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序章~フィオナと勇者主従の出会い:2

「ちょっと待って。コリントス候子って、本物の?」


「はいっ、本物ですっ。ですよね? ヘリオス様」


フィオナが驚くのも無理はない。

ジェイソン、共通語ではイアソンとなるが、この目の前の青年は、

皇位継承権を持つ選帝侯家の公子にして、人間族ヘレネスの誇る誓約の勇者なのだ。

その力は海を切り裂き山をも砕くという。


「ああ、三ヶ月前に宣誓を行って、今は俺が誓約の勇者だ」


 しかしそうであるならば合点もいく。

祖父はコリントス候家へも出入りしていたから、子供の頃にヘリオスが会っていても不思議ではない。


「でもコリントス候もまだお若いでしょう?」

 

ヘリオスの父、コリントス侯爵にして帝国元帥。フィボス6世はまだ50代半ば。


「父上はアトラス族の血が濃いからな。それに……爵位はまだ継承していない」


『アトラス族』それは万物の形質を獲得し、【魔法】など超常の力を持つ人類。


 ヘレネス族が使える秩序の女神の力【正法】はそれと対になるような存在で、

アトラスの血が濃い人間は、その力を扱うことが苦手なのだ。


 誓約の勇者の力は正法によるものだから、戦士としては強力であっても、勇者としては不適格ということだろう。


 だからこそ魔法と正法を使いこなすメディアは貴重な存在なのだが……。


「つまり、今のコリントス候は、勇者としてはそこまでの力を使えないと?」


「そういうことだ」


「でもでも、びっくりするくらいお強いんですよ!」


 目の前にいるヘリオスの父、フィボス6世はアトラスとしての力に目覚めている。

それはすなわち、超常の力を持つ人類だということだ。

 だが、それだけに誓約の勇者としては存分に戦えない。


「本当にな。俺もまだ全然勝てないぜ。自分の未熟さを痛感させられる」


「さすがにそれは謙遜だと思うわ。でも、宣誓は済ませたんでしょ?」


「ヘリオス様は、勇者の資格と侯爵旗だけを譲られている状態なのです」


 メディアの言葉にヘリオスは黙って頷く。


 噂に聞く限りでは自分でいうほどこの青年が弱いとは思えない。

現皇帝ヘラクレス一世との皇帝の座をかけての一騎打ちは帝都でも語り草になっていた。

 彼は二十歳くらいのはずだが、剣を持てば彼の父フィボス6世か、

彼の師、ヘレネス史上最強と謳われる剣神レオニダス以外には負けないだろうといわれている。


 それ以上に恐ろしいのは、彼の持つ紋章旗だ。

 コリントスの紋章旗は、貴族の資質を問う【大審問だいしんもん】の奇跡を持つ。

大審問を受け、その行いが貴族に相応しく無いと判断されれば、絶対の死を与える制約を受けるのだ。


 それだけに他の貴族に対する圧倒的な優位を維持しているといえる。


「私達の代で必ず大戦は起こるのですものね。継承は早いほうがいいのね?」


「そうだな。壁が消えれば強力なアトラス達がやってくる」


 敵となったアトラス達は恐ろしい。

天変地異のごとき力をふるい、町や村など一人で滅ぼすほどの力を持っている。

 それ故に帝国に忠誠を誓うアトラスの王達は誰よりも頼もしい味方である。

帝国を構成する8つの王国の中で、半分の4つの王国がアトラスを王に頂く国々だ。

 二つの種族の混血によって、今は神話の時代のような力を振るうアトラスはほとんど居ない。

それでもアトラス族こそが帝国にとって、今までの最大の脅威でこれからも変わることはない。


 アトラス達の目的。


それは世界を破壊することで秩序の神に世界の再創造を行わせること。遙か昔、この大陸には二柱の神がいた、それは秩序の神と変化の神という姉弟神。

 ある時、弟である変化の神はこの世界が完全でないことに怒り、自らの子であるアトラスに世界の破壊を命じた。

 それまで全ての人類の王として君臨していたアトラスは人類に宣戦を布告。

戦いの果てに娘婿であった初代皇帝ヘルメス一世と、彼の子である吸血族バシレウスのウーティス一世の手によって、討たれることになる。


 人類の王国はヘルメスとそれに従ったアトラスの王によって統治される帝国と、アトラスの遺訓に従い世界を破壊することを使命とする王国に分かたれた。


以来1500年。二つの国の戦いは未だに続いている。


もっとも普段は女神の最大の奇跡の御業である虹の壁によって二つ種族は分かたれている。


 約500年に一度その壁が崩れる時、互いの存在をかけた戦いが始まるのだ。

前の大戦から500年が過ぎ、いつ虹の壁が崩れ去ってもおかしくはない。

つまり、今の皇帝の代で必ず戦争は起こる。


「わかったわ。それで候子殿下は、何故こちらに?」


「おいおい、殿下とかはやめてくれ。そういうのは苦手だ。ヘリオスで頼む。

それに言葉遣いも普通でいい」


 フィオナの問いかけに、後頭部を気恥ずかしそうにかきながらヘリオスはいう。

外見通り気さくな性格なのか、ヘリオスからは貴族らしい厳格さは余り感じない。


「それではヘリオスと呼ぶことにします。いいわね?」


「ああ、それで頼む。そうだな用件というのは、一つは保養だな」


「保養……つまり温泉に入りに来たということでいいのよね?」


「は、はい。そうなんですよ。ここのお湯はすごくいいってうかがいました!」


問いかけに瞳を輝かせて、メディアが答える。


「わかったわ。もちろん浴場は使うわよね?」


 村には当然ながら皇族専用の浴場がある。むしろ皇帝の湯治場なのだから当たり前の話だ。

ヘリオスも皇位継承権を持っているのだから、その利用権を持つ。


さらにいうならば、その浴場の管理こそが、本来の雪割り谷代官家の役目なのだ。

もっとも温泉に入るためだけに、こんな山奥に来たわけでないだろう。


「目的は何かしら? 私にとっては余り好ましい事態ではないかもしれないわね」


 保養目的というのは嘘ではないだろう。

だがしかし、それだけで来ることは無い。

 侯爵旗と紋章官。例えるなら常に抜身の剣を向けているような状態。

保養だけが目的であれば紋章官が不要だし、身の回りの世話をするお付きの者が必要だ。


 メディアも基本的なことはできるだろうが、本職は戦闘と行政の補佐である。役割が違うのだ。

必要な人員が居らず、必要でない供がいる。普通は目的もなくそのようなことはしない。


「まずはゆっくり温泉にでも浸かりたかったんだが……君に隠し事はできぬか」


ヘリオスは大きくため息をつく。


「ヘリオス様。よいのですか?」


「どの道話さねばならぬことだ。フィオナ殿、貴君に頼みたいことがある」


「騎士として。でしょうか? それとも私個人に?」


「できれば個人的に協力して欲しい。召還状は使いたくないからな」


 元帥の位を襲名していなくとも、ヘリオスは成人した大貴族。独自に騎士団を創設する権利を有している。召喚状をしたためることで、騎士を招請することができる。


つまり有無を言わせずフィオナを従わせることもできるのだ。


「私ができることなら、協力するわ」


「そう言ってくれると助かる。察しはついていると思うが……」


「はい」


フィオナにはひとつだけ心当たりがあり、むしろそれ以外に無いとも言える。


「現在行方不明である貴君の婚約者にして帝国男爵位継承権者、リアム・ライアン捜索の協力を願いたい」


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