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村娘が世界を変えてもいいじゃない!  作者: 紀伊国屋虎辰


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森を越えて~最後の山小屋:2

「このような夜更けにもうしわけない。誰ぞ、おられぬか?」


 ドアをノックする音と共に野太い男の声がする。

それだけではない。ジャラジャラと何かが擦れるような音。これは鎧の音か?。


「うぅん。どーなたーでーすかー」


 寝ぼけまなこをこすりながら、目を覚ましたのはメディア。

隣ではやはり目を覚ましていたヘリオスが戸口を見つめていた。


「拙者はマケドニア騎兵団ヘタイロイの騎士。デメトリオス・ファシス。戦死者有りのしらせを受け、急ぎ駆けつけ申した」


 マケドニアはケンタウロスの王国。その主力部隊である騎兵団ヘタイロイは、ケンタウロスの重騎兵カタフラクトゥスによって編成される帝国軍の主力ともいえる強力な軍団。


 強靱な膂力で投げ槍を集団で投擲する戦法で知られている。


 それだけでも脅威なのに、さらに鱗のような鉄板を幾重にも重ね合わせた騎兵鎧の防御力と、長大な騎兵槍で敵の戦列をズタズタに引き裂く突撃力を持っている。


「お役目ご苦労。中に入られよ」


「かたじけない」


 そのまま扉を開けると、半人半馬の巨体が月の光を浴びて輝いていた。

騎兵鎧の隙間から覗く腕は丸太のように太く、スカート状の騎馬鎧に覆われた馬体は同じく普通の馬の倍近い太さがある。

 筋骨隆々という言葉通り盛り上がった筋肉に太い血管が浮き出ていた。その姿はそびえ立つと表現にするにふさわしい巨躯。


「ええと、フィオナ先生はどうします?」


「疲れているだろうし、起こさないでおこう」


「他にもお連れの方がおられるのか。あまり騒がしくしない方がよいな」


 いう間に、デメトリオスの体躯はみるみる収縮して人と同じ二本足、ヘリオスと変わらないくらいの身長になる。

 騎馬鎧であった部分は人の姿になると背後が長いスカートのようで、前方は膝までしかないので燕の尾ように見える。


 彼らのこのスタイルはおしゃれ好きの他の種族の貴族達の着る乗馬コートのモチーフにもなっている。

数ある獣人の中でも半人半獣の姿を取る種族は珍しい。

 そしてケンタウロスは他のアトラス達とは違い、人間と積極的に交流することでもしられている。

今では騎兵団の三分の二は統馬族ラピテースと呼ばれる変身能力を失った者達だ。


「急いで参ったのだがこのような刻限になってしまった。重ねてお詫びいたす」


「わざわざこの夜道を来られたのだ。感謝こそすれ責める理由はない。メディ、鎧を外すのを手伝って差し上げろ」


「はい。かしこまりました」


 どっかりと腰を下ろすのを見て、メディアは鎧の横の留め金を外す。


 人馬族ケンタウロスの体力であれば、鎧を着たままでも問題は無いのだが、やはり人間の姿の時は外していた方が寛げる。


メディアが鎧を外している間に、ヘリオスは自己紹介と狼煙は山の上の有翼族に向けたものであるとの説明を済ませていた。


「なんと、コリントスの勇者殿でござったか! てっきり、リアムが狼煙をあげたのだとばかり…………」


「えっ? 今何って?」


「デメトリオス殿。そのリアムというのは、まさかリアム・ライアンか?」


 まさかの名に驚きの声を上げる勇者主従。自体をまだよく理解できていないデメトリオスはその様子に首をかしげた。


「その通りだが、何をそこまで慌てておられる? む、よもやそちらのお嬢さんがフィオナ殿なのか?」


「いや、こちらの者は私の紋章官、メディア・ラプシスだ。そちらで寝ているのがフィオナだが…………メディ。急いでフィオナを起こしてくれ」


 しばらくして、寝起きの眠そうな目をこすりながら、フィオナはデメトリオスの話を聞いていた。

その様子は怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもなく、ただただ事実を把握しようと努めているように見えた。


「話はわかりました。ですけれど…………なんで連絡の一つも寄越さなかったのです?」


「わからぬ。拙者はどうしても帰れない用事があるとしか聞いてはおらぬ」


「考えたわね。この場所なら絶対に雪割り谷の人間と会わなくて済むもの」


「それはどういうことだ?」


「私達は山を越えてこなければいけないでしょ? その時に絶対に火は使うのだし村から誰か来るならわかるわよね?」


「デルフォイからの道ではここには来ないのか?」


「わざわざ帰り道として使えないこちらには来ないもの。特にこの辺りの薬草の植生はもう少し北とも同じだし鷲獅子のいる森を選ぶ理由はないわ」


「つまり最小の監視でやりすごせるのか」


「常々リアムは申しておったな。フィオナの考えの裏をかかなければ絶対に探し出されるであろうと」


「嫌な信頼のされかたね…………あのバカ」


 それでも無事であったことに安心したのか、言葉の割には表情は柔らかい。


「それならなぜリアムさんはそこまで頑なに帰ることを拒んでいたかですね」


「さすがに人の家庭の事情ゆえ、そこまで込み入った話は尋ねなかった。ただ…………いつも拙者にはフィオナに逢いたいと申しておったぞ」


「とにかく、無事であることが確認できて良かったわ。明日はその山小屋を見て町に向かいましょう。ずっと森の中にいたのでなければ、行先に心当たりはあるわ」

短いですが最新話です。よろしくお願いいたします。

誤字などありましたので改訂しました。

統馬族ラピテースは、元ネタのギリシャ神話では、馬術に長けた部族でケンタウロスの親類に当たります。この世界ではケンタウロスとアルゴスの人間族との間に生まれた子孫で、二本の角の生えた龍角馬ブーケパロス(ブケファラス。原語では雄牛の頭の意だが牛角馬ではあんまりなので)を操ります。

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