『炎帝』と情報屋
「情報屋・居上正哉の特別大売出しー」
「帰れ」
高校三年になって間もないくらいの、ある日のこと。
家に帰るために通りかかった校門のそば。
相変わらずの満開笑顔で、居上正哉はそこにいた。
「つれないこと言うなよー、新学期だぜ!? ほら、桜も咲いて!」
「何が言いたい」
「花見に行こう! 弁当で新入生情報を特別大売出ししちゃうぞ!」
「弁当なら阪谷に頼め、以上。はい解散」
ぱんぱん、手を打てば、居上はけらけらと笑いながら俺の肩を叩く。
やめていただきたい。非常に痛い。
「面白そうな話してるじゃん、一斗?」
「千里」
そこに。
俺の後ろから、いつも通りへらへらと笑いながら、浦谷千里は現れた。
「千里!? 浦谷千里!」
居上が突如としてテンションを上げたのは、俺にとっては完全に不測の事態。
「知り合いか?」
「いやいや、知り合いではないけど、知ってるやつは知ってるだろ」
「え、そうなの」
「いや、そんなことないって」
千里の方を向けば、いつも通りのへらへらとした笑顔。
その笑顔のまま、こちらに向かって手を伸ばした千里は。
俺を通り越して、居上の頭をつかんだ千里は。
ぼそり。
居上に何か呟くと、その手をまたすぐに放した。
「あっハイすみません! こちらの情報は今後一切誰にも開示しません!」
「何を言われた!?」
「それで、新入生情報を大売出しだって? 俺も聞きたいなぁ」
「あっハイもちろんです! お金も何もいりません、何でも話させていただきます!」
「アイデンティティー! お前のアイデンティティーが消えるよ!」
居上にいったい何を言ったんだ、千里。
ものすごく気になるが、聞きたくない自分もいる。怖いぞ、千里。
「そういえば、近くの公園に桜が咲いてたよね」
「すぐに参りましょう!」
「せっかくなら何か食べながらさ」
「すぐに買ってきます!」
だっ、とコンビニに向かって駆け出す居上。
初めて見た。居上が人間に対して怯えるのを、俺は初めて見たぞ。
「な、なぁ千里、今」
「一斗は何も気にしなくていいよ」
にっこり、いつもの顔。
こいつって実はものすごくヤバい奴なんじゃ……脳内が修羅場だ。
「お待たせしました! 参りましょう!」
「はっや! しかもめっちゃ買ってきてる!」
ちょっと話している間に、居上がもういろいろ購入してきたらしい。
「じゃあ行こうかー」
「はい!」
公園に向かって歩き出す千里と、その後ろについていく居上。
その二人の後姿を、ついついまじまじと見てしまった。
つまりはあれが、上下関係の生まれる瞬間だったのだ。




