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ツインブレイバー  作者: 月城 響
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人族の国へ

 次の日、朝一番に議会を収集すると、マクベスは3人だけで人族と魔族の国に救援を求めに行くことを話した。


 昨日結局、何の成果も出せないまま会議を終わらせてしまったので、朗の意見をもう一度熟思していたメディウスとゴラン、カクトはすぐに賛成したが、ケーニスと2人の大臣は猛反対だった。


「何を勝手な事を言っとるんだ。何かあったらどうする。誰が責任を取るんだ!」


 メディウス達が彼らを説得しようとしたが、全く聞く耳を持たず、最後にはこんな選定者を呼び出したとアデリアの事まで批判を始めた大臣にムッとして朗は立ち上がった。


「何があるって言うの?天空族が攻めてきてたくさんの仲間が死んでいる。それ以上にどんな不幸があるって言うのよ。これから起こる事に責任を問うなら、あんたたちが今まで助けられなかった命に対してどう謝罪をするって言うの?」


 この一括で誰も文句を言う者は居なくなった。




 魔族の領域は全くの未知の世界なので、とりあえず同じ地上にある人族の国に行くことにした。他の国の領域に入ると死が訪れると最初に会った日マクベスが恐ろしい事を言っていたが、別に天罰が下るとかではないらしい。ただ他の国に侵入すれば、殺されても仕方がないという事だった。


 特に人族の国は姿を消す霊術を持つ妖精にとって危険な場所ではなく、マクベスやアルテウスも幼い頃、よく人族の国へ行って人間達を驚かせたりして遊んでいたそうだ。今はお堅そうなマクベスも昔は随分いたずらっ子だったらしい。


 ただパルスパナスの森の中には霊獣と呼ばれる危険な動物がたくさん居る。妖精でさえ扱い兼ねる猛獣だ。人間が森に入ればたちまち襲われ食い殺される。だから人は決して森には近づかなかった。


「森の中を通る時は気をつけてね。霊獣には色々いて、集団で襲ってくるものもあれば、霊力の強い霊獣は一匹で襲ってくるものもいる。森に降りる時はくれぐれも油断しないで」


 アデリアは心配そうに朗の手を握りしめた。


「マクベスとアルテウスが居るから大丈夫だよ」

朗が笑いかけると、アルテウスもうなずいた。


「羽根を休める時も木の上で休みますし、アキラの事は必ず我らが守ります。安心してください、姫」

「マクベス、アルテウス。頼みますね」


 寂しそうな瞳で見送るアデリアに手を振った朗は、マクベス達と城の外へ出た。朗にとって城の外へ出るのは今日が初めてだ。霊獣は城の周りには少ないが、飛んで逃げる事のできない朗は、城からは出ない方がいいと言われていたからだ。



 表に出ると、益々ここが幻想的で美しい世界だと分かった。周りの木々も空の色も、今まで住んでいた世界よりずっと鮮やかに輪郭を描いている。空を仰いで目を輝かせている朗の両側に立つと、マクベスとアルテウスは右手と左手を差し出した。朗が両手でその手を掴むと2人は4枚の羽根を広げ空へ舞い上がった。





 城を少し離れると、周りはすべて深い森に囲まれていた。果てしなく続くジャングルのようだ。森が途切れている場所には美しい湖が瑠璃色の湖面を輝かせていて、彼らはその上を通る時には高度を下げ、水面ギリギリに飛んだりした。



妖精はせいぜい300(2~300メートル)しか飛べないとケーニスが言っていたが、アキラを引いていたのにマクベスとアルテウスは500メートル以上も一気に飛んでいた。きっと高吏の中でも彼らは特に上級なのだろう。 




木々の上空を漂う薄い霧の中を何度も通り抜けた後、彼らは巨大な太い幹を天へ伸ばす巨木に降り立った。手を引かれてとはいえ、生まれて初めて空を飛んだ朗はとても気分が高揚していた。


「いい眺め!」

 頂上の枝の上で朗は周りを見回して叫んだ。


「ここは妖精の国の中心辺りになります。人族の国には一番近い国、アーライルなら何とか今日中に付くでしょう。この森で一晩を明かすのは危険ですから、一気に人族の国に入ります」


 朗の隣の枝に座ったアルテウスが言った。


「まずアーライルに交渉に行くの?」

「いいえ。人族の国で一番力のあるデルパシアに行きます。多分天空族に対抗できる軍事力を持っているのはデルパシアだけでしょう」



 人族の国は5つあり、デルパシア以外の国はどこも同じくらいの小さな国だ。4つの国は同盟を結んで強大なデルパシアと拮抗を保っていた。デルパシアはアーライルとサムーサという国を超えた先にある。いつ天空族がまた城を襲ってくるかわからないので、出来るだけ早く交渉を終え戻らなければならなかった。




 少し休憩をとって彼らは再び飛び立った。何度か同じように木の上で休憩を取った後、今度は切り立った岩山の上に降り立った。ここはマーラーの岩山郡と呼ばれているらしい。周りはまるで剣山のように尖った岩々が連なっている。一本の草や木もなく、殺伐とした風景が広がっていた。


「ここにはさすがの霊獣も登ってこれません。ここでお昼を取りましょう」


 そう言いつつアルテウスは、持ってきた袋の中からパヌタと呼ばれる焼き菓子を取り出した。少し硬いが栄養が豊富で昔から食べられていたものだ。それとカトゥールという実を絞って作ったジュース。最初は甘さより苦さが勝っていて、以前美嘉といつも喫茶店で飲んでいたタピオカミルクティーがとても懐かしかったが、慣れると意外に癖になる味だ。きっと食後にコーヒーを飲むようなものだろう。


 パヌタをかじりながら朗は少し気になっていた事を尋ねた。


「アデリアは王が居なければ、この国で一番の権力者でしょ?でも会議の様子を見る限り、どっちかっていうとあのアザールとオクトラスっていう2人の大臣の方が権限を持っているように見えたなぁ。今回の事だってアデリアが一言、行っていいって言えば他の臣下には何も言えないんじゃないかなって思っていたら、なんだかアデリアが責められてたみたいだし・・・」


「さすが元女性。鋭いですね」

「元は余計よ」とふくれる朗にアルテウスは笑いかけた。


「この世界の国々にとって一番安定した状態は、王とその夫か妻と王位を継承する善導者がそろっている事が理想とされています。ですからいくら王聖女とはいえ、独身であられる姫は少し立場が弱くなっておられるのです。我々や大臣たちも早く王士様をお迎えしていただきたいのですが、どのような者を連れてきても青臭いとか気に入らないとおっしゃられて・・・」


 マクベスも困ったようにため息をついた。確かにあのアデリアならそう言いかねないなぁと朗も思った。だがマクベス達の気苦労がわかっても、自分がもし好きでもない男を連れて来られて、いきなり結婚しろと言われたら受け入れられないのは同じ女として分かった。それで黙っていると、あぐらをかいて座っているマクベスが膝を乗り出した。


「頼む、アキラ。君から姫を説得してくれないか」

「え?説得って、私がアデリアに結婚しろって言うの?そんなのムリだよ」


 思わず朗は首を振った。


「私からもお願いします。幸いなことに姫はあなたの事をとても気に入っておられますし、あなたの言う事ならきっと聞いて下さるでしょう」


 気持ちは分かるが、朗にはアデリアのプライベートに踏み込むような事は言えなかった。


「そんなのムリだよ。私だっていきなり結婚なんて言われたら絶対嫌だし」


「アキラ。姫は君とは立場が違う」


マクベスの言葉にアルテウスも頷いた。


「そうです。大体どの善導者も善導者に選ばれた後、しばらくすれば結婚します。妖精は長命ですから子もなかなかできないからです。そして王が亡くなればすぐ王位につき、また次の善導者を指名する。それが一番国の安定した姿なのです。だから永遠の命を与えられていると言っても、たいていは普通の寿命をまっとうされます。周りの者がすべて年老いて死んでいくのに、己だけ命を長らえるのはあまりにも辛い。


なのに姫は見かけこそ我々より年下ですが、もう600年以上も生きているのですよ。この国の最長老のばばが死ねば国で一番のババア・・・いえ、最長老になってしまうのです」


「頼む、アキラ。我々はまだ若輩者だが、いずれ年を取ればそんな姫を残して先に逝かねばならぬ。だがこのままでは姫と国の事が心配で死んでも死に切れん。何とか君から姫を説得して欲しい」


 2人の男に頭を下げて頼まれると、朗もこれ以上いやだとは言えなくなってしまった。


「う、うん。分かった。機会があったら話してみるよ」


 マクベスとアルテウスは嬉しそうに顔を見合わせたが、朗には甘いパヌタがほろ苦く感じられた。


 





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