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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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つかの間 平穏な日々:4

 ミダスとゾエは目の前の攻防を固唾を呑んで見守るしかない。

 

 嵐のごとき槍と刺突剣による軌道の檻の中で、それでもヘリオスは立っている。

それだけでも奇跡といえる。


 それでも、その奇跡を平常に変える程の修練こそが彼が誓約の勇者たる所以である。


 今まで防戦一方だったヘリオスは正面に構えていた剣を下げ、下段に構え直す。

しかも右下に大きく手を広げ、正面はがら空きである。


「では、今度はこちらから行かせてもらうとしようか」


「まずい! デメトリオス殿、攻め続けねばやられますよ!」


「承知!」


 二人は即座に構えの変化した意味を理解した。防御を捨て全力攻撃に切り換える。

そうすることで今まで二人が組み上げてきた刺突の檻を突き破るつもりだ!


「では、行かせてもらうとしよう」


ガキンッ!!!


石畳を踏みつける音と同時にヘリオスはふわりと浮き上がり後ろに飛び退く。


 遠ざかろうとするその姿に、対峙する二人には焦りが生まれていた。

勇者相手に攻守が逆転すれば勝ち目は無くなってしまう。


「拙者が追う!」


 どれだけ離れようと人馬族ケンタウロスの間合いからは逃げられない。

騎兵槍の射程と空中でも自在に動くことのできる身体能力で機先を制す!


「ヘリオス殿。空に逃げたところで人馬の速さに勝てるとでも?」


 槍の射程から逃れるためか、壁を駆け上がり続けるヘリオス。

だが三階程度の高さではすぐに逃げ場は無くなるはずだ。


「そうだな。とても勝てないな」


 そういった瞬間、デメトリオスの視界からヘリオスが消える。


「だがな。今は攻めているのは俺の方だって忘れないでくれよ」


 自分の馬体の下から聞こえる声に叫びを上げる人馬族ケンタウロス


「ぬかったわぁぁぁぁぁっ!」


 これこそがヘリオスの狙い。


 自分には圧倒的に不利な空中にデメトリオスをおびき寄せ、壁の反動を利用して降下する。 

そしてそのまま地上のテオドリックと乱戦に持ち込む腹づもりだ。


「私の方が与しやすいと見たか? それでも剣同士の間合いであれば……なにぃっ!」


 先ほどとは逆に自分の間合いの外からせり上がってきた敵を串刺しにするべく、刺突剣を構えたテオドリックは自分の顔面を捉えようとする籠手の輝きを見て慌てて避ける。


さらに構え直す前にそのまま体当たり。


 当たる寸前、ギリギリで刺突剣を逆手に持ち替えて突き刺す。

ヘリオスはその刺突をくぐり抜け後ろ回し蹴りを放つ。


「これではどちらが悪党かわかりませんな」


「それはどうも。魔人アトラスは遠慮なんてしてくれないからな」


 剣を使わず超至近距離での連撃。

軽装のテオドリックより身軽な体術。


 超密着状態での戦闘は、刺突剣以外で鎧を着た相手を倒す方法はそうそうない。

驚くべきことに組討ちの腕も戦場で鍛えたテオドリック以上だと理解した。

 

 ここまで密着されては同士討ちの可能性もあり、デメトリオスも手を出せない。

変身を解いて槍だけならば戦えるが、それでは人馬族の優位を捨てることになる。


「やれやれ、やはり一対一で勝てませんか」


 テオドリックは剣から手を離す。

そのまま自分の左手首をつかむと全ての精神力を盾に集中。


「それでも……これで我々の勝ちにさせていただきましょう」


 これでヘリオスの身体が触れれば、障壁で動きを止めることができる。

障壁さえ展開していれば一撃ならデメトリオスの攻撃にも耐えられる。


「ああ、待っていたさ。ここしか俺の勝ち目も無かったからな」


 待っていたのはこの時。テオドリックは勝利のために容赦なく剣を捨てると踏んでいた。


 盾による押さえ込みの下をくぐり抜け首元に剣を突きつける。


「我々の負けでござるか。お見事にござる」


 デメトリオスも槍を納め変身を解く。両手を挙げてテオドリックも降参する。 


「正直危なかった。少し前の俺なら負けていたかもな」


 フィーと大きく息を吐きヘリオスは腰を下ろした。


「やはり最初に仕留められなかった時点で勝ち目はありませんでしたね」


 口ではああ言っていたが、テオドリックも勝てないことは余程悔しかったようだ。


「いやいや、勇者殿相手によく戦った。私もゾエもお前が家族で鼻が高いというものだ」


「そうですね。こんなに熱くなったのは久しぶりでした。ありがとうございます」


「なぁに、礼をいうのは俺の方だ。久々に戦いの勘を取り戻せたよ」


 そんな中庭の様子をフィオナ達は屋敷の中から見つめていた。


「フィオナ先生、あのお二人ヘリオス様相手にすごかったですね!」


「あれが見えてるなんてメディアも十分にすごいわよ」


 ヘリオスに是非にとせがまれて厨房でメディアに料理を教えていた。


「でも、やっぱり私抜きで模擬戦なんて、足手まといなんでしょうか?」


「そうじゃないわ。たぶん私に気を遣っているのよ」


 かまどの上でモクモクと煙を上げる藁。串を刺した夏告魚カツオを炙りながらフィオナはいう。 


 実際に戦いとなれば隣の少女の補助を受けて戦うのだから、彼は更に強さを増すだろう。


 メディアは自分を未熟といっているが、魔法に正法、さらに紋章の解放までできることは脅威である。

今の戦いなら、二対一、さらに鎧を破壊された状況でもメディアなら戦況を一変させられる。


「先生に? …………あっ!」


 その意味に気がつき、口に手を当てるメディア。


「そうよ。あの二人の技を同時に使う人間はこの世に一人しかいないわ」


「でも、おかしいじゃないですか! なんでヘリオス様がリアムさんと戦わなければならないんです?」


「考えたくは無い可能性だけど、私には一つだけ心当たりがあるわ」


「まさかヘリオス様は最初からご存じだったんですか?」


「そんなことは無いと思う。あくまで可能性の一つとして考えていたのでしょうけどね」


 そう、あの時山小屋で明らかに様子がおかしかった時、フィオナは何かに気がついたのだ。

だからヘリオスはメディアに側にいるように命じたのだろう。


「真実を知るには心の準備が必要よ。だからメディアが側にいてくれると、とても助かるわ」


「それは絶対です。フィオナ先生のためなら何だってします!」


 メディアはもう三年も前からそう決めていた。

修業時代、魔法の才能が無くて挫けそうだった時、剣も魔法も使えないフィオナは誰にも恥じること無く誰にも臆すること無く教壇に立っていた。


 その姿に心を打たれたからこそ、頑張れた。

だから、ここで彼女の隣に立つことができたのだ。


「ありがとう」


 煙のせいで外はよく見えても、隣にいるフィオナの表情はわからない。

でもきっとフィオナはいつもより優しい顔をしているに違いないとメディアは確信する。


「それにまだ本当に最悪の結果だってわけじゃないし、今はお料理しましょう」


「まあ、ミダスさんにもお世話になってるし、みんなもお腹をすかせてるでしょうしね」


「でも先生。このお料理のソースも大豆なんですね?」


「雪割り谷では何でも大豆で作るわ、いつも飲んでるスープもそうだし、煮詰めてにがりで固めたりもするの」


「麦やお米が収穫できないって本当に大変なんですね」


「だからこその交易だし、それにこうして珍しいお料理もだせるわけよ」


「はい! フィオナ先生!」


 表面が十分に燻された夏告魚を串から外し、切り分ける。


 もうすぐ真実が明らかになる。

その時、フィオナはどのような決断を下すのか?

 そして主であるヘリオスはどうするのか?

メディアは何があろうと二人を支えるのだと、決意を新たにするのだった。

さて、次回から解決へ向けての展開になりますが、今回のお話はたぶん大幅に変わると思います。

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