『時刻』と『百式』
いいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞く?
そう聞かれたら俺はおそらく、どちらも聞かないと答える。
きっと颯太はそれを聞いたら、ゲラゲラと笑って俺の肩を叩くんだろう。
さて。
「てめえこの三高のお膝元で何を調子こいたことしてやがんだ、あぁぁん!?」
「家に帰ってるだけだろうがふざけんなよ、あぁぁぁん!?」
いいニュースと悪いニュースがある。
どちらから聞くかなどとは聞かない。否応なく聞いてもらう。
まずは悪いニュースからだ。
先日、俺こと時宮仁時は、運悪く、三高と二高の不良たちが今まさに喧嘩せんとしている現場に遭遇してしまった。
そしていいニュース。
その場に居合わせたのが、たまたま偶然、俺だけではなかった。
「……先輩、ここ真っ直ぐ行きたい感じですか」
その少女は、どうやらごく最近入学してきたらしい、まだ新しい制服を着たその少女は、俺の方を見ずに呟いた。
「ああ、ちょうど帰り道だ」
「私も同じくです」
「奇遇だな」
「そして私は急いでいます」
「俺もちょっと急ぐかな」
そこでようやく、ちらり、その少女は俺の方を見た。
「先輩、何かできることはありますか」
その言葉が意味するところを、初対面で理解して対応できる人間などいるものか。
いや、いた。俺がいた。
「格闘術は多少。能力は一応時間停止」
「ほう」
「ま、時間止めてる間は一歩も動けない、実に使えない能力だ」
「時間を止めている間に、あの戦いに巻き込まれない最短距離を算出することは可能ですか」
そう言いながら、その少女は、ポケットから大量の紙を取り出した。
どうやらお札らしい。
「できなくはないな」
「じゃあ例えば、相手を目くらましする方法があればどうですか」
「ああ、いける」
「そうですか。見ていただいてもいいですか」
その少女はそう言いながら、目的のお札を探し、残りをポケットにしまう。
「煙幕を張ります。そしたら先輩は、逃走ルートの算出をお願いします」
「わかった」
「ルートが割り出せたら、私も連れて走ってください」
「おっけ」
「行きます」
少女が、不良たちに向かってお札を投げる。
周囲が煙に包まれる直前、その少女の手をつかみ、一歩踏み出した。
時間を止める。
止めている間に、見える範囲全てを見る。それぞれの次の動きを予測する。
最短距離、煙の広がる方向、やつらが次に向く方向。
よし、行ける。
「うわっ、何だこれ! げほっげほっ」
「誰だ、何しやがった!」
うろたえる不良たちの死角を通り、すり抜け、煙が満ちている間に視界の外。
そこまで走って、スピードを緩めた。後ろを振り向けば、どうやら誰もこちらには気付かなかった模様。
しっかり俺に続いて走ってきたその少女は、ふうっと息をつくと、俺に向かって頭を下げた。
「助かりました」
「いやいや、こちらこそ」
「これでアニメに間に合います」
「そいつはよかった」
「ありがとうございました。それでは」
深々と頭を下げてから、その少女はどうやら駅に向かって歩いていく。
その後ろ姿を少しだけ見送ってから、俺も改めて帰路についた。
のちにその少女とは、委員会が一緒という何とも学生らしい縁で再会した。
そこで初めて斑鳩奈音というフルネームを知ることになったのだが、それは割愛させていただく。




