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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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破滅を告げる者:1

 デルフォイ聖堂図書館。


 まだこの国がフォキス候国であった時代の、デルフォイ修道院を改装した石造りの建造物である。

翡翠河が運んできた岩で作られているため、その壁は所々翠色に輝くモザイク模様になっている。

 この建物の中央の大きなアーチの中を貫く道。ここを渡れば日輪宮。

反対側は町の正門であるイアソン記念門。


 一直線に続く目抜き通りを持つのはマケドニア系の都市の特徴である。

 

「あの藁焼きもやはり男爵夫人に教えていただいたんですか?」


「元々はあの夏告魚カツオも、干して調味料にしてたの。新鮮なお魚が食べられるのは、ハンナおば様のお陰ね」


「あの削って大豆スープの出汁とってた奴ですね」


「うん。保存が利くし便利なのよ」


フィオナとメディアの二人は、ミダス商会からここまでの道を歩いてきた。

そういえば、こうして二人で歩くのは初めてなんじゃないだろうか?

 フィオナも不安であると知り、メディアはなるべく明るい話題を選ぶ。


「でも、初めて来ましたけど、デルフォイってすごいですよね」


「もしかしてここに来るのは初めて?」


「そうなんですよ。この一年は帝国でも南の方ばかりいってましたから」


「あれ? ちょっと待って、それならヘリオスと一緒に日輪宮に行かなくて良いの?」


 そろそろ図書館の入り口も見えて来た。橋を渡ればヘリオスのいる日輪宮だ。


「あー、それはまた今度でも大丈夫です。今回は王太子としての正式な訪問でもないですし」


 誓約の勇者はデルフォイの王位請求権者であるため、その称号を持つ者は自動的にデルフォイの王太子となる。この500年で初代のデルフォイ候ヒューペリオ1世を除いては、コリントス候になってしまったので、今回のように勇者とコリントス候が別々の場合は、自動的に勇者である方に継承権が移ることになる。


「それならいいのだけど」


「それよりも先生、もう図書館ですよ」


「いよいよね……」


 覚悟を決めたような表情で、フィオナはそう呟いた。


 図書館の中では、修道士服の男達がせわしなく行き来している。


 彼らはこの図書館の管理と写本の作成を行う修道司書だ。

彼らは正法教会の修道士であるとともに司書であり、図書司祭とも呼ばれる。

帝国内にある様々な書物の写本の作成と収蔵が主な仕事である。


「ご苦労様です。ヘリオス・ジェイソンの名代として参りました紋章官のメディア・ラプシスです。以前よりのお問い合わせの件で伺いました」


「これはこれは紋章官殿、よくいらっしゃいました。私が神官のレオです」


「お世話になります。早速ですが、ミダスの使いの者はどの書庫を使用したかわかりますか?」


「ああ、あの少年でしたら、ちょうどこの入り口の反対側の書庫によくおりましたな」


 この図書館では、貴重な書物は鎖で繋がれており、利用者には案内と監視のために神官が一人づつ担当することに決まっている。


 基本的に利用者ごとに担当司書は決まっており、ミダス商会はレオの担当だ。


「そちらの本が世界事典マグナ・コスモスですか。後で拝見してもよろしいか?」


「ええ、私が所有しているとはいえ、この書物の知識はみんなの物です」


「それはありがたい。ダイアー・グレンとアーサー・グレンの旅行記は我々修道司書の憧れの的だ」


 祖父と父の名を聞き、フィオナの表情も少し緩む。

雪割り谷ではいつでも閲覧できること。

 帝都の魔法学院には彼女の叔父でもう一冊の世界辞典の所有者ハニエル・グレンがいることを伝える。

彼は優秀な魔導師で世界辞典のもう一つの使い方で有る魔道書として使用している。


 かなりの偏屈者だが、フィオナからの紹介であれば無碍には扱われないだろう。


「そういえば門の東側には入り口が無いんですね?」


「それは書物を盗まれぬためですな。アーチの向こうの塔では火も厳禁です」


 一度登ってもう一度降りるアーチの上を通る階段の向こうには鉄を敷かれた床がある。

いざとなれば完全に締め切って蔵書を守る構造だ。


「それでは私はここに居りますので、ご自由に閲覧ください」


 閲覧用のテーブルに腰掛けたレオ神官に見送られ、二人は書庫への階段を降りる。

書庫の入り口の紐を引くと上で木札が回転し、閲覧者がどこにいるかわかる。

リアムが閲覧していたのは最下層だという。


「ごめん、メディア。少し手を握っててくれる?」


「はい。わかりました」


 メディアは何故とは問わない。緊張のために汗ばんだフィオナの手をギュッと握る。

たいした距離でも無いはずなのに永遠に続くような階段を下り最下層についた時、メディアは気がついてしまった。


 むしろメディアだから理解できた。

 

 一層強く手を握るフィオナの顔は蒼白で、彼女の最悪の予想が的中したことを確信していた。


「ねぇ、メディア。グレン家の紋章の誓紋術は?」


 ようやく確認するように彼女は尋ねる。


「グレン男爵の誓紋術は【毒と病の治癒】……です」


目の前の書架には所狭しと医学書が並んでいた。

死に至る病以外はどのような病も取り除き、あらゆる毒を防ぐという秩序の神の奇跡。

その神の業が通じぬ病を調べていたこと、そして雪割り谷に現れた誓約の勇者ヘリオス


 加えてあの山小屋で見た、毒の沼。それら全てが繋がる。


魔精霊ダイモーン


 それがフィオナ・グレンの婚約者、リアム・ライアンを襲った災厄の名前だった。

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