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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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デルフォイ~強欲のミダス:3

 彩眼族イーリスは、生まれついて高い魔法の資質を持って生まれてくる。

だが、身体的な強さは他のアトラスの種族に比べて脆弱で、少し修行を積んだ人間にも負けてしまう。


 そしてその血の持つ特性故に人目を避けて逃げ続けなければならない。

もちろん表向きは帝国の域内であれば保護されることになっているし、ここにいる二人の騎士ならば法を破ることも無いだろう。


 しかし人は弱い生き物だ。

自分が死へ至る病に冒された時に、それを癒やす手段があれば、それでも正気を保つのは難しいだろう。

だからこそ、人目を避けて生きなければならず、この少女は幻の種族なのだ。


「お義父様は売られそうになるわたくしを、こちらのテオドリックと一緒に助けてくれたのです。テオドリックもとっても強い騎士ですのよ」


「お、お嬢様。おやめください。私などこちらのお二人に比べれば取るに足りません」


「あ、もしかしてミダスさんがお金で買ったと噂されている騎士って……」


「左様。私めにございます」


 悪びれもせずにテオドリックはいう。


「だけどお金で買ったわりには随分と仲が良いように見えるのだけど?」


「テオドリックはお義父様のかけがえのない友人です」


「二人とも、それで間違いないのか?」


「ばじがいございばぜん」


 どうも二人を見る限り、世間で言われているような悪党にはとても見えない。

特にゾエなど平気で売り渡しそうなイメージだっただけに意外だった。


「お義父様、ちょうど良い機会ですし今月の薬の時間にいたしましょう。お口を開けてくださいませ」


 ゾエの言葉に嫌々ながら口を開けるミダス。

 

 ゾエは自分の指の先を小刀で少し切ると、滴る血をミダスの口に注ぐ。

ほんの数滴流し込まれた時点で、ミダスはその手を掴んだ。


「ゾエ。それ以上はやめなさい。私は血を絞り取るためにお前を娘にしたのではない」


 先ほどまでのジャリジャリとしたささやき声とは違い、低く明瞭な声でミダスはいった。

これがイーリスの血の力だというのなら、ミダスのこの身体は呪いなどでは無く病だということ。

噂に違わず、わずか数滴の血でここまでの効果が現れるとは!


「ミダス殿! 言葉が! それが彩眼族イーリスの血の力でござるか」


「その通りです。デメトリオス殿。私は貴方がたにご協力する見返りとして、ゾエの身の安全を保証していただきたいのです」


「それならば俺がコリントスの……いや、デルフォイの名においてそれを保証しよう。だからリアム・ライアンについてしっていることを何でも教えて欲しい」


「承知いたしました」


 そしてミダスの口からデルフォイでのリアムの動向が語られることとなる。

元々ミダスは身体を鉱石で覆われていく病に冒されていた。

 そのためかはわからないが、手に触れたものも徐々に石になり、それが石であれば宝石に変えることができるのは世間に語られている通りだ。


 ただしそれは魔法のようなものであり、無制限に使える力では無い。

病のため身動きが取れぬので友人であるテオドリックと一緒に商会を立ち上げたのだという。


 ミダスはライアン家とは先代のイントッシュ男爵時代からの付き合いがあり、ゾエを養女にするまでは雪割り谷から薬草を買っていた。


 だから下働きをさせて欲しいとリアムに頼まれた時は喜んで協力を申し出たのだという。


「それでだいたいの事情はわかりました」 


「フィオナ様。たったそれだけでわかるものなのかしら?」


「リアムは徹底的に自分が何かしたという証拠を隠したがったのでしょう。『ミダスの使い』の立場なら調べ物も買い物も何でもミダスさんの名前でできるでしょ?」


「そうか。考えたな。デメトリオス殿さえ黙っていれば、自由に動けるのか」


「そういうことよ。商館長がたまたま町で彼を見かけなかったらお手上げだったわね」


「ここ一月ばかり姿を見かけないが、彼の身に何かあったのでしょうか?」


 テオドリックは心配そうにいった。彼はテオドリックからも剣を学んでいたらしくデメトリオス同様に弟子の行方が知れないという事態を憂慮していたのだ。


「私にも心当たりはあります。もしよろしければ、しばらくこちらにお世話になりたいのですがよろしいでしょうか?」


「歓迎しよう。フィオナ・グレン。ちょうど娘にも勉強を教えたかったところだ。屋敷にいる間はゾエの家庭教師をお願いしたい」


「フィオナが世話になるなら、俺たちも世話になっても良いか? どうにも城の中は広すぎて落ち着かないんでな」


「殿下がこちらに逗留なさるなど身に余る光栄です。こちらからお願いしたいくらいだ」


「ああ、そうだ。貴殿の異名だが、話を聞いた限りでは醜きミダスではあまりだろう。だからといってゾエや貴殿の身を考えれば、虚仮威しも多少は必要なのは間違いない」


「そうで……ございますな」


「故にこれからは『強欲のミダス』と名乗るがいい。なかなかにはったりがきいているだろう?」


「ハハハ。全くですな。私はゾエやテオドリック。それに商会の皆を手放したくは無い。これからはそう名乗るといたしましょう」


 話を聞く限りでは、ミダスは強欲とは縁遠い人物のようにも思えるが、良くも悪くも世に流布する自らの悪評をも身を守る手段としてきた彼のこと。意外にもその提案には乗り気だ。


「まぁ、そういうわけだ。当然デメトリオス殿にもつきあってもらう」


 そういって懐から取り出したのは召喚状。

ヘリオスはそこににこやかにデメトリオスの名を書き込んだ。


「これよりしばらくはデメトリオス殿には我が騎士団の一員になってもらう。よろしく頼むぞ!」


「なんと!」


 フィオナの時とは違い、有無を言わさず召喚状を使った。

一見すると乱暴な行為にも見えるが、弟子の身を心配するデメトリオスが本来のマケドニア騎士団から離れて行動するためには、これはどうしても必要なことなのだ。


 それだけに驚いた声とは裏腹に、デメトリオスも笑顔を浮かべていた。

ようやくリアムのいた場所に追いついたのだ。


 後は彼を見つけ出すだけだ。

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