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ツインブレイバー  作者: 月城 響
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朗の力

 おなかがいっぱいになるとマクベスは少し仮眠をとると言って、少ししかない平らな部分に横になった。彼らは2人一緒に眠ることは無いので、アルテウスは起きていたが、朗は「私が起きているから大丈夫だよ」と言って、アルテウスにも仮眠をとるよう促した。


「それではお言葉に甘えて、少しだけ眠らせていただきます」


 そう言うと彼は剣を抱え、座ったまま目を閉じた。いくら体力のある彼らでも人間一人を引きながら長時間飛ぶのは疲れるのだろう。



周りはすべて尖った岩なので朗達の居る平らな場所は、畳一畳分くらいしかない狭い空間だ。そこから下を望むと、はるか下まで岩山が連なっていた。


 ここから落ちたらさぞかし痛いだろうなと思っていると、テニスボール大の黒い塊が1個、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら鋭い岩を登ってくるのが見えた。なんだろうと思いながら見ていると、黒い塊はどんどん数を増やしながら登ってきて、やがて朗の足や腕に飛びついた。


「キャッ、なにこれ!」


 よく見ると塊は藻か苔の塊のような感じで、ふさふさとした短い毛でおおわれている。朗の驚いた声にマクベスとアルテウスは目が覚めたのか、立ち上がって気持ち悪そうに塊を払いのけようとしている朗を見上げた。


「ああ、それはジャルジャルです。程度の低い霊獣と言うか植物の聖霊のようなもので、体にくっついても害はありませんよ」


 アルテウスの言葉にホッとしたが、ジャルジャルは益々張り付いてきて首の方まで上がってきた。


「あ、でも顔が覆われたら窒息しますから、それだけは気をつけて」

「早く言ってよ!」


 朗は気持ちが悪くなって首の上まで上がってこようとするジャルジャルを必死に払いのけた。だがあまりにも夢中になって払っていたため不安定な足場によろめいて、あっという間に崖から落ちてしまった。


「キャァァァッ!」


 叫びながらこんなところから落ちたら大怪我じゃすまないと思った瞬間、体がふわりと浮いて空中で止まった。アルテウスがくすくす笑いながら自分を抱きかかえている。彼が手を体に沿わせてゆっくりと動かすと、黒い塊がすべて剥がれ落ちていった。


 こ・い・つぅぅぅ・・・!


 彼はこうやってすぐ払えるのに、わざとやらなかったのだ。そして私が慌てるのを見て笑ってたのね。おまけに「アキラが女の子のままだったら良かったのに。残念です」と言ったものだから余計腹が立った。


「だったら放せばいいでしょ」

「ここから落ちたいんですか?アキラは変わってますねぇ。体中に岩が突き刺さってとんでもなく痛いですよ」


 とんでもなく痛いどころか死ぬわよ。意地悪なアルテウスに益々ムッとしながら、元の場所へ戻った。



 再び森の上を飛ぶ。日の暮れる頃、うっそうとした森が途絶え木々がまばらになり、やがて広大な荒野が眼下に広がった。アーライル国に入ったのだ。


 しばらく荒野を飛んだあとマクベス達は低い谷の中へ降りて行った。水量はそんなにないが、川も流れていて野営には理想の場所だ。キャンプ慣れしている朗はすぐに木を集め、火をおこす準備を始めた。


 ここには魔法使いが2人も居るのでライターも必要ない。彼らの霊術は魔法ではなく、木霊王の力を分けてもらっているだけだと言うが、手をかざしただけで炎が湧き上がるのを見ると、やはり普通の人間には魔法にしか見えなかった。



 食事を終えるとマクベスが「アキラ、俺と手合せせんか」と言いつつ立ち上がった。マクベスは朗がどのくらい霊術のかかった妖精の剣を使えるか試してみたかったのだ。初めて彼女が天空族と戦っているのを見た時、朗は普通の竹刀を使っていたのに、その竹刀から彼女の力があふれ出しているように見えた。あれはきっと木霊王から授かった霊力に違いない。


 朗もここに来てから誰とも剣道の試合をしていなかったので、快く引き受けた。


「私は疲れているので先に寝ますよ」と言って横になったアルテウスをしり目に、2人は嬉々として剣を合わせた。



 力まかせに振り下ろしてきたマクベスの剣を下からはねのける。手がジンジンとしびれた。さすがに一筋縄ではいかないようだ。それにこの国の剣は刀身が太く竹刀よりずっと重かった。


「やあ!」


 試合の時でもめったに声を上げない朗の声が谷間に響く。マクベスは余裕の表情だ。


「早いが軽いな。そんな軟弱な剣では俺に一生勝てぬぞ!」


 そんな挑発には乗らない。朗が高校生では異例の5段に昇段できたのは、どんな状況に陥っても決して冷静さを失わず的確な判断を下せたからだ。


 マクベスがえぐるように太刀を浴びせる。朗は寸での所で剣先を交わす。だが劣勢だ。剣道では確かに強いが、本当の戦いとなるとやはり勝手が違う。


 渾身の一撃が軽々と跳ね返された後、朗は目を細めてじっとマクベスを見つめた。何かあるはずだ。必ず付け入る隙はある。これだけ追い詰めてもあせりを見せない朗の瞳を見て、マクベスはニヤリと笑った。ではそろそろ終わりにしてやるか。


 マクベスが剣を上段に構えた時だった。足首の辺りが何かにかまれたようにチクッとした。子供の頃、森の中でゲルムという毒虫に刺されて足が腫れ上がった経験のあったマクベスは思わず足元を見た。その瞬間、朗が剣を構えて走りこんできた。


― やられる! ―


 とっさにそう思ったマクベスは思わず手を突き出して霊術を放ってしまった。彼の霊術は2メートルもある巨大なかまのように縦になって朗の真正面に現れた。


「でああぁぁあっ!」


 朗がその鎌を切り裂く。と同時に剣から出た金色の光が怒涛のようにマクベスに襲い掛かった。彼の体はあっという間に後ろに吹き飛ばされ谷間の壁に打ち付けられた。


「マクベス!」


 朗はびっくりして彼のもとへ走り寄った。


「マクベス、大丈夫?」


 朗に助け起こされたマクベスは以外にも傷一つなく、彼は頭を押さえてうなずいた。


「大丈夫ですよ。寸での所で私が防御壁を張りましたから」


 気が付くとアルテウスが後ろに立っている。


「良かったぁ。ごめんね、マクベス。霊術を使う気なんかなかったのに、いきなり出ちゃって」

「いや、俺こそすまん」


 マクベスは立ち上がると、少し複雑な顔で朗に笑いかけた。





 夜、一人で火の番をしていたマクベスは、すぐそばで寝ているアルテウスに声をかけた。


「起きとるんだろ?しばらく付き合え」


 マクベスの声にアルテウスは起き上がると、彼の隣に座って炎を見つめた。


「アキラの霊術、すごかったねぇ。あんなに美しい霊力を初めて見たよ」

 その事を考えるとドキドキして眠れなかったアルテウスが呟いた。


「しかも凄いパワーだ。この俺様の霊術を切り裂いたんだからな」

「つまり力は君より上ってことだ。さすがは木霊王の選定者ってとこか・・・」


 ニヤリと笑ったアルテウスにマクベスはむくれた顔を向けた。


「お前、あのとき俺の足に霊術を仕掛けただろう」

「君が昔ゲルムに刺されたのを知っていたからね。剣士が虫に刺されたくらいで驚いてちゃダメだろ?」

「バカヤロウ!」


 思わず声を上げたマクベスは口を押えて朗を見た。彼女はぐっすりと眠っているようだ。


「あの虫に刺されたら大変なんだぞ。足は丸太のように腫れ上がって最悪切らなきゃならん。今は霊術で癒せるが昔は本当に・・・。それはいいとして、なんで邪魔したんだ」


「君があまりにも大人げないからだよ。朗はあの剣を使い始めたばかりだし、まだ17歳の子供なんだ。それをあんないたぶるような真似をして」


 親友に非難されてマクベスはムキになって答えた。


「わが軍の若い兵士達もああやって鍛えたんだ。みんなボロボロになっても俺について来たぞ」

「そんな軍人気質を彼女に押し付けるな。アキラは見かけは男だけど中身はかわいい女の子なんだぞ。そんなんだから姫にもマクベスは本当に気が利かないって言われるんだ」

「ぐぬぬぬ・・・・っ」


 マクベスは歯をギリギリ噛みしめ、顔を真っ赤にしながら反撃の言葉を考えた。


「お、お前だってナンパで青臭いって言われてるぞ」

「当たり前だろ?600年以上も生きている姫に比べたらどんな男も青臭いよ。さ、俺はもう寝るからな。一日中飛んで疲れてるんだ」


 もうこれ以上反撃することが出来なくなったマクベスは「交代になったらきっちり起こしてやるからな!」とアルテウスの背中に叫んだ。






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