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エレーヌの選択

 エレーヌが婚約破棄されてすぐに、いくつもの縁談が、アスター侯爵家に舞い込んだ。


 エレーヌの父親であるアスター侯爵は、一度、婚約破棄された身のエレーヌに、今回は身分に関係なく、エレーヌ自身の望む相手を選ぶように言ってくれた。


 この国では縁談の申し込みには冊子サイズの本人の肖像画と結婚した際のメリットなどが書かれた書類が渡される。

 その書類は親が書くこともあれば、本人が書くこともある。

 たくさんある縁談の申し込みのうち、エレーヌは父親としておすすめの5人に絞ってもらって、そこから選びたいとお願いした。

 アスター侯爵がそれを聞いて、ニヤニヤしながら悪い顔で選んでいたため、何かあるなと思っていたが、その内容を確認してエレーヌは、実の父親ながら、その性格にちょっと引いた。


 まず1人目はマルス殿下。

 彼は、この国の第4王子で歳は6歳下の11歳。病弱のため幼い頃からアスター領にて療養にきていて、エレーヌが担当して治療をしていることからも、その病態などもよく把握しているし、エレーヌにとっては弟のように可愛いと思える存在である。

 無邪気な性格でエレーヌに懐いている天使のような子であるが、年下で、しかも王族なので今の関係以上に関わるのは、できれば遠慮したい。

 そもそも、何故、彼の肖像画や書類を一番のおすすめとしたのか。

 身分や年齢からも、ありえない相手なのに……。

 そこで、エレーヌは、この書類を書いたのが国王陛下だからと気付く。

 身分制のもと、王族や公爵は優先であるが、幸い、王命の婚姻申し込みではなかったので断るのは可能であることに安心する。


 2人目はシャリージャ殿下。

 彼は、隣国の第7王子で歳は22歳。

 マルス殿下のように、やはり幼い頃から病弱のため、アスター領にて療養にきていた。

 王族のため、エレーヌが15歳になり、仕事が一人前になるまでは挨拶くらいしかしたことがなかった。

 現在はもう健康そのもののため、治療も療養もいらないはずなのに、エレーヌが目的なのか、いまだに彼は度々、アスター侯爵領を訪れる。

 しかし、彼の側近から彼は従妹と婚約していると以前、聞いたことがあるのに、その婚約者はどうしたのだろう?と疑問に思うエレーヌ。

 どちらにしろ、隣国の王子でアスター侯爵家に喜んで婿に来てくれるとは考えにくい人物と判断する。


 3人目はエミリオ・クラーディス侯爵。

 彼は、アスター侯爵と同格の家柄で歳は25歳。

 若くしてすでに有能な侯爵当主として活躍していて、アスター侯爵領には働きすぎにより体調不良を起こして、療養にきていた。

 初めて会った時から彼はエレーヌを口説いてきたので、よく覚えている。

 しかし、彼も自分の領地のことがあるから、アスター侯爵家に喜んで婿に来てくれるとは考えにくい人物の1人であった。


 4人目はアレシス・マディーラ子爵。

 彼は、この国の宰相の息子で歳は23歳。

 カルディナン公爵家と同格のマディーラ公爵家出身で、彼自身の功績で王から子爵位を賜ったほどの実力者で、現在、宰相補佐をしており、将来の次期宰相と噂されている。彼も過労で倒れて、療養でアスター侯爵領にきて、エレーヌと出会い、初めはツンツンした態度であった。

 しかし、そのうち、クラーディス侯爵らと一緒になってエレーヌを口説きだした。

 そして、彼も次期宰相候補になるほどなので、アスター侯爵家に喜んで婿に来てくれるとは考えにくかった。


 そして、5人目は……。


 エレーヌは一通り、縁談の申し込み書類に目を通してから、アスター侯爵のもとに訪れた。


「やあ、エレーヌ!

 5人の縁談申し込み書類はもう読んだか?

 誰を選ぶ?」と明らかに悪い顔で聞く父親に、ため息がでるエレーヌ。


「……お父様。

 婚約破棄された私を慰めようと、気を使われたのですか?

 そうでなかったら、ふざけ過ぎていて、お父様がこの縁談の方たちを選択した意図が読めませんでしたわ」


「あれ?やっぱり誰も気に入らなかったのか?」ととぼけた口調の父親に、さすがのエレーヌもちょっとイラつく。


「お父様?アスター侯爵領のためにも、一人娘の縁談で、いつものようにふざけてはいけませんのよ?」


「あ、そういえば、エレーヌってば、さっきから口調が仕事モードだぞ!

 怒っているのか?」


「怒っておりませんが、呆れております」


「いやー、実はその5人は、どうしてもエレーヌとの縁談を知らせるだけでもいいからって申し込まれてね。

 断りたかったけど、いっぱい賄賂をもらってしまったから、やむなくエレーヌに渡したのだ」


「……わ、賄賂?」


「そう!エレーヌならアスター侯爵領のことを考えて、どうせその中の誰も選ばないだろうけど、エレーヌに縁談申し込み書類を見せるだけでも、くれるっていうから、もらっておこうと思って~」


「お父様……」


「なーに?」


「……だからですね」


「何がー?」


「だから、5人目の方が女性だったのですね!?

 クリーシャ様という隣国王族の女性の方からの縁談申し込み書類が入っていたから、何かの間違いかと思いましたが、わざとでしたのね?」


「あははー!クリーシャ様はシャリージャ殿下狙いだから、半ば本気だよー。

 エレーヌにぞっこんのシャリージャ殿下を落とすために、彼女はシャリージャ殿下、エレーヌとの3人で婚姻を結ぼうとしているんだよ。

 隣国はこの国と違って、地位が高いと女性でも後宮が持てたり、わが国だと重婚にあたる複数での婚姻をしたりと、幅広い婚姻の形が許されているみたいだよ。

 ちなみに彼女にも賄賂はもらった~」


「お父様……」


「うん、なに、エレーヌ?」


「その賄賂はすべて相手側にご返却願います」


「えー!それは無理だぞ!!」


「そうしない限り、お父様とは二度と口を聞きませんし、縁談はお母様とお爺様だけに相談して決めます」


「ええー!待って、エレーヌ~」


「もし返さないのならば、結婚式もお父様抜きで行い、子供が生まれてもお父様には絶対、接触させません。それでも良いのですね?」


「ひ、ひどいよ!

 エレーヌの結婚式も孫も楽しみにしているのに。

 エレーヌの意地悪!!」


「……意地悪とかのレベルの問題ではない事を自覚してくださいませ。

 自分の行いの方がいかにひどいか、おわかりではないようですね」


「だって、賄賂が魅力的……。

 いや、それにエレーヌにはあのボンクラみたいな駄目な男と結婚して欲しくなかったんだ。

 このまま、私が認めるほどのいい人物が現れるまで、しばらくは結婚しないで様子見にしよう!ね?」


「もしそれを本気でおしゃっているのなら、もう話はここまでにしますよ」


「うん?様子見にしてくれるってこと?」


「いいえ。お父様抜きで縁談を進める方針にいたします。

 まず、今回の5人には全ての賄賂の返却とともにお断りの手紙を私自身がだします。

 あと、もしお父様が賄賂を返さないのならば、私からお母様とお爺様の援助でそれに相当する金額を返します。

 そして、これからはその他の方からの縁談申し込みの抽出はすべてお母様とお爺様とで行います。

 決まりましたら、お父様にはきちんと報告だけはいたしますので、ご安心を。

 ただし、お爺様とお母様を後見にお父様からの私の縁談についての発言や権限は一切、なくします。

 また、今後一切、お父様には私の縁談を受け入れる前に賄賂などの金品を受け取ることはさせません。

 いいですね?」


「え、エレーヌ!」


「はい?」


「私が悪かったから、許してくれ!もうしない!!」


「賄賂は?」


「もちろん、賄賂も全部返す!

 うん、もともとそのつもりだったよー。

 やだなー!本気でそんなことしないよー!!

 ……本当にふざけ過ぎました。絶対にもうしません」


「当然です」


「今後は真面目にやります」


「いえ、自分のことですし、自分で選んで良いと言われたのに、お父様を頼った私も悪かったですわ。

 縁談の申し込み書類をすべてお渡しください」


「ええー!それはちょっと……。

 みんなあのボンクラ並みの奴らばっかりだったぞ!?」


「……本当にそうなのか、きちんと情報収集した上で判断してみますので、全部漏らさずお渡しください」


「えっと、わかった。

 ちょっと待ってくれ」と言って、それらを明らかに隠滅しようとする動きの父親。


「お、と、う、さ、ま?

 何故、縁談の申し込み書類と思われるものを破ろうとなさっているの~?」


「えー?あれ?これはいらない紙だと思って。えへっ」


「そのクシャクシャにしたものは、どなたかの肖像画では?」


「え?違うぞ!アスター領に侵入した不審者の似顔絵だよ。

 でも、もう捕まったからいらないなって」


 大きなため息をつくエレーヌ。


「……わかりましたわ。お父様は、もう下がっていてくださいませ」と言って、父親の動きに不安を覚えていたエレーヌは、すぐに執事などの男性使用人を呼び、一時的に父親を取り押さえた。


「エレーヌ!お父様に何をするー!?怒っちゃうぞ!!」


「お父様は大人しくしていてくださいませ」


「あ、駄目!その書類は!!

 あー、それもー!!って、げぎゃー!!」


 エレーヌの回収作業を妨害しようとする父親を、よく押さえつけるように使用人達に指示するエレーヌに、使用人達もよくあることなので、慣れたものだった。


 無事に全部の縁談申し込み書類を回収し、また、財務を担当する家の事務官から、賄賂のことも確認し、無事にそれらも全回収できたエレーヌ。


 アスター侯爵は基本的にはこのアスター侯爵領の繁栄にもよく貢献し、普段はまともな考えや発言、行動もするが、時々、今回のような貴族としてもとんでもないことをしでかす注意人物であった。

 実の娘であるエレーヌにも、いまだに父親のことはよく理解できていない面があり、しかし、今後のアスター侯爵領のためにも、エレーヌの婿にはあの父親を反面教師に、きちんとした人を選ぼうと新たな基準を追加して、決意を固めるエレーヌであった。

エレーヌパパの下種さが…。いや、まともな時もあるんですよー!

エレーヌのママとじいちゃんは本当に真面目でまともです。

実はパパだけハッスルばーちゃん(パパの実母)に似てしまいました。いらないかもだけど、ハッスルばーちゃんのお話も機会があれば。

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