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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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破滅を告げる者:2

魔精霊ダイモーン。そんなっ!」


「信じたくはない。だけどそれ以上に納得できる答えはないわ」


 魔精霊ダイモーン。それは、1500年前の戦いの時、変化の神が生み出した最悪の魔物。

魔人アトラスや魔獣をも上回る災厄と言われている。


それらは全て自然を司る根源精霊アルケーが、変化の神によって歪められて生じたという。

ダイモーンは神々が世界を作るために用いる、その力を暴走させ、人間の体に埋め込んだ存在。


 一度倒しても500年の間に世界から根源力を吸い上げて意思を持った人間として転生する。


 秩序の神が遺した虹の壁と同じように、変化の神が遺した最悪の呪いである。


 それゆえに世界は、ある地域は溶岩と噴煙に覆われ、またある地域は赤茶けた砂漠が広がり猛烈な風に襲われ、さらにある地域では、滝のように天から降り注ぐ雨と人の侵入を拒む密林に覆われている。


 現に帝国の辺境ではその過酷な環境ゆえに、有角族タイタンや、翼人族ニケー、それに人馬族ケンタウロスといったアトラスの種族しか生存できないような過酷な環境が広がっていた。


帝国も辺境にまで紋章官や司祭を送る余裕はない。

帝国領内に住めなくなった犯罪者やならず者が多く逃げ込んでいるともいう。

 ミダスやテオドリックも、その辺境の出身である。


「先生、大丈夫ですか?」


「さすがにこうやって現実を突きつけられると苦しいわね」


 メディアの手に爪が食い込むほどきつく手を握る。

無理もない。魔精霊と化した人間は殺すしかないとされている。


 そうなった時点で、それまでの記憶は失われ……。


「あれ? 先生、ちょっと待ってください。一月前まではリアムさんはリアムさんだったんですよね?」

 

「みんなの話を聞く限りでは、そうみたい……そうなのよね?」


 驚いた表情を浮かべるフィオナ。まだ事態が飲み込めていない。

半信半疑でメディアに訪ねる。


「はい。一月前までは魔精霊ではなくて、リアムさんだったんです。それって伝承と違いませんか?」


「そ、そうね。調べてみるわ」


 フィオナは世界辞典を起動し、過去の魔精霊の伝承を検索する。


【1500年前、魔精霊と化した人間は変化の神の命ずるままに世界を破壊した】


【1000年前、虹の壁の崩壊とともに魔精霊は目覚め暴れ出し討伐された。言葉は通じたが意思の疎通はできなかった】


【500年前、魔精霊達は自分たちの意思で、魔人アトラス側の将として戦った。アトラス王アキレウスに率いられた四人の魔将、地の魔精霊・アガメムノン。火の魔精霊・パトロクロス。風の魔精霊・アイアース。水の魔精霊・ペンテシレイアの四人である。アガメムノンはミケーネ王であったが突如乱心し魔精霊として目覚め、ペンテシレイアはアキレウスがアトラス王となるときに女人族アマゾーンの女王に魔精霊を埋め込んだといわれているが、詳細は不明である】


 フィオナが概要を読み上げるたび、二人は違和感を覚える。


「これって、伝承がずいぶん違いませんか?」


「これだけでは確信が持てないけど、出現のたびに存在が変質しているようには見えるわ」


 過去の皇帝や勇者は、魔精霊が出現すれば即座に対処してきた。

その存在がどういうものかは、倒した時の状況からしか推測できない。


「でも、メディアの言う通りかもしれないわね。少なくとも魔精霊化の兆候が現れてから二年は彼は彼のままだった」


 ようやくいつものフィオナらしい回答。


「でも、それならなんでリアムさんは雪割り谷にも帰らず、帝都にもいかなかったんですか?」


「だって帰ればクレイグおじ様が気がついてしまうし、帝都には二冊も世界辞典があるのよ」


「そうか、魔精霊だって気がつかれたら……」


 そう、リアム・ライアンにとって最大の不運は、雪割り谷に帰ればライアン家の紋章の力で病ではないことを気がつかれてしまい、帝都に向かえば婚約者フィオナかその叔父の持つ世界辞典で魔精霊だと気がつかれてしまう。


 そうなれば彼を待ち受けている運命は皇帝か勇者による討伐。すなわち処刑だ。


「だから彼は伝承と自分の身に起きたことの違いから、未知の病を疑ってここに来ていたのよ。一縷の望みを繋ぐために」


「それでも、フィオナ先生には伝えておいた方が良かったんじゃ?」


「彼はそれだけは絶対にしたくなかったと思う。私のことをよく知ってるから」


 その事実を聞かされていればフィオナは絶対に自分で解決したくなる。

どんなに危険でも、リアムについて行く道を選んだだろう。


「あいつってば、本当にバカなんだから……」


 彼は逃げたのではなかった。たった一人で戦っていたのだ。

生きてフィオナの元に戻るために必至に!


 デメトリオスやテオドリックに教えを受けたのも未来を諦めないためだったろう。


 それにデメトリオスであれば、途中で魔精霊化したとしても対処できたはずだ。

だけど、その苦しみや恐怖はどれほどのものか想像もできない。

この町からいなくなったということは、もうあまり時間は残されていないのかもしれない。


「メディア、ヘリオスにもこのことは確認するわ。だからリアムを助け出すのを手伝ってほしい」


「当たり前です。先生のお役に立てるのなら、わたしも嬉しいですから!」


 不謹慎かも知れないが、フィオナの役に立つことも、メディアの望みなのだ。

2018/2/05日、魔精霊の情報を追加しました。

500年前の大戦はトロイア戦争の登場人物の設定をアレンジしていますが、敵味方入り乱れた設定となっています。

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