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ツインブレイバー  作者: 月城 響
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大臣の陰謀

ー カイ達がエルドラドスへやって来る少し前のパルスパナス -



 日が沈むまで剣の訓練をしていたジョアンは、デーシィや他の3人の仲間、マークル、ロット、クロビスと共に城内へ戻ってきた。朗と初めて試合をしてコテンパンにやられてから、ジョアンはいつも遅くまで仲間達と剣の練習をしていた。他の兵はもうとっくに食事を終え、部屋に戻って寝ているだろう。


 今あいつは木霊王の選定者としてエルドラドスへ行き、マクベスやアルテウスとともに重要な任務をこなしているらしいが、帰って来たら必ず試合を申し込んで今度こそ勝ってやるんだ。今はそれがジョアンの大きな目標だった。


 激しい訓練と空腹の為か、5人とも疲れて言葉も出ないまま、兵卒の控室へ向かっていた。重い剣を抱え直したジョアンがふと顔を上げると、廊下の先にある広間を2人の男が歩いて行くのが見えた。


 前を歩いて行くのは左大臣のオクトラスだ。薄暗い広間の中を灯木を持って歩いて行く。深いしわの刻まれた顔が灯木の光によって浮かび上がっていた。その後ろに居るのは真っ白な長い髪を腰の下まで伸ばした男だった。水鳥のように幾重にも折り重なった4枚の白い羽を見て、ジョアンは一瞬背中が凍り付いたように思った。あれはこの間朗やマクベス達が捕まえた天空族の高吏に違いない。


 だが男は霊力を封じる手枷こそ付けられていたが、それ以外は縄で繋がれてもいなかった。どう考えても妙な感じだ。そう思ったジョアンは黙って仲間達に壁にある突き出た柱の陰に隠れるように合図した。


 良くは分からなかったが、嫌な予感がした。ジョアンはデーシィや他の仲間に頷くと、そのまま姿を隠しながらつけてみる事にした。


 あまり人通りのない城の奥にあるらせん階段を使い、彼らは徐々に城の上部へ登っていく。この先にあるのは王聖女の居る聖華殿と、木霊王を祀る聖王殿だ。いつもは兵が守る聖華殿の入口には、今あるじが不在の為か、誰も居なかった。


 聖華殿の大きな木製のドアを開け、オクトラスが中へ入っていくのを見て、デーシィは思わず前を歩くジョアンの腕を掴んだ。確かにこんな場所にオクトラスが敵の司令官を連れてくるなんておかしいのは分かっている。だが一兵卒が聖華殿に入る事も認められてはいないのだ。


「ジョアン、やめよう。こんな所へ入った事がばれたら俺達・・・」

「ああ、確かにまずいよな。でも行かなきゃならない。そんな気がする。お前らだってそう思うだろ?」

  

 問われた仲間達は互いの顔を見合わせた。


「行こう。今はマクベスさんもアルテウスさんも居ないんだ。俺たちが行かなきゃ」


マークルが決意したように言うと、ロットとクロビスもうなずいた。4人の仲間が再び歩き出すのを見て、デーシィは「あーっ、もう!」と頭を掻きむしって仲間達を追った。





 先ほどオクトラスが通った飾り木の入り口をそっと入ると大きな広場があり、さらにそこを抜けると、たくさんの青い柱が立ち並ぶ廊下が周りを取り囲む小庭園があった。


「ここが聖華殿・・・」


 ジョアンの後を行くマークルが思わずつぶやいた。こんな事でもなければ彼らが一生入ることなど許されない場所だろう。既にオクトラスの姿はなかったので、ジョアン達は足音を忍ばせながら急ぎ足で廊下を走り抜けた。


 聖華殿を抜けた所に高い天井の広間があり、そこが聖王殿の入り口になっていた。オクトラスと天空族の男は巨大な木の柱を抜け、とうとう聖王殿の中に入っていった。


 聖王殿に敵を入れるなんて・・・。ジョアンは心にわき起こった怒りに体が震えてきた。ここは妖精にとって最も神聖な場所だ。こんなこと絶対に許されるはずはない。それでもジョアンは自分を抑えて彼らに気づかれないように付けて行った。オクトラスがなぜこんな事をするのか確かめなければならないのだ。


 鬱蒼とした森の中を抜けると、丸い大きなドーム状の広間に出た。そこで止まると、オクトラスはカイの方を振り返って彼の手枷に手をかざした。途端に音を立てて枷は床に落ちた。その瞬間彼らの周りに30人以上の天空族が現れた。


 広間の入り口に隠れてそれを見ていたジョアン達は、思わず声を上げそうになって口を押さえた。あれは牢にとらわれていた敵兵全員に違いない。幻術で姿を消して彼らの後を飛んでいたのだ。


 一体どうしたらいい?ジョアンは不安に唇を噛み締めた。左大臣と天空族の高吏だけでも自分達には歯もたたないのに、さらに敵が増えてしまった。もし見つかれば間違いなく殺される。ジョアン達はさらに入り口の暗がりに身を沈めるように姿を隠した。



 部下達が全員姿を現すと、カイは腰の剣を引き抜き、オクトラスに突きつけた。


「本気で木霊王の祭殿まで連れてくるとはな。一体何が目的だ?」


 目の前に剣を突き付けられてもオクトラスは動じなかった。


「まだ信じられぬのか?牢から出し、剣まで与えたのだぞ。よいか。王聖女がエルドラドスの援軍を連れて戻ってくれば、もはやそなた達に勝ち目はない。わしが何も気づかないと思っておるのか?我らを滅ぼしたいのなら、なぜ全軍を率いて空から攻めて来ぬ。なぜ2年間も様子を伺うように少人数でしか襲ってこないのだ。


 それはそなたたちの軍が形を成して無いからであろう。まともに戦えるのは100人か200人程度。だから全面戦争を起こせない。エルドラドスへ行け。今なら王聖女の側に居るのは3人の護衛とあとは力のない人間一人だ。お前の望み、叶えて来るがよい」


 カイはぐっと奥歯をかみしめた後、剣を収めた。オクトラスはさらに続けた。


「しかし、ここからならお前達をエルドラドスへ送る事は出来るが、戻って来られるかどうかは分からぬ。それでも行くかどうか、今ここで決めるがよい」


 もとより、国を出た時から生きて帰れない事は覚悟の上だった。木霊王の選定者であるあの少年と善導者さえ殺せば王の望みは叶うのだ。パルスパナスはサラーシャと同じように崩壊する。


「望むところだ」


 カイの返事にニヤリと笑うと、オクトラスは全身の霊力をため込むように大きく息を吸った。左大臣と言えど、王族の協力なしに異国への扉を開くには、相当な霊力が必要だった。


「はぁぁぁぁっ!」


 小さく唸るようにオクトラスが声を上げた時、目の前に空気の渦が巻き起こった。彼がゆっくりと両手を広げて行くと、徐々に渦も広がり、その先に真っ暗な空間が現れた。ユリウスは隣に居るカイにうなずくと、真っ先にその暗闇に飛び込んだ。兵達がそれに続く。そして最後にカイが闇の中に消えた後、力を失ったようにオクトラスは床に膝をついた。その瞬間、入り口は小さく縮み、やがてシュッと音を立てて消えた。


 息を切らしながらオクトラスは小さく呟いた。


「望みか・・・。わしの望みなど、誰にも分からぬ」


 じっとその様子を見守っていたジョアン達は、互いに顔を見合わせた。


 とにかくここから出よう。ジョアンの合図に仲間達はそっと移動を始めた。逃げるように聖華殿の入口を出てきた彼らは、やっと息をするのを思い出したように大きくため息をついた。


「どうする?ジョアン」

 デーシィの問いかけにジョアンは首を振った。


 国の左大臣が善導者を殺そうとしている。こんな有り得ない話、誰が信じてくれるだろう。


「カクト隊長に相談しようか」

「俺達の言う事なんか、信じてくれないよ」

 ロットの言葉にクロビスが反論した。


「違う。総隊長だよ。彼ならきっと・・・」


 マークルの意見にジョアンとデーシィは顔を見合わせた。確かにメディウスは、飛行部隊の隊長ケーニスのように威張り散らしたりしないし、いつも物静かで、ジョアン達のような下級の兵にも言葉をかけてくれる。だが彼らのような一兵卒の方から総隊長に直接話をするのは、許されていなかった。


「でも今は非常事態だ。そうだろ?」


 ジョアンの言葉にマークルがうなずいた。


「行こう。俺達がやらなきゃ誰がやるんだ?」


 彼らはうなずき合うと、一塊になって走り始めた。








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