『職人』、見舞う
それは、全面戦争から一週間ほどが経ったある日の出来事。
「よっ、初めまして!」
「……初めまして?」
さりげなく重傷になってしまって入院していた俺の元に、予想もしなかった見舞い客が訪れた。
『職人』伊田詠時である。
「今、入院してる二高生の見舞いめぐりしてて! あ、これお見舞い」
「ああ、どうも」
その男は、伊田詠時は、俺のいるベッドのサイドテーブルにリンゴを置くと、何故かすぐそばの椅子に座った。
「せりざわ、って読むんすよね? 苗字」
「へ、ああ、おう」
「最初読めなくてさ、看護師さんに聞いた」
「聞いたんかい」
あくまでも屈託なく笑うその男は、あくまでも俺を見舞っていくらしい。
初対面にもかかわらず、だ。
「ああ、申し遅れました。伊田詠時っす」
「あ、うん」
「何か学校でたぶん何回か顔は合わせてると思うけど、こうして話すのってたぶん初めてだよな」
そんなことを言いながら、そいつはごそごそと鞄を探ると、紙皿を取り出し、サイドテーブルに置く。
「一応、二高生のお見舞いは芹沢で18人目なんだけどさ」
「そんなに入院してんのかよ」
「結構みんな、全面戦争楽しかったって言ってる」
「楽しかったかぁ?」
「最後は『最強』の介入で中途半端な終わり方だったけどな」
からからと明るく笑いながら、そいつはごく自然な動作でサイドテーブルに置いたリンゴを手に取り、ナイフを持ち、慣れた手つきで切っていく。
「実際、俺も完全に会長のせいで巻きこまれて戦いに行ったんすけど」
「……お前も戦ってたんだ」
「一応な。ま、ほとんど何もしてないようなもんすよ」
のちに、何もしていないどころか、結構強めの敵戦力を陥落したと噂に聞いた。
「ほれ、食え」
「ああ、うん……ってウサギ!? 無駄にうまっ!」
差し出された紙皿には、ウサギの形に切られたリンゴ。
ああ、言っておく。この場合のウサギの形って、みんなが真っ先の想像するやつじゃない。皮を耳に見立ててとかじゃない。
完全に彫刻だ。
「だろ! 俺の特技、リンゴ彫刻」
「お前この技術をリンゴに使うなよ、もったいなさが留まるところを知らねーよ!」
「バナナは難しいんすよ」
「やったことあんのかよ!」
「今度は鉛筆の芯に挑戦してみる予定で」
「それはバナナの後にしろ!」
ひとしきりツッコんでから、ウサギなリンゴを耳から食う。
まあ、うん。リンゴだ。
「じゃ、俺はもう帰る」
「本当に見舞いだけしに来たんだな」
「それ以外にすることないし」
また屈託なくにかっとわらって、そいつは鞄を持ち上げた。
「じゃーな、芹沢! 退院したらまた挨拶しに行くんで!」
一方的にそんなことを言って、そいつはひらひらと手を振って病室を出ていく。
ついつい呆気にとられていたが、完全にドアが閉まった後で、思わず笑った。
「なんであいつ、あんなに面白いの?」
初めてかもしれない。
表面上だけで付き合うのはもったいなさそうだ、なんて思ったのは。




