『戦争』、遅刻
「いつの間にやら、大変なことになってきたね」
「そのようですね」
現在地、三座川高校・屋上。
笑みを崩さないまま頭を掻くのは、千里。
呆れたように眼鏡の位置を直すのは、架月。
その視線の先。
傷だらけの体で、無表情のままに足元を見下ろす帆風。
その足元に転がるのは、同じように傷だらけで横たわる、飛鳥。
「終わったのはさっきです」
そう言ったのは、屋上で戦いを見守っていた奈音。
ゆるゆると立ち上がった深花が、大きく息をつく。
「何ですかあれ。……バケモンですよ」
深花がつぶやいた言葉に、帆風がゆるゆると顔を上げる。
ぼんやりと、焦点が定まりきらない視線が、千里と架月の姿を捉えた。
「帆風」
架月が、小さく名前を呼ぶ。
その直後、うとうとと目を閉じた帆風は、そのまま飛鳥に重なるように、倒れ込んだ。
「! 帆風」
「お互いに貧血みたいですよ」
「まったく、あんなふうになるまで戦うなんて思いもしなかった」
深花と奈音の呆れたような言葉に、架月は小さく息をつく。
その様子を見てから、千里は校門の方へ視線を移した。
「まったく、せっかくここまで急いで走ってきたのに」
校門前から校庭にかけて、不良たちで溢れ返るその空間は、見た目に分かるほどに異様な空気をはらんでいて。
千里は、わずかに眉を寄せた。
「さて……どうしたものだろうね」
「何がですか」
「今日は奇襲だけのつもりだったのに」
見下ろした先、戦いを繰り広げる有象無象。
「始まっちゃった」
「……ま、やるしかないんじゃないですかね」
とん。小さく音を立てて、奈音が屋上のフェンスに立つ。
ポケットから取り出すのは紙の束。
「降りるなら送りますよ」
「へ」
「行くんですか、行かないんですか」
二択を迫る奈音の言葉に、千里と架月は顔を見合わせる。
「無言は肯定と判断します」
校庭を見下ろしたまま、奈音は右手で印を結んだ。




