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『英雄』と『最強』

「一斗」


 その名前は、好きじゃない。

 一斗缶みたいでかっこよくない。

 『それ』、なんて言われているようで、腹が立つ。


「一斗」


 その存在は、好きじゃない。

 自分では制御できない自分は、好きじゃない。

 どうしてか、ここにいるだけで誰かを傷つけているように思う。


「君は、どうしていつも一人でいるんだ」


 俺にそう尋ねたその人は、心底不思議そうに、首をかしげた。

 理解ができない……と言うよりは、認識ができない、と言うように。


「……ダメなんすよ、俺」

「何が」

「自分で自分が制御できないことがあります」


 当時、高校一年。

 入学式からいくらも経たない、まだ桜が散らない時期のこと。

 学校の屋上で座り込んでいた俺の隣に、その人はいつの間にかいたのだが。


「そんなの、若いうちは気にしなくていいと思うけどな」

「いやいや……そういうんじゃないんですよ」


 暴走してしまうとか、突っ走ってしまうとか。

 そう言う意味じゃなくて。


「傷つけたくないものまで、傷つけてしまうというか」


 そんなことを言って、ちらり、その人を見た。

 その人はきょとんとした顔で俺を見た後で、無表情のまま、フェンスにもたれかかるように、眼下を見下ろした。


「友達、いないのか」

「それ、ストレートに聞いちゃいます?」


 思わず苦笑を漏らせば、その人はガシガシと頭を掻き、俺の隣に腰を下ろした。

 そこで初めて気づいたのだが、名札の色が俺と違う。

 どうやら先輩らしい。いや、そんな気はしていたが。


「すまん。俺も、人付き合いは得手じゃない」

「はぁ……そっすか」


 顔を上げて、空を見る。今日もいい天気だ。


「君さえ良ければ、だが」

「はい?」


 その人は立ち上がると、無表情のまま、俺の方を向く。

 そして、俺に向かって手を差し出した。


「俺は君を、友達と呼んでもいいか」


 その手を、拒むこともできたのだと思う。

 その申し出に、首を振ることもできたのだと思う。

 だけど、俺は。


 どうしてか、俺は。


「永峰一斗です。一年」

「そうか」


 ほとんど迷うこともなく、名を名乗った。

 ほとんどためらうこともなく、その人の手を取った。


「あんたは」


 尋ね返せば、その人は無表情のまま、少しだけ目を細めた。


「真垣陽色、二年だ。……よろしく、一斗」


 一斗。

 その名前は、好きじゃなかった。

 けど何故か、この人に呼ばれるその名前は、嫌いじゃないと思えた。


 それが、俺にとっての転機。

 のちに俺が『最強』などと呼ばれるようになる大乱闘が起きるわけだが、その時はそんなこと、想像もしていなかった。



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