魔精霊:2
『風よ【告げる】。
【流れよ】世界を巡れ早馬の如く。
【重ねて告げる】渦を巻け叫びを上げよ
【生ぜよ】腐食の霧。
【沸き立て】全てを飲み混む狼煙となれ!
【混交せよ】毒刃と化せ。
命ずる。【引き裂け】我が意のままに世界を!!!』
魔精霊がリアムの声で呪文を詠唱する声が響き渡る。
【告げる】で始まる魔精霊の魔法はその存在自体が巨大な力の源であることを示している。
普通の魔法使いは最初の言葉で【生ぜよ】と告げ、世界に介入する力を生み出すが、力そのものである魔精霊はその力を無尽蔵に引き出すことが可能。
それは彼らが元々は根源精霊であった証であり、世界に満ちる全ての風と繋がっている証明でもある。
しかも最も魔法に長けた種族と言われる吸血鬼をも上回る七つの言葉は文字通り桁違いの威力を発揮する。
「二人とも砦までさがれッ!!!」
背中の巨人が手を広げると、全方位から腐食の風が巻き上がり武器の姿を取る。
目の前の視界全てが暗緑色の刃で埋まり、それらがけたたましい音を立てて降り注ぐ。
「メディア。下がりながら人魚族の守護をお願い。地上に落ちたらあの武器は辺り一面の生き物を殺し尽くす魔風に変わるわ」
「風の魔法はいけないのですね。ヘリオス様は?」
「このまま引けばどの道、毒霧で全滅だ。斬り込むしかないだろう。俺一人なら戦える」
その間にもリアムの頭上には、魔風の嵐が形成されていく。
下がりながらメディアは【人魚族の守護】を唱える。
この魔法は対象の周囲を包み込む水の渦を産み出す魔法で中にいるものは水中でも呼吸ができる。風の魔法は風の魔精霊相手には全て無効であり、短時間であれ、この空間でも生きる最良の手段。
ヒュゴォォォォォッと、野分のような音を立て魔精霊の放った毒刃が地面に炸裂する。
今の今まで普通の景色だった場所が一瞬にして腐食し、毒の霧が巻き上がる。
その死の嵐の中をヘリオスは駆け抜ける。
腐食した地面はぬかるみとなるため、人馬族歩法を修めた者で無くては自由に動くことはできない。
ここにデメトリオスがいてくれたらどれだけ心強かったかとも思うが、それは叶わぬ願い。
「お前は……誰だ!!!!」
次々と着弾しヘリオスを捉える楔と化した風の武器が降り注ぐ中、紙一重で走り抜けて問う!。
リアムのものではなく目の前の巨人の目がヘリオスをにらみ付ける。
つまり今はリアムの肉体を魔精霊が操っている段階だということ。
完全に肉体を支配下に置いているわけではない。
「リアム。お前もそこで戦っているのか?」
「オォォォォォ」
魔精霊はその問いには答えず、小さく呻くと矢をつがえる構えを取る。
『風よ【告げる】。
我が手に【集え】
牙となり空を【裂け】!
爪と化し大地を【穿て】
命ずる。風の矢よ我が敵を【射よ】!』
風が収束し弓と矢が手の中に産まれ、そのまま解き放つ。
シュゴォォォォ!!!!
リュカオンの突撃のような速さで飛来する空気の矢をヘリオスは叩き落とそうとする。
このまま後ろに流せば背後にいる二人には為す術もないだろう。
しかし命中する直前、矢はいくつにも分裂して四方八方からヘリオスを貫く!
「ぐっ。うわぁぁぁっ!!」
その魔法は強固なはずのヘリオスの障壁を易々と貫き、身体のあちこちから血が吹き上がる。
しかもその一本、一本の矢が毒を持つのだ。
辛うじて深手は負わなかったが、それでも動きを鈍らせるには十分。
そんな彼の目の前に、リアムの身体と巨人の身体に四本の風の槍を携えて敵が迫る。
咄嗟に地面に転がりながら攻撃を避けるが相手の鎗は、正確にヘリオスのいた場所を貫いていた。
「完全に支配しているわけではないといえ、リアムの持つ技能は全て使えるのか……」
世界を壊す魔法に人間の技。リュカオン以上につけいる隙は無いように見える。
「先生、このままではヘリオス様が!」
「近寄ることもできないなんてね。こんなものどう戦えっていうのよ……」
前に出ようにも後ろに下がろうにも周囲を埋め尽くす風をどうにかする必要がある。
ヘリオスにすらいとも容易く攻撃を当ててくる化け物相手にどう戦えばいいのか?
人狼をも上回る理不尽な敵。果たしてどう立ち向かえばいいのでしょうか?




