『最強』、困る
「いや、まあ、そんなこともありましたけども」
ガシガシ、頭を掻きながら、『最強』こと永峰一斗は眉をひそめる。
現在、高校三年。つまるところ、受験生である。
「いまさら全面戦争とか言われましても、こちらとしては困るわけで」
「そ、そそそ、そんなこと言わんでくださいよ!」
困り果てる一斗の目の前で、一斗より困っているその人物は、序章にて全面戦争だ何だと言い出した男である。
「というか、まずツッコみたい。お前、どう考えたって図書館で勉強するタイプじゃないだろ。だってもう見た目的にはバイク乗り回してヒャッハーとか言ってそうだぞ、本当に」
「いや、家だと弟たちがおやつ食べたいとか騒いで集中できないんで……」
「よき兄か! 弟たちに慕われるよき兄か! 意外すぎるわ!」
「そんなことより、お願いします! 二高と三高との戦いに勝つためには、『最強』である永峰さんのお力が必要なんですよぉ!」
「嫌だよ! つうかもう絶対俺より強いやついるだろ、俺いつまで『最強』呼ばわりされるの、そろそろ恥ずかしいんだけど!」
『最強』の誕生から二年。
例の乱闘以来、三校の争いは沈静化、現在では時折小さな小競り合いが発生する程度となっている。『最強』などと呼ばれている一斗もすっかり平和に慣れてしまい、今ではただの一生徒であると自負している。
「いやいや、永峰さんはまだまだ現役ですよ! まだまだ『最強』ですよ!」
「おだてるなよ! 俺、調子に乗っちゃうから!」
「調子に乗せる作戦です」
「言うなよ!」
深く溜息をついてから、一斗はちらりと窓の外に目をやる。
どうしたものか。
いまさら戦いなんて面倒だ。血の気の多かった二年前ならまだしも、今はただの受験生。できることなら厄介ごとは避けたい。何故なら春には楽しいキャンパスライフが待っているからだ。
「よし、じゃあ提案だ」
「戦ってくれるんですか!」
「場合によってはな」
「っしゃぁぁあ! ありがとうございまぁぁす!!」
「いや、場合によってはって言ったろ」
きょとん、と首をかしげる男に、一斗は掌を向ける。
男は大げさな動きで後ろへ飛び退くと、警戒した顔で一斗の掌を見た。
「な、なんすか!」
「五人だ。俺と同じレベルで戦えるやつを五人集めて見せろ」
「へっ!?」
「集められたら、考えてやらんこともない」
「なっ、そんな無茶な!」
無理ですよ、不可能ですよ!
そう言って騒ぐ男ににやりと笑って見せて、一斗はひらひらと手を振った。
「せいぜい頑張りたまえ。……あれ、名前何だっけ? ま、いいか」
容赦なく立ち去っていく一斗の後姿を見送ってから、男は涙目で叫んだ。
「三崎ですってば!」




