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ツインブレイバー  作者: 月城 響
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霊獣ハンター

 聞いたことのない名称に朗とアルテウスは思わず顔を見合わせた。


「まさか女に背中は見せないだろ?勇者さん」


 普段ならこんな挑発には乗らない主義だが、マクベスはこの妖精の剣を使う娘の力を試してみたくなった。


「いいだろう」


 マクベスが答えると、アルテウスが「マクベス!」と名を呼んで彼の剣を投げた。それを受け取ったマクベスとシオンが檻の中に入ると、鉄の扉がガシャーンと音を立てて閉められた。


 互いに向かい合って立つと、すぐさまシオンが切りかかった。自分の剣でそれを受けるマクベス。


― この娘。人間のくせに妖精の剣を使いこなしている -


 素早く身をひるがえし再び攻撃を仕掛けるシオンとは対照的に、マクベスは防戦一方だ。朗も妖精の重い剣を自在に操る少女に思わず見入った。


 一瞬の閃光のようにシオンの剣がマクベスの服の袖を切り裂いた。


「マクベス!」

 朗が小さく叫んだが、アルテウスはじっと座ったまま彼らの様子を見つめていた。


「ちょろちょろ逃げ回ってないで反撃してきたらどうだい?それとも怖くて手も出せないか!」


 鋭い剣先が何度も頬をかすめた後、マクベスが後ろに下がった。それを見たシオンは剣を構えて猛然と走り出した。


― ガァァーンッ ―


 店中に響き渡った音はマクベスの剣がシオンの剣を弾き返す音だった。そのあまりの激しさに、シオンは剣ごと後ろに投げ飛ばされ、鉄柵に叩きつけられた。


「くそっ!」


 彼女は悔しそうに呟いて落ちた剣を拾おうとしたが、顔の前に剣を突き付けられギリッと歯を噛みしめた。


「剣士と呼ぶにはあまりにも未熟だな。どこでその剣を手に入れたか知らんが、剣にふさわし人間になって出直してこい」


 くるりと背中を向けたマクベスにシオンは叫んだ。


「その男、人間じゃない!妖精だ!」


 皆がざわめく中、冷静だったアルテウスも思わず表情を変えた。


「何を言ってるんだ。俺のどこが妖精だと?」

「ふん。幻術であたしの目がごまかせると思ったか。お前もお前の連れも人間じゃない。今正体を暴いてやるよ!」


 シオンが両手を開いて霊術をぶつけてきた。途端にマクベスとアルテウスの背に大きな4枚の羽根が現れ、朗の髪は真っ赤に染まった。


「ば、化け物だ!」


 生まれて初めて妖精を見た人々は叫び声をあげながら逃げ出したが、腕に覚えのある者は、剣や槍を持って彼らに迫ってきた。


「アキラ」


 アルテウスは朗の耳に呼びかけると、素早く彼女の脇を抱き上げ飛び立ち、向かってくる人々の間を剣をかわしながらすり抜けていった。出口を抜け出し上昇すると、朗は心配そうに尋ねた。


「アル、マクベスは?」

「あいつなら大丈夫です」


 だがマクベスはまだ檻の中に居た。鉄の檻が電気を帯びたように黄緑色に発光している。檻の外からシオンがニヤリと笑って出口の前でたたずむマクベスに言った。


「出られないだろ?あたしのばくしょうじゅつから逃れられた奴は居ない」


 周りの人々の叫び声や喧噪も聞こえないように、シオンは腹を抱えて大声で笑い始めた。


「明日、国王陛下に届ける品以外にいい手土産が出来た。ザマーミロだ。アーハッッハッハッハ!」






 この国で一番高い建物は王の住む王宮だが、2番目に高いのは賢神を祀る大聖堂だ。天に向かうように突き出した一番高い尖塔の上で、朗はアルテウスと共にマクベスを待っていた。何かあった時はここに集合しようと決めていたのだ。


 だがいつまで待っても彼は現れなかった。もしかして殺されちゃったんじゃ・・・。心配そうに膝の上で身を縮めている朗を気遣ってアルは笑いかけた。


「大丈夫ですよ。あいつはそう簡単に死んだりしません」

「じゃ、捕まったって事?」

「もし捕まったのなら何か目的があっての事でしょう。試合の途中もあの娘の力をずっと確かめていた。もしかして彼女に惚れたかな?」

「もう、そんなわけないだろ?」


 ほんとにアルは。こんな時でもふざけてばっかりなんだから。


「とにかくあの酒場に戻ってみようよ。外から様子を見れば大丈夫だろ?それともあの女の子に捕まったのかな」


 ハンターだと言っていたので何となくそんな気がしたのだ。しかしアルは少しの間考えていた。


「いえ、井戸を探しましょう」

「井戸?」


 彼らは地上に降りて再び人目に付かない場所で人の姿になると、民家の近くにある共同の井戸を探し始めた。





 やっと見つけた井戸は井戸と言うよりはもっと進んでいて、四角い木の台の上に鉄製のポンプが付いていた。


「妙だな。150年前はこんなものはなかったが・・・」


 彼らが人の国に遊びに来ていた頃は桶で水をくみ上げる井戸だったのだが、150年たった今では簡単に水をくみ上げる事が出来るようになっていた。


「これはポンプだよ。この取っ手を上げ下げする事によって空気圧をかけ、水をくみ上げるんだ」


 そう言って朗がポンプの取っ手を何回か押さえると、蛇口から水が流れ出てきた。近くに置いてあった桶に水をためると、水面が静かになるのを待ってアルは右手をその上にかざした。だが水の表面には何の変化もなかった。


「だめですね。水鏡は相手の方にも水がないと映らないんです。捕まっていても水くらいは与えられているかと思いましたが、どうやら彼女は気が利かない女らしい」


 アルが少し嫌味を加えつつ残念そうに呟いた。




 水鏡の事を聞いて、朗は初めてこの国へ来た日、アルに質問したことを思い出した。ほんの少しでいいから元の世界を見たい。そう言った朗にアルは水鏡の事を教えてはくれなかった。きっと彼は向こうに帰りたいと朗が言い出すのを恐れたのだろう。今もし同じ事を言っても彼の事だ、うまくごまかされるに違いない。


 いいよ。もっと霊術をちゃんと使えるようになって、この水鏡の術もマスターしてやるんだから。そしたら運が良ければ柾人が水を飲む時にでも彼の様子を知ることが出来る。でも彼は私の事をすっかり忘れているんだ。


 柾人の様子を知るのがふと怖くなった時、アルが自分を呼んでいるのに気が付いて顔を上げた。





 ひとまず酒場の周辺に戻り様子をうかがったが、マクベスが捕まっているような様子はなかった。それで手当たり次第にあたりの宿を探してみた。しかしシオンのような若い女の子が止まっている宿はどこにもなかった。





 夜も更けてきたので、彼らはどこか眠れる場所を探した。あの騒ぎでせっかくマクベスが稼いだ賭けの配当金も受け取れなかったからだ。運よく町から離れた民家の中に廃屋があったので、そこで休むことにした。


 中に入るとアルは持ってきた袋の中から灯木を取り出した。そうすると月の光だけの薄暗かった空間がぽうっと明るくなった。先程の酒場でアルがかすめ取っておいたポーチ茸の燻製をかじりながら朗は呟いた。


「マクベス、大丈夫かな」

「我々には目的があります。デルパシアの王に会って救援を頼むという。あいつは必ずその目的を果たしに来る。明日は王宮へ行きましょう」


 心の底では心配しているのだろう。それでもアルの瞳には揺るぎがなかった。


「信じてるんだね。マクベスの事」

「あいつとは長い付き合いですから、本当に・・・。赤ん坊の頃から一緒でした」


 赤ん坊の頃から一緒に生きてきた。朗と柾人もそうだった。固い床に横になって目を閉じると、柾人との思い出がよみがえってくる。ゆっくりと深い眠りに落ちながら朗は彼の声を思い出していた。


 うん。私も柾人の事を信じている。たとえ今は忘れていても、会えばきっと思い出してくれる。それまで私は・・・・。





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