『怪力』と墨
女子力とは何ぞや。
答えが出せないまま高校生になってしまった私は、今日も可愛いものを求めて歩く。
持っているものが可愛くて、着ているものが可愛くて、言動が可愛ければ、何となく女子力が高く見えるはずだ。
そう、はずだ。
「だぁかぁらぁ! こっちや言うてるやろ! 絶対こっちやて!」
「こっちや言うてんねやんか! お前救われへん方向音痴やねんから黙っときや!」
「何やとぉ!?」
「誰や、隣の隣くらいの友達の家遊びにいくんに一時間かかったんは!」
「私や、文句あるか!」
「あるわ!」
校門から出てしばらく歩いたところで、そんな言い争いが聞こえた。
関西人の男女による会話。リアルに漫才だ。
そんなことを思いながらその横を通り過ぎた、その直後。
「きゃあああっ!」
女子力の高い悲鳴に顔を上げると、工事中のビルの屋上から、鉄筋が降ってきた。
あわただしく逃げ惑う人の中で、私のすぐ近くにいた人がへたり込む。
何故そこで腰を抜かすんだ、あなたは本当に男か。
「あんた、はよ逃げェ!」
女の子の関西弁を聞きながら、鞄を落として片手を挙げる。
がんっ、という音がして、鉄筋は私の手に乗った。
ぐしゃり、という音がして、私が握った辺りがつぶれた。
「おじさん、早く離れてくれない。降ろせないから」
「はっはいぃ」
腰を抜かしていたおじさんが勢いよく後ずさったのを確認してから、鉄筋をすぐ目の前に降ろす。
ああ。ものすごく、女子らしくないことをしてしまった。
これじゃ女子力(物理)とか言われる。つらい。
「では」
そそくさと立ち去ろうとしたら、がし、がし、両腕をつかまれた。
「あんた、今どうやったん!? すごいやんか、そういう能力か!?」
「ちょぉ話聞かせてんか! ええやろ、コーヒーおごるさけな、な!」
先ほどの関西人カップルに絡まれてしまった。
いやいや、コーヒーとかいいから、そういうのいいから、早くここから立ち去らせてください。
「なんならお菓子もつけるで! 好きなとこ言い?」
ほだされないぞ、ほだされないぞ。
「きゃ」
「きゃ?」
「キャラメルフラペチーノでもいいですか」
しまった、つい本音が。
そんなことを思いながら二人の顔を交互に見たら、二人は同時に笑った。
「ええで! 行こか!」
「おぉ、行こか!」
これが、私が西崎皇牙と北崎星良という二人の先輩に墨をつけられるまでの話である。




