『最強』、嗤う
「悪い男だなぁ、お前は」
ふいに聞こえた声に、一斗は振り向いて笑って見せた。
「お前に言われたくないね」
「いやいや、俺なんて善良な一生徒だから。お前ほど黒い性格してないから」
「よく言うよ」
「はっはっは、まあまあ、そう言うなよ」
呆れたように言う一斗の横に並んで、その男は楽しそうに笑う。
「しかし全面戦争ね。楽しそうな響きだなぁ。ぜひ参加したいもんだ」
「参加してくればいいじゃねえか、俺は止めない。ぜひ暴れてこい、そして退学になれ」
「あっはっは、ひでえ」
「大体、お前が弱い振りなんかしてやがるから、いつまで経っても俺ごときが『最強』呼ばわりされてんだろ!」
「俺のせいじゃないだろ、それは」
一斗に文句を言われながら、なおも笑顔を崩さない。
やがて一斗はガシガシと頭を掻き、深く溜息をついた。
「ま、お声がかかれば参加させていただくことにするよ、俺は」
「好きにしろ。俺はどうあっても参加しないからな」
そう、一斗はどうあっても全面戦争になど参加するつもりはない。
一斗と同じレベルで戦える生徒など、今この場にいるこの男以外には存在しない。ゆえに、三崎が例の条件をクリアすることは不可能。
たとえ三崎が条件通り五人のメンバーを集めてきたとしても、その時は『そんなにいるなら俺が戦う必要はない』と断るだけ。
「なんでそこまでして戦いたくないわけ?」
「なんで? 決まってんだろ! 俺は受験勉強に力を入れるんだよ!」
「ああ、うん、頑張れ」
「投げやりかよ! 応援が投げやりかよ!」
「だって一斗、今から頑張っても手遅れじゃ」
「ねーよ! まだ間に合うよ! 夏休みを制して見せるわ!」
「おお…そ、そっか、頑張って」
今の一斗は、大学受験のことで頭がいっぱいらしい。
「ふははは、見てろよ! 夏休みが明けたら別人のように成績アップした俺を拝ませてやる!」
「うん、あんまり期待しないでおく」
「待ってろ、キャンパスライフ!」
永峰一斗。
期末テストの平均点は、32点。
第一志望の合格率は、10%に満たない。




