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伝えそびれる言葉

作者: 長月 一七


 数日前に届けられた手紙によって、私の死は決定付けられた。


 いたって普通の封筒のには送り主の名は無く、表に十字架が書いてあった。


 中を開けると一枚の紙切れ。


 人口が増えすぎたので、減らします、あなたは出来が悪いので死んでください、と書いてあった。


 それもありかな、と私は思った。


 出来が悪い、というのは痛く図星だった。


 努力したって何も得られず、それをねたんで周りの人を傷つけてばかりだったから、私みたいな人間はいなくなったほうがマシだと、しばしば思ったからだ。


 ヒトという種が進化していく上で弱者は必要ない。


 出来損ないの私が出来る事といえば、その法則に従う事だけだった。


そして、高い音のインターホンが鳴り、ついに迎えが来たんだな、と私は覚悟した。


 突きつけられる銃。


 母は溢れる涙が止まらない。 そんな母を見た瞬間、今まで生きてきた軌跡が鮮明に思い出せた。


 どれもこれも、私が迷惑をかけている思い出ばかりだった。


 私は結局、何一つ恩返しを出来なかったんだ、と思った。


 そう思ったら逆に、私も涙が溢れて止まらなかった。


 何も出来ない自分が悔しくて悔しくて仕方なかった。


 ようやく分かった。


 私ひとりで勝手に死んではいけないのだと。


 もはや死んでもいいなんて、とても思えなかった。


 でも、もう手遅れだった。


 母はもう見てられないといった風に泣き崩れ、床に腰を下ろしていた。


 そんな顔をしないで、お母さん。


 私は結局何もしてあげられなかったけど、お母さんといた時は楽しかったよ。


 だからそんな顔をしないで、お母さん。


 せめて、何も出来ない私が出来ること。


「お母さん、育ててくれてありがとう」



 ドン。




 全身に衝撃が駆け抜けたが、それほど痛くはなかった。 


「・・・生きてる」


 見ると、ベットが横にあった。


 どうやら落ちたらしい。


 あれは夢?


 ぼんやりとしながら起き上がると、下から母の声が聞こえてきた。


 私が自分自身を卑下するあまり、あんな夢を見てしまったのだ。


 だが、あの夢を見たら自分はいらない人間だなんて思わなくなった。


 自分にも、言える言葉がたくさんあるのだ。


 何も出来ないなら、せめて気持ちを伝えよう。


 そう思って階段を駆け下りて、台所へ行って言った。


「おはよう、お母さん」



ふと、いつ死んでしまうかわからない現代で、ひたすら悔いのないように走るのが人間なんだと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読後、すごくわたしに勇気が芽生えた感じがします。 とてもいい話です……。 そして主人公の女の子が、またとても頭にイメージされすごく切なくなりました。(恋しいとかという意味じゃなくて……。 と…
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