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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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魔精霊:3

 この腐食の嵐をどうにかしない限りは対処のしようが無い。


「『浄化の雨』なら何とかなるかもしれないけど、さすがにメディアでも無理よね?」


「あの儀式を行うには数十人の術者が必要です。この本を使っても魔法なら四つの言葉まで、正法は二、三人分の術までが限界ですね」


「近づくことは?」


「一人分の道ならなんとかできます。だけど、ヘリオス様でさえあんな苦戦する相手に、わたしたちが何かできるでしょうか?」


 メディアの言うように、目の前のヘリオスに到達することすら難しく、しかも二人では足手まといにしかならない。人狼族リュカオンならば己の名誉のために非戦闘員を狙わないが、魔精霊にはそんな規範意識なんてものも無い。


さらに遠話で支援しようにも、相手は風を操る魔精霊。風を使う魔法は無効化されてしまう。


「先生の紋章なら、あるいはあの風を弾き返せるかもしれません。ですが……」


「ですが?」


「ただ速いだけの攻撃なら、ヘリオス様には通じません。あの魔精霊ダイモーン、普段の速度は人狼族リュカオンよりも全然遅いのですけど、瞬間的に攻撃を風で加速しているんだと思います」

 

 恐らく先ほどの矢が命中したのも、ヘリオスが精神を集中するタイミングを風による加速でずらしたものだろう。一番近くで彼を見ていたメディアだからこそわかる。


 あんなにも簡単にヘリオスへ攻撃を当てることなど不可能だ。


「約束……したのに!!」


 リュカオンの攻撃を受けた時も今もそうだ。

戦う力を持たないフィオナでは、こういう時に何もできない。


 見ていることが嫌だったから、置いて行かれるのは嫌だったから、せめて知識だけでも誰にも負けないようにと努力を重ねてきたつもりだった。


 それなのに魔精霊ダイモーンという世界の敵の前では、一歩前に踏み出すことすらできない。


 その思いは、相対するヘリオスにとっても同じだ。 


「俺の力はこの程度だったのか?」


 背後からかすかに聞こえたフィオナの声。


 責任感の強い彼女のことだ。この状況をどうにかできないことを思い悩んでいるに違いない。

とはいえ、この状況ではヘリオスでさえも有効な手立てが有るわけでは無い。


 間合いをずらして正確無比な突きを繰り出し、こちらが追いすがれば風に乗って一気に距離を取り、射かけてくる。


 これが普段のリアムの技であれば、ヘリオスにとってはいなすことも制圧することもたやすい。

それが風の力で人の限界を超えた加速を産み、壊れた身体は即座に魔精霊の身体が再生する。


 見切ることも予測することも不可能な攻撃は、障壁を発動させるわずかな隙も与えてはくれなかった。


「それでも俺は勇者だ!」


 初代ヒューペリオ侯は何の武術の心得も無いただの文官だった。


 そんな男がただ一人世界を護るために迫り来る魔精霊ダイモーン魔人アトラスの軍団の前に立ちはだかり、ついには勝利した。


 その行為を讃えて、人は彼を勇敢なる者――――勇者と呼んだ。


 ヘリオスはその名を継ぐ者である。諦めることはありえない。


「いかに速くとも、受けることを考えねばかわしつづけることはできる」


 そのまま剣が届く距離まで近づくと、自分の身体を覆う水の膜がシュゥシュゥと音を立て腐食するのがわかる。


 本当にちかづくことすら危険なのだ。


 無言で繰り出される風の鎗をかいくぐり、魔精霊のみをリアムから切り離すべく斬りかかる。


「ヘ……レ……ネ……ス…………」


 巨人の身体に刃が届いた瞬間、リアムの口から彼とは違う声が聞こえる。

 ヘリオスが目にした左手の紋章は薄くなっており、リアムの意識が消えかかっているのだと悟る。


「すまないが、このまま押し斬らせてもらう」


「ヘレネーーーース!!!」


 今度は力強い声。

 四本の鎗が同時に出現し、四方からヘリオスの身体を貫く。


「グガッ。グゥゥッ!!」


 声にならない叫び。


『風よ【告げる】。

 我が手に【集え】

 牙となり空を【裂け】!

 爪と化し我が敵を【穿て】

 命ずる。風の矢よ【爆ぜよ】!』


 巨人の身体が弓を構え、矢を撃ち下ろす。


ヘリオスの身体はそのまま貫かれ、体内に入り込んだ風はそのまま高速で回転し小さな竜巻となる。


「ヘリオス!」


 フィオナの叫びが響く。

ヘリオスの体内に生じた竜巻は、彼の身体を粉々に引き裂いた!!!!。


 カラン……カラン。


と、鎧の落ちる音がむなしく響く。


 ヘリオス・ジェイソンは断末魔の叫びすら残さず、跡形も無く消えた。


 その場に立っていた魔精霊の巨人の身体がリアムに吸い込まれるように消える。

周囲の破壊を確かめると、厳かに口を開いた。


「さぁ、世界を滅ぼしに行こうか……」

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