『最強』、誕生
坂凪、という町におけるこれまでの歴史の中で、最も多くの人間に語り継がれている事柄…と言えば、誰もが口をそろえてこう語る。
「『最強』が生まれた乱闘騒ぎだ」
さかのぼること二年前。
当時、坂凪町は大いに荒れており、各校の不良同士がゲリラ的に戦闘を繰り広げていたという。いつの頃からかその状況が当たり前になり、多くの町民はいつ何時この場で戦闘が起きるかと、半分諦めにも似たような恐怖を抱いていたそうだ。
ある日のこと。
二高こと二階堂高校の生徒たちが、一高こと一ノ宮高校を強襲した。そこにいつの間にか三高こと三座川高校の生徒も加わり、その場はもはや戦場のような状態。
全員が倒れるまで、戦いは終わるまい…教師たちが諦めたころに現れたのが、後に『最強』と呼ばれる生徒である。
「あーあ、うるせえ、うるせえ、うるせえ!」
ガシガシと頭を掻きながら戦場に足を踏み入れたその男子生徒は、瞬く間に、その場にいたほとんどの生徒を行動不能にしてみせた。
「もう終わりかよ、かかってこいよ! もっと俺を楽しませろよ!」
倒れ伏した生徒たちの真ん中で、彼は吠える。吼える。
誰も、彼に向かっていく者はいない。立ち上がれる者もいなければ、その場から逃げだせる者すら、そこには存在しなかった。
「あーあっ、つまんねえ、つまんねえ、つまんねえ!」
ガシガシと頭を掻いて、彼はその場に座り込む。
そこでようやく、動ける者が一斉に撤収を始めた。まるで、そこでようやく緊張の糸が途切れたように。
その日、その戦闘に参加していた者も、していなかった者も、さらにはその戦闘について噂しか聞いていないはずの者すらも、その存在を知った。
圧倒的強さ、まさしく『最強』。
永峰一斗。
当時、高校一年。




