『幻影』、増える
「……」
「……」
刀を構える千里の正面、無表情に突っ立っていた灯熾は、やがて深く溜息をついた。
「私、そういう性格じゃないんですけど」
「うん、知ってる。だから言ったんだ」
「あなた、性格悪いって言われるでしょう」
「言われるね。君にも言われたことがあるよ」
「いや、覚えありませんって……」
顔をあげてみれば、相変わらずにこにこと笑っているその男。灯熾は諦めたように小さく息を吐いて、鋭い目つきで千里を見た。
「こうなったら意地でもあなたの名前を聞いてやります」
その表情に、千里は嬉しそうに笑みを深める。
パチン、灯熾が指を鳴らすと同時に、ぶわりと湧く蝶の群れ。ばさばさ、千里の視界を覆うその蝶に、千里は一瞬だけ目を見開く。
が。
「懐かしいね、これも」
刀を一閃。
瞬間、斬撃から起きた炎が、蝶の群れを包んでいく。
「そういう能力ですか」
「そうだよ。炎を操る系。まるで君の名前だよね」
「変態みたいな言い方するのやめてください」
燃え盛る刀を構え、なおもにこにこと笑みを絶やさない千里。
灯熾は内心で舌打ちをしつつ、ちらり、机の方に視線を送った。
「では、これで」
とん、灯熾が机に触れると、その場所からまるでとけるように水に変わっていく。同じように本棚に触れれば、同じように水に変わっていく。
「うわ、これは初めて見た」
「……なるほど、あなたと私が最後に会った時期は割り出せました」
ぱちん。
指が鳴る音とともに、波が起きる。千里の刀が、波を薙ぐ。
その瞬間を狙ったように、ばしゃり、千里の頭上から水が降る。
「へ!?」
「残念、注意力が散漫ですね」
後ろから聞こえてきた声は、なおも正面にいるはずの灯熾の声。
千里が振り向けば、いつの間にそこに立っていたのか、千里の背後、デスクの上に立って、バケツを構える灯熾の姿。
その向こうに、もう一人。さらに一人。
「さて、本物の私はどれでしょう?」




