『時刻』と『職人』と『幻影』
生まれた時から一緒にいた。
物心ついた時には、当たり前にそばにいた。
それがずっと続くのだと、思い込んでいた。
「仁時、違う。それは俺の分」
「は? だって残ってんだからいいじゃん」
「いやいやお前、ちゃんと数えたか? お前もう三個食べただろ」
「でもお前、食べなさそうだったじゃん」
「今じゃん! 今、まさに手ぇ伸ばしたじゃん!」
その二人のやり取りを見ながら、私は私の分のチョコレートをもぐもぐ。
ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人は、やがて同時に私の方を見た。
「灯熾! 絶対これ、俺の分だよな! な!」
「いや、だって詠時まったく手ぇ付けなかったじゃん! だよな!」
「どっちでもよくね?」
それがいつも、私たちの日常。
放課後の我が家で、いつもぎゃーぎゃー騒ぐ二人。
私の母さんは、困ったように笑いはするものの、基本的に叱らない。
「こうなったら勝負な」
「おぉ、望むところだツンツン野郎」
「いいぞもっとやれ」
おもむろに立ち上がって、こきこきと指を鳴らしだす二人。
棒読みであおりながら、今まさに二人が取り合っているチョコレートに手を伸ばした。
「仁時くんも詠時くんも元気ねぇ」
「本当それ。元気有り余りすぎてて驚きを隠せない」
包みをはがして、ぱくり。
戦利品のチョコレートがなくなったことにも気付かずに、二人は殴り合いの喧嘩を始める。
その様子を見守りつつ、欠伸を一つ。
「眠くなってきた」
「はぁあ!? 灯熾が寝たら誰がジャッジすんだよ!」
「そうだぞ灯熾! 公正な立場でジャッジすんのはお前の仕事だぞ!」
「知らんがな」
いつもこうだ。
この二人は何かにつけて殴り合いで解決しようとする。
そしてそのジャッジを私にさせようとする。
君らが殴り合っている間ずっと放っておかれる私の身にもなってほしい。
「そもそも、まだお気づきにならないのか」
「「へ?」」
「君たちの戦利品のチョコレートは、すでに私が頂いた」
「なっ、灯熾てめえ!」
「こ、これが漁夫の利……!」
すでにいくらか殴り合って傷だらけのまま、二人は悔しそうに膝をつく。
まるでラスボスに一度負けそうになった勇者のようだ。
「まあまあ、チョコレートならまだあるから、喧嘩しないで食べるのよ」
母さんが新しくチョコレートを出してくる。
仁時と詠時はそれを見て、何事もなかったかのように食卓に着き、チョコレートに手を伸ばした。
「今回のところは引き分けってことにしといてやる」
「おぉ、わかった」
そんなことを言い合いながら、仁時と詠時はもぐもぐとチョコレートを食べる。
本当に馬鹿な幼馴染たちだこと。
そんなことを思いながら、思わず笑った。
きっとこんな関係がずっと続いていくんだろうと思っていた。
当時、小学五年生。




