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ツインブレイバー  作者: 月城 響
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揺れる思い

 色とりどりの灯木が光りを放つ中庭で、朗は怒りに燃えながら、スドゥークと剣を交わしあっていた。激しく刃をぶつけ合う音があたりに響き渡っている。マクベスとアルとナーダは客用に席を用意してもらい、食後のお茶を飲みながら朗とスドゥークのけいこを見ていた。


「すごい迫力だわ。アキラさんって本当にすごい!」

 ナーダが感嘆したように言った。


「それはもう、アキラは木霊王の選定者だからね」


 スドゥークと仲がいいのは気に入らないが、朗が本気でスドゥークを倒そうとしているのはアルにとって気持ちのいいものだった。


「それにしてもこの茶はいけるな。茶菓子もなかなかのものだ。さすがエルドラドスの王城だけはある」

 マクベスは朝たらふく食べたのに、まだ物足りないようだ。


 そんな和気あいあいとした仲間達と違って、朗は汗まみれになりながら今日こそスドゥークを倒そうと懸命だった。だがいつも通り、息を切らしている朗とは対照的にスドゥークは涼しい顔で朗の剣を受けている。


「もう!本当にスドゥークは。意地悪なんだから!」


 本当は柾人の看病がしたかったのに、剣のけいこは毎日する約束だからと召使いに連れ出されたのだ。とっととけいこを終わらせて柾人の様子を見に行きたかった。


「一晩中看病してやったのだろう?医者ももう落ち着いていると言っている。第一俺との約束の方が先約だった」

「分かっているよ。だからこっちに来たんじゃないか!」


 叫ぶと朗は剣を振り上げ、猛ダッシュでスドゥークに向かって行った。力いっぱい振り下ろされた剣をスドゥークが跳ね返すと、朗の剣は手を離れ、回転しながら地面へと落ちた。それを見てマクベスが残った菓子を口に詰め込みつつ立ち上がった。

 

 「さて。そろそろアキラを解放させてやるか」


 彼はアルに聞こえないよう小さく呟くと、スドゥークの方へ歩いて行った。


「スドゥーク殿。ぜひ私とも一つ、手合せ願えませんかな?」

 スドゥークはニヤリと目を細めると、マクベスを振り返った。


「俺の剣技けんぎを見て挑戦してくるとはいい度胸だ。さてはパルスパナス一の剣士とでも(うた)われているのか?」

「一応そう呼ばれております」


 スドゥークが命じると、部下が練習用の剣をマクベスに渡した。


ー ふん、軽いな ー


 マクベスは2、3度剣で空を切ると、スドゥークに向かって構えた。


「参る」


 マクベスが羽を広げ、低空から一気にスドゥークに向かって行った。スドゥークはまるで身を躍らせるようにマクベスの剣を跳ね返す。そのまま空へ飛び立つと剣を下に向け急降下。下に居たマクベスも身をひるがえしてそれをよけると、スドゥークの後ろから切り込む。


 息もつけないほどの攻防戦だ。今度は何度も剣を交わしあいながら空へ。空中で激しくぶつかり合う。互いに渾身の一撃を加えた後、距離を取った2人はにらみ合いつつニヤリと笑った。


ー こりゃすごい。気を抜くと叩き落とされそうだ -


 マクベスが息を整えるようにゆっくりと深呼吸した。


「手ごたえのある奴は好きだ。屈服させる楽しみがある」

 スドゥークもふっと息を吐くと、大きく羽ばたきマクベスに向かって行った。


「すごいわ!」

 空を見上げナーダが叫んだ。


「これは苦戦しそうだな」

 いつもは人の稽古になど興味を示さないアルも、スドゥークの強さに対して親友がどう戦うか、関心があるようだ。 


 人々の目が上空に集中する中、朗はそっと中庭を抜け出した。柾人は大丈夫だろうか。もう目を覚ましているかな。それともまだ眠ったままかも・・・。とにかく早く様子を見たかった。


 城の階段を駆け上がり、小走りで長い廊下を抜けて、やっと柾人の部屋にたどり着いた。すると中から話し声が聞こえてきた。誰かが部屋に来ているのだろうか。そっとドアを開けて中を覗いてみると、アデリアが柾人に何かを食べさせているところだった。


「アチッ、熱いよ、アデリア」

「だらしないわね。それ位グイッと飲み込みなさい」

「それじゃあ火傷するだろ?少しかき混ぜて冷ますとかしないと」

「分かったわよ。じゃあ、渾身の力を込めてかき混ぜてあげるわ!」

「わぁぁ、それじゃあ具がつぶれるよ!」


 なんだか仲のよさそうな2人を見て声をかけられなくなった朗は、そのままそっと扉を閉めた。再び城の廊下を抜けて仲間の居る中庭へ戻りながら、朗は自分の心にふと沸き起こった感情に戸惑っていた。

 

 どうしてだろう。なんだか胸がもやもやする。こんな気持ちは初めてだった。私にとっては柾人もアデリアも大切な人だ。彼らが仲良くしてくれたら、嬉しいはずなのに・・・・。





 朗が再び中庭に戻ると、丁度スドゥークがあおむけになったマクベスの鼻先に剣を突き付けて勝負がついたところだった。


「見事な腕だな。どうだ。我が国に仕官せぬか?」


 負けたマクベスは大きく息を切らせながら、ちょっと悔しそうに笑った。


「やめておきます。毎日こんな稽古をさせられたら身が持たない」


 スドゥークもニヤリと笑って剣を収めると、マクベスの上から立ち退いた。


「アキラ、茶だ。付き合え!」

「う・・・うん」


 朗は心の動揺を仲間に悟られないように、うつむいたまま走り出した。






 地下の国、エルドラドスには星のまたたきも月の淡い光も差し込まない。そんな暗闇だけが支配するこの国の空に、たくさんの強い光が通り過ぎて行った。地上に降りた光が徐々に弱まると、中から真っ白の羽で体を守るように覆った天空族が現れた。ゆっくりとその大きな羽を広げると、彼らは立ち上がり、あたりを見回した。


 遠くに民家の灯りがぽつぽつと見えるほかは何も見えない。彼らの周りもほとんど草のないごつごつとした岩地が広がっているだけだった。


「カイ様」


 灯木を持ったユリウスが近づいて来た。


「お怪我はありませんか」

「大丈夫だ。それより全員無事か?」

「はい。カイ様の部隊20名と私の部隊16名、全員そろっております」


 カイはそこに居る全員に幻術をかけ姿を消すと、早急に王城の場所を調べてくるように命じた。パルスパナスの善導者は必ずこの国の王城へ向かうはずだ。いや、もう到着しているかもしれない。エルドラドスが簡単に援軍を引き受けるとは思えないが、もしそんな事になったらサラーシャが攻め滅ぼされるかもしれないのだ。なんとしてもその前に善導者を殺してしまわなければならなかった。


 部下たちの気配がなくなると、カイは一人闇の中を見回し、その場に座った。エルドラドスへの扉を開けたのはオクトラスだったが、あまり霊力を持たない部下たち全員を守りながら飛び続けたので、カイは疲れていたのだ。


 小さくため息をついた後カイは、牢の中でオクトラスと交わした会話を思い出した。



 最初パルスパナスの左大臣にエルドラドスへ送ってやると言われた時には、にわかに信じられなかった。本当にパルスパナスの善導者はエルドラドスに居るのか疑っていたのだ。だがオクトラスが木霊王の聖王殿にまで敵である彼らを入れたのは、もはやオクトラスが国を裏切るつもりなのは明らかだった。


「左大臣が己の国の善導者を売るとはな・・・・」


 ふとつぶやいた彼は何かの気配を背中に感じ、驚いて振り返った。腰まで赤い髪を伸ばした小さな少女が不思議そうな顔でカイを見つめていた。



「お兄さんも導主様のみ使い?あっ、そうか。アルは妖精だからみ使いじゃないんだっけ。じゃあ、お兄さんも妖精なの?」


ー この娘、妖精を知っている? -


 カイは剣の柄にかけた手をゆっくり放した。見たところ、少女は妖精ではなく、魔族の娘のようだ。だが妖精の居場所を知っているなら、これほど好都合な相手は無い。


「私は妖精ではないが、妖精とは友達なんだ。お嬢ちゃん。彼等の行方を知っているなら教えてくれないかい?ぜひ会いたいんだ」

「私はお嬢ちゃんじゃないわ。テルマよ。アルはナーダと一緒に王城へ向かったわ。お兄さん、アルを知っているの?」

「ああ、もちろんよく知っている。彼の仲間の事もね。テルマ。私を王城へ案内してくれないかい?礼はするよ」


 テルマは少しの間考えていた。ナーダにはゾーマの所で待っているように言われたが、5日経っても彼女はまだ戻っていなかった。ゾーマの家は子沢山で遠慮したテルマは、食事以外は家に戻って寂しい思いを抱えつつ、一人で暮らしていたのだ。


 王城へ行けばナーダに会える。そう思ったテルマはカイを案内すると返事した。


「でもゾーマに一言断ってくるね。急に居なくなったら心配するから」

「その必要はない」


 ニヤリと笑って立ち上がったカイはテルマをいきなり抱きかかえて空中に舞い上がった。今すぐ部下を追えば、4枚羽の自分なら追いつけるはずだ。カイは驚いているテルマを強引に抱えたまま、その場を飛び去って行った。







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