効きませんよ!」


 熟考の末フィオナが出した答えを、最初メディアは理解できなかった。


「そうでしょうね。あの魔風の嵐は、全てがあいつの武器であり防具であり道であるはず。まさに自在に操れるようね」


「だけど一つだけ確かなことは、自在に操るためには自分で視認する必要があるのよ。あいつは風を使って移動する時、必ず目線で確認しているの」


 誰もが渦巻く風に目を奪われるであろう中、フィオナだけは本体であるリアムを見ていた。


 勇者の力を解放したヘリオスと戦っている魔精霊アイアースは、明らかに攻撃の手数が減っていた。


 事実、近づくこともできぬほど吹き荒れていた魔風の壁にところどころ綻びが見える。


「つまりこちらから撃った風の魔法は一切が無効化されるけど、風に風をぶつける限りは相手が視認しない限りただ打ち消し合って消えるだけ。届かないことを逆に利用させてもらうわ」


 そうして風の隙間からフィオナはヘリオスに合図を送っていた。

こちらを心配して、常に様子を見ていたヘリオスは、フィオナの身振り手振りから意図を察した。


 他のやり方も考えたが、敵が本当に風を見るのに集中しているのなら、展開した風は正面に集中するための障壁の役目を果たしているのではないかと推測したのだ。


 先ほど光の鞭を撃ちだしたのは、メディアの魔法を隠すため。


 そしてヘリオス自身の光を隠すためでもあった。


 熱によって歪められた空気の流れが陽炎による錯覚を引き起こした。


 そのため上空に逃げながら風の矢を降らせていていたはずの敵は、まんまとヘリオスの間合いに引き寄せられていた。


 結果、ヘリオスは魔精霊の頭部を粉砕した。

再生するとはいえ、フィオナにとって気分のいいものではないが、動きを止めるためならば仕方ない。


 今は失った頭部を再生させるべく、肩口から上を風の塊が蠢いている。


「ヘリオス様っ!! ご無事ですか!」


 制御を失い再び吹き荒れ始めた嵐の中を、二人は懸命に呪文で道を作り上げて進む。

 急いで駆け寄るメディアをヘリオスは手を上げてなだめる。


「これで何年か寿命を持って行かれただろうが、俺は大丈夫。それよりもこのまま再生を許せば今度こそリアムは意識を呑まれてしまうかもしれん」


 見たところ魔精霊と違い、ヘリオスは精霊の方を人間の意識が従属させているようだ。

そのため肉体や精神に膨大な負荷が掛かるのか、身体を維持するだけで寿命を削っているように見える。


 ヘリオスが命を懸けてくれることにフィオナも覚悟を決める。

再開したあの日の夜、リアムが自分に渡してくれた龍角馬のペンダントを握りしめる。

見つめるリアムだった者の首にも同じペンダントがあるのを見て大きくいちどうなずくと、フィオナはヘリオスに告げた。


「ヘリオス。私とリアムを大審問にかけてもらえないかしら?」


「ちょっと待て。俺は君たち二人を助けると約束をした。それをリアムどころかフィオナまで大審問にかけるなどとは、自棄やけを起こされては困る」


「そうよね。精霊の力で苦しんでいたのは貴方も同じだったわ。文字通り命をかけて私達を助けてくれようとしてた。だからこれは自棄やけなんかじゃない。きっと私にしかできないことよ」


 早くしなければ魔精霊は再生する。試せる時間はもわずかしか無い。


「だから私達を助けるために紋章の力を使って!」


 迷う時間も今は惜しい。程なくヘリオスも決断する。


「ここまで俺を導いてくれたフィオナの言葉だ。信じるよ。メディ、準備を頼む」


「先生、絶対に二人で還ってきてくださいね!」


「もちろんよ。メディア、貴方はわずかな時間でとても成長したわ。だからこれが終わったら貴方の師として教えられることは全て教えるつもりよ」


 最初は再び師と呼ばれることに戸惑ったフィオナ。

だけど旅を通して彼女に何かを伝えたいと強く願うようになった。


「ねぇ、ヘリオス?」


「なんだ?」


「きっと初代の勇者ヒューペリオも私と同じだったと思うわ。自分にしかできないことを考えたから、その決断を悩まなかった。だからね……王や騎士なんかじゃなくて、村娘が世界を変えてもいいじゃない!」


 そういうと、笑顔でフィオナは前に進む。

猛毒の風が人魚族ネレイデスの守護を揺らしフィオナの体力を奪う。


 足下をすくわれそうな向かい風。その中を手の届く距離まで駆け抜ける。


(負けるもんか!!!)


 フィオナの手が魔精霊の身体に触れる。

 

 恐怖をこらえ、その手の中でリアムのペンダントと己のそれを重ね合わせる。


 もう半分ほどかすれて消えかけたリアムの紋章。そこに自分の手を差し出して握る。


しかしそれは自殺行為だ。真っ白なフィオナの手が瞬時に爛れ表皮が崩れ始める。


「くっっ!!! あぁぁぁぁっ!!! お願い、早く紋章を!」


 身体を貫く魔風の毒の痛みに抗いながら呼ぶ。

 

『我は紋章官、メディア・ラプシス。神紋よ、我が問いに答えよ。心正しき者、心健やかなる者、心強き者の声を聞け。紋章よ。開け!』


『応えよ! 我が紋章旗! 神より賜りし奇跡を示せ!』


 ヘリオスの号令と共に、手に輝きが生まれる。


 そしてその背には、太陽を象ったコリントスの紋章旗が出現する。

そこより生じた光の円陣が走査するように紋章を持つ二人を包み、その足下から闇が立ち上っていく。


『我、ヘリオース・イアソンが祈念する。神威顕現・裁断の扉よ来たれ!!』


 日食のように円陣が闇に包まれると、あれほど吹き荒れていた風がピタリとやんだ。


秩序の神による審判を受けるべく二人は、この世では無いどこかへ転移していた。

ところどころ気になりますが、その辺は完結後に修正させていただきます。

2018/2/8

第34部に追加したシーンを受けて、当初予定にあったリアムからのお守りをフィオナが握りしめるシーンを追加。細かな文言やディテールの修正。


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