王女
ヘドリックがアスター侯爵領に戻り、さらに活気が増すアスター侯爵領。
そこへ、騒がしい来客があった。
隣国で薬草の栽培をしていたヘドリックに惚れてしまった隣国の王女で、ヘドリックを追いかけてわざわざアスター侯爵領までやってきた。
彼女はナージャ王女と呼ばれ、エレーヌに結婚を申し込んでいたシャリージャ殿下の妹で、隣国の第9王女であった。
アスター侯爵領にやってきたナージャ王女は、表向きの名目は療養目的となっているため、療養施設に滞在しているが、健康そのもののため、毎日、ヘドリックの研究室や診察室に入り浸って、ヘドリックにまとわりついていた。
エレーヌは、ヘドリックと一緒に仕事することが多いためか、ナージャに目の敵にされて、やや面倒な思いをしていた。
そして、エレーヌは、クリーシャやナージャなどの隣国の王族の女性は随分、情熱的なのだなと思う一方で、療養で来たのでないならヘドリック先生にまとわりつかずにさっさと隣国に帰るといいなという気持ちでいっぱいになっている自分に気づいた。
これは嫉妬?
単に病気じゃないのに療養目的と言われて来ていることへの反発心かも知れないが、これは兄を取られそうな妹の気持ちに近いものなのかもと、初めての気持ちに悩むエレーヌであった。
実は、エレーヌは、先日、ヘドリックに、婚約破棄して、新たな婚約候補達にも悩んでいる自分に色々と親身になってアドバイスをもらい、そんなヘドリックを父親よりも何て頼りになる方だ、父親は申し訳ないから兄として尊敬しようと思ったばかりであった。
エレーヌが悶々と悩みながら、ヘドリックと一緒に仕事をしている間にも、ナージャはエレーヌの目の前でヘドリックにアタックする。
「ヘドリック様!私は、ヘドリック様の妻になりとうございます」
「子供はちょっと……」
「いいえ!もうわたくしは15歳ですから、大人です」
「うーん、あなたと結婚する決意があったら、先に17歳のエレーヌと結婚する方を選びますよ。ね、エレーヌ」と大人の色気を醸し出す、エレーヌをあたかも口説こうとしているかのような雰囲気のヘドリックに、思わず赤面してしまうエレーヌ。
「……ヘドリック先生、そういう冗談は苦手です」
「ふふっ、相変わらず真面目な性格だね。
そんなところも、とても好ましいよ。
……ナージャ殿下は少し、エレーヌを見習って、落ち着きなさい。
成人したというのなら、その猪突猛進なところは直さないといけないよ」
「違います!
恋に一途なだけです。それはもう国を超えるくらい!!」
「それを猪突猛進と言います。
公務も放棄して、王族としての義務をどうお考えなのですか?
あなたの教育係の方から私宛にあなたの件で手紙が来ていましたよ。
すぐに戻るように説得して欲しいって。
ろくに許可も得ず、黙ってでてきましたね?」
「ぐっ!」
「できるだけ早く帰国をされた方が良いですよ」
「嫌です!
ヘドリック様と一緒でなければ帰りません。
それに、私の伯母上は遠い海をも超えて恋人を追って行ったと聞きます。
それに比べれば、私は隣国ですし、近い方ですよ」
「……それは恋人同士の場合だからでは?
私達はただの知り合いですし、私には仕事もありますので、隣国には当分行く予定がないので、お一人で帰っていただけますか?」
「では、恋人になってくださいませ、ヘドリック様」
「お気持ちは有り難いのですが、お断りいたします。
教育係の方には迎えを寄越すように連絡しておきますね」
「いやです。
ここには療養目的来ておりますし」
「何の病気もないし、健康そのものですよね」
「いえ、致命的な病にかかっております。
ヘドリック様しか治せない病です!」
「え?それはきっとここでは治せませんよ。
教育係の方の元で精進してください!」と言って、(馬鹿につける薬はありません)と心の中で思うヘドリックであった。
「いえ、ヘドリック様に恋して煩った、恋煩いという病です!
どうかヘドリック様が治してくださいませ」
「無理です」
「そんな!即答!?」
「はい、そうです。
では、これから患者様を診るので、ご退出してくださいね」と言って、ナージャを追い出そうとするヘドリック。
「その女は残っているのにー!!」とエレーヌと二人っきりにさせまいとするナージャ。
「彼女も仕事ですから、また後で、ナージャ殿下」と言ってナージャはぽいっと追い出された。
「いやー、騒がしくしてごめんね、エレーヌ」
「……いえ、ヘドリック先生もお大変ですね」
「……全く。嵐のようだよね、彼女」そう言って、ため息をつくと、仕事に取り掛かるヘドリックであった。
一方、追い出されたナージャは、ヘドリックをどうすれば落とせるか、療養施設の廊下を歩きながら考えていた。
すると、その廊下にいたアスター侯爵領の薬師達が、面白い話をしているのが聞こえた。
「え?惚れ薬?」
「違う!媚薬の方だよ」
「でも、本当は不妊用の薬なんだろう?」
「そうなんだけど、ヘドリック先生が作ってみたら、男性の方にも媚薬効果があったらしく、二人で飲めば100発100中らしいぞ!」
「すごいもん、作ったな~。
さすが、ヘドリック先生!」
「ああ。ある意味、危険なんで、一応、鍵のかかるところで保管されているらしい」
「へー、どこにあるって?」
「たぶん、ヘドリック先生が管理している南棟にある薬の保管室じゃないか?」
「へー、探しに行かないか?
今なら先生も診察中だから、大丈夫だよ。
本当は試したいけど、とりあえず、見てみたい!」
「しょうがないな、見るだけだからな」
そういって、南棟に向かう二人。
ナージャはその話を聞いて、ひらめいた。
それだ!
その媚薬をヘドリック様へ飲ませて、ヘドリック様が媚薬にやられたところなら、落とせるし、万が一、妊娠しても王族を妊娠させたとあれば、彼はもう責任をとるしかないはず!!
そう思って、ナージャは二人の後を、こっそりつけていった。
南棟にて、媚薬を見に来た薬師達は、薬師の特権でもっている合鍵を使い、2部屋続きの広々とした薬の保管室の棚にあったその媚薬を見つけ、興奮していた。
「おおー!うっすら桃色なんだ?
媚薬っぽーい!」
「ああ、その桃色は、女性が妊娠しやすい成分の入った果実の色らしいぞ?」
「へー!」
一通り、盛り上がった薬師二人はその薬を元の棚に戻して、保管室を出て行った。
続き部屋の隣室に潜むナージャに気付かずに。
薬の保管室は外からは鍵が必要だが、中からは鍵を開けて出られるので、ナージャは二人が出ていくと隠れていた所からでて、すぐ、棚にある目的の薬を二人分、手に入れて、保管室を出て行った。
さて、これをどうやってヘドリック様に飲ませるか?
ナージャは色々と考えて、ヘドリックの研究室にまた再び乗り込んだ。
「どうされましたか?ナージャ殿下?」と研究室に来たナージャが、いつも以上にそわそわしているため、不思議そうにするヘドリック。
「あ、あの、私、少しでもお役に立とうと思いまして、お茶の入れ方を練習しましたの。
よろしければ、その成果をみていただきたいのですが……」
「いえ、結構です。
自分でもう用意しておりますので」ヘドリックは飲みかけのカップを掲げる。
「で、では、自分の分を入れてもよろしいですか?」
「どうぞ、お好きにお使いください。
カップはそこの棚にありますので」と言って、自分の仕事に戻るヘドリック。
「では……」
ナージャがお茶を入れるふりをして、カップを落とし割ってしまう。
ガッシャン!
「きゃあ!」
「大丈夫ですか?ナージャ殿下!」と思わずヘドリックは、ナージャへ駆け寄る。
「ご、ごめんなさい。私……」と言って割れたカップを拾おうとするナージャを、止めるヘドリック。
「ああ、割れたカップに触ってはいけません。
ここは私が片付けておきますから」
そう言って、ヘドリックが掃除道具を取りに行っている隙に、ナージャはヘドリックの飲みかけのカップへ例の媚薬を入れた。
掃除道具を持ってきたヘドリックは、割れたカップを素早く片付け、ナージャにもお茶を入れてあげた。
「まあ、ありがとうございます、ヘドリック様。
あと、カップ、本当にごめんなさい」
「いえ。手は切っていませんね?
今後はよく気を付けてくださいね」と言って、自分の飲みかけのカップから飲み物を飲んだヘドリック。
しばらくすると、ヘドリックは自分の動機が激しくなってきたことに気づき、体の変化が起きていることにも気づいた。
「え?あれ?」と戸惑うヘドリックに、ナージャは妖しく微笑む。
「まあ、どうされましたか?
ヘドリック様、お顔が真っ赤ですわ!ふふふ」
そこで、この症状がナージャの仕業と気づくヘドリック。
「……私に何を盛ったのですか?」
「ふふふ、これですわ!」と言って、例の媚薬のもう1本を見せるナージャ。
「!!一体、それをどこで?
……薬師の誰かを買収しましたか?」
「いいえ、どなたも。
たまたま通りがかりに知って、頂きましたの」
「ナージャ殿下。それは泥棒では?
やってはいけないことです」
「……ええ、ごめんなさい。
でも、こうでもしないと、ヘドリック様は私を相手にしてくださらないでしょう?だから……」
「そんな薬を盛られても相手にする気は全くございません。
今すぐ、出て行ってください!」とナージャを追い出そうとするヘドリック。
「待って!」と言ってナージャは持っていたもう1人分の媚薬を、ヘドリックが止める間もなく服用した。
「ああ!何てことを!!」
「ふふふ、これでヘドリック様とは、お互い、媚薬で熱くなったもの同士、励みましょう!
それが媚薬の一番簡単な解毒方法ですわよね。
さあ、さあ、さあ!!」と言ってヘドリックを煽るも、ヘドリックは媚薬で息苦しそうにしていても、冷静にナージャの襟首をつかみ、ずるずると引きずって、無言で研究室の外へぽいっとナージャを投げ捨てた。
「ちょっとー!!
ヘドリック様!?
ここを開けて!開~け~て~!!」とナージャが扉をどんどん叩いて叫んでいるところへ、エレーヌが隣国からわざわざナージャを迎えに来た教育係ジャドを案内してきた。
「ああ、ナージャ殿下。
やはり、こちらにいらっしゃったのですね。
殿下のお迎えの方がみえられましたよ!」と仕事モードのエレーヌ。
「やだ!何でジャドが来るの?
それより、私はヘドリック様のところへ……」
「ナージャ殿下。
すぐに帰りますから、荷物をまとめてください。
国王からもすぐに戻るように言われていますよ。
一応、王女なんですから勝手に隣国に行って言い訳ないでしょう?」
「いやー!ヘドリック様~!」とナージャが騒いでも、ナージャの教育係のジャドは慣れたもので、「はいはい、後でお別れのご挨拶をしましょうね~。まずは荷物まとめますよー」と言って、ナージャを荷物のように抱え、エレーヌにナージャの部屋まで案内してもらうことになった。
「こちらがナージャ殿下のお部屋になります」
「ああ、わざわざありがとうございます。
お礼や施設使用料なとの料金の請求は後日……」
「あ、それは大丈夫ですよ。ナージャ殿下には前払いで頂いておりますから。
清算書を後日、こちらからお送りいたしますね」
「そうですか。色々とお世話になりましてありがとうございます」
「いえ、無事にナージャ殿下もご帰国となってよかったです。
あら?ナージャ殿下?お顔が真っ赤ですが、お熱でも?」
そう言って、エレーヌが顔を真っ赤にして、息苦しそうにしているナージャを診察しようとすると、バシッとナージャに手をはたかれたエレーヌ。
「だ、大丈夫よ!
原因はわかっているもの。
ともかく、私をヘドリック様のところに急いで戻して!
私がいなくて、ヘドリック様も苦しんでいるから」
「?どういうことでしょうか?」
「いいの!あなたは知らなくていいから、私をヘドリック様のところへ……」
「ナージャで・ん・か?
いい加減にしましょうか。
さすがの私も怒りますよ。
そもそも、なぜナージャ殿下はそんな状態なんですか?」とジャドがナージャを叱る。
「うるさいわね、ジャド!
媚薬のせいだからよ!!
ヘドリック様と一緒に飲んでもらったから、これから盛り上がるところだったのに、邪魔をして!!」
「え?媚薬?」
はっしまったと急いで口を閉じるナージャであったが、既に遅く、エレーヌは、大体、状況を察した。
「……ヘドリック先生に同意なく媚薬を飲ませ、あなた自身も飲んだために、今、媚薬の効果が出て、そうなられているのですね」
「くっ、同意はこれからすぐにとれるところだったわよ!ふん!!」
「……どの媚薬をお使いですか?」とエレーヌはすぐにヘドリックを解毒するために聞きだそうとする。
「あなたに教える訳ないでしょう!?
さっさとどこかに行ってよ!」
「あー、これじゃないですかね?」とジャドが勝手にナージャのドレスに隠していた小瓶を取り出す。
「中が空ですが、瓶からわかるかも。
調べてみます。
ナージャ殿下にはどなたか看護を付けさせていただきますから、少々お待ちを!」
「いらないわよ!
ヘドリック様のところに行くんだから!!」
「ああ、そうですね~」と言ってジャドはエレーヌに耳打ちする。
「ナージャ殿下の媚薬の症状緩和は私が責任もってするので、朝までお構いなく!」と意味深にエレーヌへ伝えるジャド。
それを聞いて、エレーヌは二人の関係がよくわからなかったが、性に幅広く対応する隣国ならそういうこともあるのかもと思った。
「……では、ナージャ殿下をおまかせいたします。
もし、何か治療が必要なようでしたら、ナージャ殿下担当の薬師を呼び出すようにお願いいたしますね」
「はい、はーい!おまかせあれ~」と笑いながら返事をするジャド。
「ちょっとあなた、待ちなさいよ!
まさか、ヘドリック様のところに行く気―!?」
エレーヌは、すぐにナージャの持っていた空の小瓶について、詳しい薬師に確認しに行き、中身が何か確認すると、その後、急いで、ヘドリックの研究室に向かった。
一方、ハア、ハアと息苦しそうにしながら、エレーヌの後を追っかけて行こうとするナージャ。
ただ、媚薬の効果のせいか、口は動くが、息苦しく、ふらつきがでてきた。
「そ、そうだわ、ジャド!
ヘドリック様のところへ私を連れていって、すぐに!」
「いえ、ヘドリック様のところへは先ほどの彼女が行かれておりますので、お邪魔になりますよ」
「あの女にヘドリック様を盗られてなるものですか!!」
「いやー、見た感じ、明らかに邪魔なのはナージャ殿下ですよ。
ヘドリック様のところにいくのはおやめなさい」
「行くのー!」ゼイ、ハアしながらも、ナージャが訴える。
「じゃあ、お一人でどうぞ。
行けるのならね……」
「くっ、ハア、ハア、足が萎えたみたいで無理。
ジャド、お願い連れて行って!」
「駄目ですよ。どうしても行くなら自力でどうぞ」
「くっ、いいわよ!」と言って、ナージャは部屋から出て、壁伝いに熱でふらつく体でヘドリックの元へ向かおうとする。その後ろからジャドが声をかける。
「……ナージャ殿下。
今、その状態で、1人で外に行ったら、どうなるかわかりますか?」
「途中で倒れる……」
「倒れるだけならいいのですけど、おそらくヘドリック様のところに行く前に、見ず知らずの方にその誘っているとしか思えない様子を見られ、介抱を申し出られたり、最悪、襲われたりするかもしれませんね~。
今のナージャ殿下は男から見て、完全な据え膳ですもの」
「わ、私は王女よ!そんな見ず知らずの方に……」
「では、お選びください。
よく知る私にその身をゆだねて、薬の症状を緩和するか?
見ず知らずの者に介抱してもらうか?」
「どっちも嫌よ!
ヘドリック様のところに連れて行って!!」
「だから、先ほどの彼女ときっと薬の症状を緩和中ですって。
そんなところに連れて行けませんよ。
そんなに振られた現場が見たいのですか?
十中八九、相手にされていないし、私へ早急に迎えにくるようにあなたを迷惑がっている相手ですよ。
万が一、ヘドリック様があなたを今回だけ相手しても、その後のあなたは絶対に相手にされず、幸せになれないし、たとえ妊娠しても、母子ともに、ヘドリック様に疎まれる可能性が高いですよ」
「ぐっ!うっ、うう、うっく、うわーん!ジャドがひどいわ~!!」ととうとう大泣きをするナージャ。
「本当にひどいのは、私の気持ちをないがしろにして、美形だけど、あんな詐欺師みたいなおっさんに走ったあなたの方ですよ」
「……ぐすん、うっく、ジャ、ジャドの気持ちって?」
「……ああ。もしかして、全く気づいていなかったのですね?」
「何をよ!?」と言って潤んだ瞳で見上げてくるナージャに、ジャドも我慢がそろそろきかなくなってくる。
「私はずっとナージャ殿下をお慕い申しておりました」
「ええ?うそ!!
あなたは随分前に、私をこっぴどく振ったじゃない!
私を好きになったのは、いつからよ!?」
「?それこそ、いつのお話でしょう?
ナージャ殿下に告白されたことも、振った覚えもございませんし、私は初めて会った時からお慕いしております。
元々、私はナージャ殿下が目当てで教育係になりましたし、国王陛下公認のナージャ殿下の夫候補ですよ」
「うそよ!そんなそぶりも見せず、口説かれたことなんてないわ!!
そもそも、教育係なのに、何で夫候補なのよ?」
「……ああ、それもご存じなかったのですね。
どの王女でも共通のことですが、その王女の教育係の中には王女の夫候補の男性が何人も含まれていたんですよ。
実は私もその1人でね。
ずっとアプローチしていましたが、勉強嫌いのナージャ殿下にはうるさがられて駄目かと思っていました。
しかし、こんな機会に恵まれるとは、隣国まで迎えに来たかいがありました」
「な、何のことよ?」
「つまり、その媚薬とやらの症状を私が責任もって直して差し上げます。
もちろん、その後もずっと責任とって面倒をみますから、ご心配なく!」
「はあ?どうしてそうなるのよ!?」
「ははは、私はナージャ殿下の夫候補の中で一番お買い得ですよ!」
「どこがお買い得よ!?」
「お買い得ですよ~。
将来は要職につく予定ですし、隣国まであなたをわざわざ迎えに来るほど慕っておりますし、どうか私と結婚してください」
「なんなの、そのさらっとしたプロポーズは?」
「ふふふ、ナージャ殿下が落ち着いたら、もっと熱いプロポーズをして差し上げますよ。
もちろん、受け入れてもらいますよ。
まずは、その媚薬の効果を解消しないと、お体に悪いですから」
「わ、わかったから!待って!!」
「わかったとおっしゃるのは何がわかりましたか?」
「……私、ジャドが初恋だったの。
でも、ジャドにはとっくの昔に振られたと思っていたから。
だから、振られた私にも優しかった、ジャドとは違った大人の魅力のあるヘドリック様に恋したの。
でも、ジャドも私のことが好きだったのなら、両想いだったのでしょう?
お互い、気づかずにすれ違っていたことがわかったの……」
「……それはつまり、私のプロポーズを喜んで受け入れてくださるということですね?」
「う、うん。こんな時だけど……」と言って、ナージャは熱い吐息をふうっと吐く。
「では、了解も得たことですので、早速、寝室に行きましょう!
もう限界なのではないのですか?」と言って、ジャドがあらためてナージャを見ると、全身真っ赤で目は潤み、呼吸も荒く、つらそうな様子であった。
ジャドにとっては、今すぐ食べて!と言っている様子でしかないが……。
ジャドはナージャを抱き上げ、ナージャの療養室にある寝室にさっさと向かう。
しかし、それでもすぐにそうなることに媚薬に侵されながらも多少、困惑するナージャであった。
「あ、え?ちょっと、ジャド!
あなたのプロポーズを受け入れるから、ちょっと待って!
気持ちの整理が……」
「あははは、そんなことおっしゃっている場合ではないですよ。
ナージャ殿下も限界に近そうですし、寝室にまできた男は待てないって、実体験で学習しましょうね?」
「えぇー!?ちょっとー!!」
ナージャの長い夜が始まった。
その後、3ヵ月もしないうちに、ナージャはジャドと結婚することになり、ヘドリックのことは忘れ、もうナージャは国を離れることもなく、要職についた夫と子供達と末永く幸せに暮らすのであった。