表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツインブレイバー  作者: 月城 響
41/71

城の外へ

 暗闇の国に朝を知らせる鐘が10回鳴ると、朗はベッドから飛び起きた。今日はスドゥークと共に城の外へ出かけるのだ。この城へ来てから初めての外出はとても楽しみだった。アデリア達が来てから食事はすべて彼女達と共にとっていたので、朝食の折り、朗は今日スドゥークと外へ出かける事を話した。びっくりしたのは仲間達だ。特にアデリアとアルは大反対だった。


「ダメよ。あんな男とデートするなんて!絶対ダメ!」

 半狂乱のアデリアにアルも同意した。

「そうです。あの男は危険です。何かと言うとアキラに迫って。2人きりで出かけて何かあったらどうするんですか!」


「2人とも落ち着いて。何もありはしないよ。それにこれはデートじゃないし、この間ゲルドーマとアランドールを呼び出してくれたお礼に、町の視察に付き合うだけなんだから」


 それでも納得しないアデリアとアルを朝食の間中朗は何とか説き伏せた。食事が終わってアデリアに付き添いながらアルとマクベスが出て行ったあと、朗はナーダに時々アデリアの様子を見に行ってくれるように頼んだ。ナーダは快く引き受けた後、こそっと朗の耳にささやいた。


「アキラ。私たちの善導者様は本当に素晴らしい方よ。だからもしアキラが善導者様の事を好きなら私、応援するから」

「え?やだ、ナーダ。本当にそんなんじゃないんだって・・・」

 ナーダはにこっと微笑むと部屋を出て行った。


 困ったな。なんだかみんなに誤解されちゃったみたい。朗は小さくため息をつくと、最後に一人残っている柾人をちらっと見た。どうして彼は何も言わないんだろう。それにここへ来てからずっと私の事を避けているみたいに見える。


 それは勘違いなのだろうか。スドゥークや王族を説得したり、その話をするのでアデリアの所かスドゥークの所にばかり行っていたから、そんな気がするだけなんだろうか・・・。


 お茶のカップをおいて立ち上がった柾人が黙って部屋を出ようとしたので、朗は彼の背中に呼びかけた。


「柾人。最近なんだか変じゃない?」

 彼は立ち止まったが、朗に背中を向けたままだった。

「何が?」

「だって急に剣を習いだしたり、食事中もほとんどしゃべらないし・・・。それに、なんだか私の事、避けてない?」


 柾人はドキッとした。まさに図星だ。だって朗があまりにもキレーで色っぽくなっちゃって、恥ずかしくて目も合わせられないなんて言えないだろ?


「そんな事・・・ないよ。外に出るんなら気を付けて行けよ」

 そのまま出て行こうとした柾人を朗は追いかけた。


「柾人、待って!」


 自分の腕を掴んだ朗の手を、柾人は思わず振り払ってしまった。朗の驚いた顔を見て柾人はどうしようもなく後悔したが、ただ顔を伏せるしかできなかった。

「俺、剣の練習があるから・・・・」


 そのまま背中を向けて去っていく柾人を、朗は呆然と見送った。





 闇に溶け込むようなモーヴの体は実は黒ではなく、濃い紫色の羽毛でおおわれている。王城に在籍する地王軍のみがこのモーヴに乗る事を許されているので、誰もがその姿を見れば畏敬と称賛の声を上げた。


 そんなモーヴ達が20羽ほど飛び立つ準備をされながら羽を休めている中、朗はただじっと立って柾人の事を考えていた。柾人に今まで一度もあんな態度を取られた事のなかった朗にとって、さっきの出来事はとてもショックであった。なぜ彼に手を振り払われたのだろう。どうして柾人は私を見ないのだろう。どれだけ考えても答えが出なかった。


「どうした、アキラ。考え事か?」

 

 スドゥークが自分専用の大きなモーヴを引いてやってきた。他の兵のモーヴは皆、黄色の鞍が付いているが、スドゥークのは革製の朱塗りの鞍が付いていた。腹帯には細かい彫り物が施され、鞍の周りはたくさんの皮のフリンジで飾られている。朗はすぐに笑顔を作って答えた。


「ううん、なんでもない。これに乗っていくの?この子だけ他のモーヴより大きいんだね」

「そうだ。俺様のモーヴなのだから当然だろう」

「名前は?」

「エル・ドラン。わが国の名から取った」

「素敵な名前だね」


 朗はそう言うとモーヴの凛々しい顔を見上げた。



 20人からなる一部隊が一斉に空へ飛び立つと、朗とスドゥークを乗せたエル・ドランも大きく羽を広げ羽ばたいた。上空に舞い上がると、朗は後方を振り返った。すでに巨大な王城は遠くなっている。王城は低い山の頂上に立っていて、すそ野は真っ暗で見えなかったが、それを取り囲む城下町はきらびやかな灯木の光に照らされ、闇の中に浮かびあがっていた。


「ここがエルドラドスの王都?さすがに大きいね」

 朗が尋ねた。


「王都グリンバルだ。お前たちが降り立った町はソードと言うが、あの町も商業で栄えておる。わが国にはそんな街がいくつもある」


 しばらくヒューヒューという風を切る音を聞きながら飛び続けた後、スドゥークは急に右に旋回して隊から離れた。


「みんなとはぐれちゃっていいの?」

「あれは町の偵察隊だ。お前は街を視察するだけで楽しいのか?」


 どうやらスドゥークは観光に連れて行ってくれるようだ。朗はワクワクしながら、街の灯りを見下ろした。






 激しい金属音が鳴り響いた後、柾人は剣を持ったまま3メートルも後ろに投げ飛ばされた。相変わらず冷たい表情のアルが、まるで軽蔑するように睨み下ろしている。


「いい加減にしろ、マサト。集中できないようなら、とっとと部屋に戻って寝てるんだな」

「ごめん。アル・・・」

 柾人は痛みをこらえるように立ち上がると、再び剣を構えた。


 集中しなければと思うのだが、さっき手を振り払った時の朗の悲しそうな顔がずっと目の前にちらついてどうしようもなかった。柾人は気合を入れる為に「「やあっ!」と叫ぶと、アルに向かって行った。簡単に剣を跳ね返される。何度も力いっぱい剣を振り下ろすが軽く流されるだけだ。


 必死に剣を振り回しながら、柾人はずっと浮かんでくる朗の顔に言い訳を繰り返していた。


 ごめん、朗。だけどどうしていいのか分からないんだ。俺はこんなにも情けなくって剣もまともに持てなくて、何の役にも立たなくて。だけど朗はアルと一緒に居たってスドゥークと一緒に居たって、いつだって輝いている。大体ずるいよ、スドゥークなんて。あんなに剣が強くて、セクシーガイでおまけに王子様なんて出来過ぎじゃないか。


 逆立ちしたってかなわないよ。朗もなんだかスドゥークに懐いちゃってるし、いつかあいつが本気で朗にせまったら、そしたらもう朗は永遠に俺の側には戻って来ないんだ。


 再び土の上に体が投げ出され、地面をこする音がした。柾人は激しく息を切らしたまま、立ち上がる事も出来なかった。


「柾人、立て」

 アルの冷たい声が響く。柾人はギュッと手を握りしめ、拳で地面を押した。見かねたマクベスが叫んだ。


「アル、茶が来た。少し休憩にしろ!」


 アルは黙ったまま背中を向け、マクベスの居るテーブルへ歩いて行った。やっとの事で半身を起こした柾人は、立ち上がる事も出来ないまま、じっと地面を見つめた。


「どうして俺ってこんなにダメなんだ?」




 憤慨したように席に着くと、アルは冷たい水を一気に飲み干した。そんなアルをちらっと見ると、マクベスは茶菓子を口に放り込みながら言った。


「アキラがスドゥーク殿とデートに行って悔しいのは分かるが、マサトに当たるのはやめろ」

「当たってなどいない。あいつが集中してないからだ」

「その理由だってお前は分かってるんだろ?」

 アルは黙り込んだ後、柾人を見た。


 そうだ。分かってるさ。あいつの悔しい気持ちも、焦る気持ちも・・・。きっと俺と同じなのだろうから。だから余計、ふがいないあいつに腹が立つ。もういい加減自分の弱さを認めればいいんだ。


「マサト、どうするんだ。まだ続けるのか?」

 アルの声に柾人は全身に力を入れて立ち上がった。


「続けるよ!」

「じゃあこっちに来い。そんな所に居たって休憩にならないぞ!」


 柾人は剣を拾うと、マクベスとアルの居るテーブルへ向かって歩き始めた。






 朗がスドゥークと出掛けると聞いてから、アデリアの気分はずっと晴れなかった。それであとから部屋に来たナーダ相手に、ずっと愚痴を言い続けていたのだった。


「あのスドゥークって男は危険よ。絶対よからぬ事を考えているわね。アキラは純粋だから気が付いていないのよ。あの男の邪悪な部分を」

「よからぬ事って何ですか?」

 ナーダが不思議そうに尋ねた。


「それはもちろん・・・・」


 アデリアは召使いの女達から聞いた、男と女のあれやこれやを思い浮かべたが、ナーダの無垢な顔を見て言葉を止めた。


「まあ・・・色々よ。とにかくアキラを亜妃になんて絶対させないんだから!」

 両手を握りしめて決意表明するアデリアを見て、ナーダはにっこり笑った。


「アデリア様は本当にお友達思いなのですね」

「え?」


 アデリアは改めてナーダを見つめた。そう言えばナーダはアデリアが朗を王士にしようと思っている事を知らなかった。それに朗の男の姿も知らないのだ。アデリアと朗が友達同士でアデリアは女友達の身を心配していると取られても当然だろう。


 ナーダに言われて、アデリアは確かに最近朗の事を見ても、男の朗と居た時のような感情が湧いてこない事に気が付いた。今の朗はとても魅力的な女だ。時々見せるしぐさが何だかかわいいと思う時もある。この間、ゲルドーマとアランドールを策略にかけた時にも、その愛らしさに少し驚いたものだ。


 そう考えると、アデリアは自分が何を怒っているのか分からなくなってきた。もし朗がスドゥークの亜妃になれば、エルドラドスはパルスパナスに間違いなく援軍を送ってくれるだろう。それがパルスパナスを救う一番の近道なのだ。それなのに国の事を一番に考えるべき自分は、こんな愚痴ばかりこぼして何をやっているのだろう。


 だが元来あまり反省などしない性格の彼女はこうも思った。“でも私がアキラを好きな事には変わりがないわ。だからいくら国の為だからと言って、大好きなアキラを犠牲にする事なんて出来ない。する必要もないわ。そうよ”


 アデリアは黙って自分の返事を待っているナーダに向き合うと、にっこり笑った。


「あのね。アキラはこの国では女の姿をしているけど、パルスパナスでは男の子だったのよ。だからアキラはパルスパナスに戻ったら男の子に戻って、私の王士になるの」


 その衝撃的な言葉に、ナーダは驚いて絶句した。ここで初めて朗に出会った時、みんなが朗の様子が変わったと驚いていたが、そういう事だったのか。あの時はアルに好きな人が居る事にショックを受けて、あまりよくみんなの会話を聞いていなかったのだ。それにしても朗が本当は男の子なのだとしたら、アルは男の子が好きって事?でも女らしくなった朗を見て喜んでいたから女の朗も好きって事で・・・。えーっと、えーっと・・・。


 何をどう理解していいかわからず、ただ葛藤するナーダだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ