『審判』と漫談
出会ってすぐにどういう人間かが分かる、という人間は少ない。
つまるところ、初対面から腹の内をすべて晒すような人間はいないということ。
少なくとも俺はそうだし、俺が今まで出会った人間もそういうのが多い。
しばらく関わってから、お前って実はこうだったんだな、ってわかるパターンの方が圧倒的に多いはずだ。
俺にとっての例外はただ一人。
「なぁ」
「何?」
「ビックリした話やねんけどな」
「うん」
「この間、用事あって駅の方まで行ってきてんやけど、着くまでがむっちゃ大変やってな」
「うんうん」
「バスで行こう思てバス停行ったら、何や小競り合い起きとんねん」
「大変だったね」
「大変やのはこの後や。うわーなんか厄介なんなっとるやん、関わらんとこ思て隅っこの方に並んだんやけどな」
「うん」
「ほしたらバスがなんや、乗るモン誰もおらへん思たんか知らんけど、俺のおったバス停スルーして行きよんねん!」
「大変だったね」
「ほんでな、でも俺どうしてもそのバス乗らな間にあわへんってことで、めっちゃ走ってん」
「あ、そう行くんだ」
「どないなった思う?」
「え、知らないよ、どうなったの」
「俺、途中でバス追い抜いて駅着いてん」
「まさかの!?」
「ビックリしたやろ」
「ビックリだよ」
何が一番ビックリかって。
「何より初対面で、しかも名乗る前にそんな話されるとは思わなかった」
「あ、せやった、まだ名前聞いてへんかった」
「自分も名乗ってないからね?その辺も忘れないで」
そう、それは高校一年の時。
入学してすぐ、たまたま隣の席になったそいつが、俺の顔を見るや否や話し始めたこと。
「西崎皇牙、いうねん。好きなように呼んでええで」
「俺は東條飛鳥。よろしく。……じゃあ、皇牙」
「おう、よろしゅーな、飛鳥!」
それが初対面。
それ以降も、俺に対する皇牙の態度は変わらない。
入学してすぐのあいつの態度が完全に本心だったと気付くのは、ずいぶん経ってからのことだったけれど。
「なぁ、飛鳥」
「何、皇牙」
「これはなんや知らんけどおもろくて笑ってしまった話やねんけどな」
「うん」
癖なのか何なのか、関西の方は大体そうなのか何なのか、知らないが。
皇牙は話す際、大体『これはどういう話』と前置きをしてから話す。
「昨日の帰りな、ゲーセン寄ってん。格ゲーしよう思て」
「うん」
「そしたらな、なんや知らんけど小学生がめっちゃ集合しとってな」
「へえ」
「何や一か所にあつまっとるからなんやろ思って近づいてみたら」
「うんうん」
「着ぐるみの頭だけ置いてあってん」
「体と中身はどこに消えた」
そういうふうに今日も、皇牙は俺を笑わせにかかってくる。
明日はどんな話を持ってくるんだろうな。




