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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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不吉の影:1

「それにしても、随分とリアムから聞いておったのとは印象が違うのだな」


「私のですか?」


 リアムのことを知る人馬族ケンタウロスデメトリオス。

夜更けに訪れた彼のために、フィオナは薬草茶の準備をしていた。

 本当は暖めた牛乳で抽出するのがよいのだが、旅の途中に贅沢は禁物。

手早く全員分の器を用意して注いでいく。


「これはこれはかたじけない。そうだ、事あるごとにだな。その、なんだ……」


「そこまで言いにくいことなのですか?」


「いや。そういうわけではござらん。リアムの奴はフィオナ殿のことはいつも褒めていたが、胸が……だな。慎ましやかというかなんというか」


「!!!?」


 いわれて胸元を押さえるフィオナ。最初に勘違いされたのは胸のせいかと気がつき首根っこを掴まれた猫みたいな目で周囲を見るメディア。


「もーーーーー。何考えてるのあのバカーー。リアムだってチビのくせに私の胸のことなんてどうだっていいじゃない!」


「せ、先生!?」


「だいたいそんなに胸の大きさが気になるなら、今の私を見て腰を抜かせばいいのよ! もう昔の私じゃないってことを嫌ってほど教えてやるわ!」


 いつも冷静で思慮深いはずのフィオナが顔を真っ赤にしてブンブン手を振り回していた。

メディアは半年間も彼女の生徒であった時にも、こんな姿は見たことがなかった。


「落ち着かれよ。フィオナ殿。二年もあれば人は変わるものでござる。リアムとて出会った頃はまだ背も小さく力も弱かったが、最近はそこのヘリオス殿と変わらぬくらいに成長しておる」


「え、そんなに背が伸びたんですか?」


 憑きものが落ちたように落ち着きを取り戻したフィオナにデメトリオスは何度も肯く。

意外というかなんというかなんともいえない複雑な表情をメディアは浮かべていた。

 数ヶ月自分の方が年上だったからと、ことあるごとにお姉さん風を吹かせていた少年がそんなことになっているとは。


 嬉しいような寂しいような不思議で複雑な感情がわき上がってくる。


「ちょうど一年半前だ。この森で修行中にあいつと出会ったのはな。騎士認証を受ける前にやることができたとかで、デルフォイとこの森を往来しておった」


 デメトリオスの話をまとめると、騎士として武芸の修行をしていた彼がリアムにあったのは一年半前。

ここから少し離れた今は使われていない山小屋で、薬草などを収集しながら生活していたらしい。

デメトリオスと出会ってからは、彼に食料や薬草を供給する代わりに武術を学んでいたという。


「リアムはずっとここにいたわけではないのだな? それに騎士認証も受けるつもりだったと?」


「そうだ。問題が解決すればすぐにでも帝都に行きたがっていた。デルフォイでは有名な商人のミダスのところに出入りしておったようだ」


「『醜きミダス』なら知っているわ。たしかに隠れるならそこが一番適切よね。デルフォイと聞けば心当たりはそこくらいしかないわ」


「フィオナ殿はミダスを知っておるのか?」


「直接はしらないわ。ただ、正直あまりよい話を聞かない人物だし、問い合わせても証拠がなければ、ごまかされるだけでしょうしね」


「あー、わたしも父に聞いたことがあります。帝国騎士の名跡を買ったとか密輸に関与しているとか、芳しくない噂の多い人ですよね?」


 ミダスは元々は有角族タイタンであるはずなのだが、全身をゴツゴツとした溶けた岩のような皮膚に覆われているらしい。

 外見はとても醜く、触れた物を石に変える呪いを受けているといい、その力の応用でどんな屑石でも宝石に変えてしまうといわれている。

 何度も騎士認証を受けようとしたが、騎士に相応しくないとして貴族に列することができずに、終いにはその有り余る財で騎士を買ってしまったのだとか。


 そして傭兵崩れの荒くれ者達を騎士団と名乗らせて好き放題に商売をしているという。


「ただ表だって悪事を行ったという話も聞かないからな。人の噂ほど当てにならないものもない」


 メディアのいうことをすぐには肯定せずヘリオスはいった。

帝国の敵を断罪する使命を帯びているからこそ、そこは慎重にならねばならない。

それを忘れてしまっては勇者ではなく、ただの処刑人になってしまう。


「デメトリオスさんが見た感じではどうだったんですか?」


「噂に違わぬ醜い外見ではあったが、そこまで邪悪な者ではなさそうでござった。ただ、身の回りの世話を奴隷にさせているらしいとは聞く」


「禁止されてる奴隷を。ねぇ。あまりいい趣味とはいえないわね。でも、それをリアムが看過したとも思えないのだけど」


 記憶の中の婚約者リアムは、そういう理不尽や悪事に対しては怒りを露わにする性質だった。

そんな彼が何もいわずにいたとも思えないのだ。

 彼は半月ほど前にデメトリオスが戻ってきた時には山小屋にいなかったらしく、狼煙を見たデメトリオスはそれをリアムが上げたものだと思ったのだという。


「それはミダスに直接尋ねてみるがよかろう。拙者は明日の朝アンジェロ殿とこの後のことを話し合ねばならぬ。先にリアムの山小屋にいっていてはくれまいか?」


 当たり前と言えば当たり前なのだが、同じ帝国軍の戦士であるため、アンジェロとデメトリオスは知り合いだ。

 

 亡くなったカルロの処遇については二人に任せるのがいいだろう。


 できればデメトリオスからアンジェロにリアムの消息を伝えてもらっていたら、ここまでの苦労はなかったのかもしれないが、そこは約束を守る義理堅さにかけては定評のあるケンタウロス。


 それだけでもこの男は信頼に値する人物であるとわかる。


「ありがとうござます。少なくとも彼は騎士認証から逃げたのでないとわかっただけでも安心しました」


今のフィオナにとっては、何よりもその報せが嬉しかった。

次回デルフォイ到着までで一区切りですが、まだまだ物語は続きます。

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