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ツインブレイバー  作者: 月城 響
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再会

 王族との会議が長引いたのか、その日の昼食はいつもより遅れて始まった。朗はドレスではなく、剣の練習をする時に着る服を用意してもらい、それを着て行った。実はこの国の練習着を気に入っていたのだ。アイボリーのブラウスとパンツはそろいの生地で出来ており、どちらも滑らかで動きやすい。少々ブラウスの裾とパンツの裾が広がっているのが気になるが、それも動きやすさを追求しての事だろう。


 剣は刀身が長いので、腰につけるのではなく、背中に背負うようになっている。皮のショルダーを肩と腰に巻き付けて固定するタイプで、服とも相性が良い。この練習着を考えた人はなかなかセンスのある剣の達人(きっと女性だろう)に違いないと朗は思った。


 妖精の国でも人の国でも身分の高い人との会食にこんなスタイルでいったら怒られるかもしれないが、かしこまった事が嫌いなスドゥークなら何も言わないだろう。案の定彼は別段驚いた風もなく、いつもと変わらぬ態度だった。ただ、ディーオだけは少々渋い顔をしていたが・・・・。



「ねぇ、イイ所ってどこ?みんなの所に連れて行ってくれる・・・なんて事ないよね」

 少しだけ期待を込めて朗が尋ねた。


「その前に剣の練習をせぬか?やる気満々のようだ」


 スドゥークが練習着を見つつ、ニヤリと笑った。


「これはドレスが嫌だから来ているだけだよ。それにどうせスドゥークには勝てないし」

 朗はまだすねているようだ。


「勝てない相手と練習するのが訓練だろう。自分より弱い奴と練習しても強くはなれん」

「でも・・・剣ばかり強くなっても・・・」


 朗はさっき考えていた事を思い出して口ごもった。


「私の仲間には人を癒す力が強い人や、人を守る事が出来る人がいるんだ。なのに私は戦うばかりで、他に何も出来ない」

「お前はずいぶんと欲張りな女だ。敵に囲まれた時、戦う以上に人を守れる力があるか?我が兵と戦っていたお前は、十分仲間を守っていたではないか」


 スドゥークは手を伸ばすと、朗の顎を親指と人差し指でギュッと握った。


「よいか。仲間に人を癒す力や守る力があるのなら、お前にその力は必要ない。お前の欠けた部分を補ってくれるのが仲間だ。だからこそお前は仲間を信じ頼れる。そしてそれが仲間にとって喜びになり、力になるのだ。そうやって共に助け合って生きていく。それが仲間というものだ」


 朗はスドゥークの手のぬくもりを感じながら彼を見つめた。



「でも、スドゥークは何でも一人で出来るでしょう?」


 彼は朗から手を離すと、大声で笑った。


「まさか。俺のやる事はあまりにも多すぎる。一人などとても無理だ。だからこそ有能な人材を集めて俺の力にしている。お前もそうすればいい。何もかも一人でやろうとする者は、反対に愚か者だ」


 スドゥークの言葉で朗は元気が出てきた。


「ねぇ、スドゥーク。一つ質問してもいい?」

「なんだ」

「私がこの国に来て一番不思議だったのは、言葉が通じる事なんだ。妖精と人間の国は同じ地上にあるから分かるけど、今まで全く交流のなかった地下のこの国までどうして同じ言語なんだろう」


 朗の質問にスドゥークは、愚問だなと言わんばかりに笑った。


「それは導主が一つだからだ」

「一つ?導主はそれぞれの国に1人ずつ、全部で4人居るんじゃないの?」

「それは人のように個々の個体として考えた場合の事だろう?俺は一つ・・・と言ったんだ。分かりやすく言えば、導主は一つの意志から成り立っていると言う事だ」

「一つの意志?よく分からないなぁ」


 朗は首を傾げた。


「俺は善導者だが、善導者とて導主のお姿を拝顔したものなど誰もおらぬ。もともと導主には人のような肉体は無いのだと俺は思う。導主の御声を聞くと言っても、実際に声が聞こえるのではなく、体の中に響いてくるような感じで、それを意識として理解するのだ。


 まあ、経験せねばよく分からんだろうが、とにかく導主は俺たちとは全く異種の存在だ。4つの意識に分かれていても一つの意志を持つ不変の存在なのだ。お前の国に導主はおらぬのか?」


「うーん、導主という名前ではないけど、一杯居るよ。私の国は日本という国だけど、そこにも日本古来の神様がたくさんいるんだ。でも導主のように一つではないなぁ。本当にたくさん居て。もしかすると人の世界を良くするという点では根本的に同じかもしれないけど、人間が都合のいいように変えちゃってるのかもしれないし。・・・やっぱり私にはよく分からないな」


「自分の国の事もよく分からないのに、他の国の事を理解するのは難しいかもしれぬな」


 スドゥークの言う通りだ。他の国の人に自分の国の事を尋ねられても説明できない自分が朗は少し恥ずかしかった。





 朗が部屋に戻ったのを見計らってディーオが食事の間に入ってきた。


「申し訳ありません、スドゥーク様。ドレスを着るよう説得したのですが、どうしてもあれがいいとおっしゃられて・・・」


「あの服の事か?好きにさせてやれ。あれは光の中を飛ぶ鳥だ。どんなに捕まえておこうとしても太陽の光を見つけて飛び立っていく。まあ、そんな女を自分の物にしたいと思うのも男のさがだろうがな」


 冷めた目をして言ったスドゥークをディーオは微笑んで見つめた。


「あなたはすべてを見通しておられるのですね」

「まさか。すべてを見通せるのは導主だけだ。俺にそんな力があったら、とっくに永遠の命など煩わしいものは捨てて限りある生を気楽に生きてるさ」


 ディーオはスドゥークを同情するように見つめた。


「今日の会議では何と?」

「相変わらずうるさい奴らだ。人間の小娘を一人、城に居れた位 でガタガタと抜かしおって。だがこれからもっと面白くなるぞ。人間どころか妖精までやって来るからな」


「よろしいのですか?又敵を作る事になっても・・・」

「あいつらの言う事ばかり聞いていられるか。アキラには俺が救援を求めてやって来たかわいそうな奴らを攻撃した事になってるんだぞ。これ以上あんな目で見られるのは息苦しくてかなわん」

「正直におっしゃればよろしいのに」

「憎まれ役には慣れておる。朗にはもっと憎まれる事になりそうだがな」


「ではよろしいのですね。アキラ様をお連れしても」

「放っておいても、その内妖精はやって来る。丁度いい頃合いだろう」

「かしこまりました」


 ディーオは頭を下げて部屋を出て行った。




 朗が自分の部屋へ戻ると、侍女のマノンがお茶の用意をして待っていた。彼女を見ると、朗はいつも妖精の国で自分の世話をしてくれたミディを思い出す。ミディもいつもそうやって部屋で待っていてくれたものだ。だがミディは男の朗しか知らないし、マノンは女の朗しか知らない。それも何となく不思議な感じだった。


 この国のお茶の入れ方は茶葉を丁寧に煎るところから始まる。小さな炉の上に鉄の鍋をおいて、動かしながらゆっくりと香りを出す。それから鉄瓶に入れ、湯を注ぐのだ。部屋の中に香ばしい香りが行き渡り、朗はマノンがお茶を煎る音を聞いているのが好きだった。


 見かけがコーヒーのような真っ黒のお茶を飲んでいると、ディーオがやって来て朝約束した場所へ連れて行くと言った。あのスドゥークの事だから本当にイイ所に連れて行ってくれるか疑わしいと思っていたら、やはりどんどん暗い地下へ降りて行くようだ。


「ねえ、ディーオ。ここって牢じゃないの?」

 暗い穴ぐらの中を進んでいくディーオの背中に尋ねた。


「はい。牢です。でも貴方にとってはきっと良い所になるはずですよ」


 ホントかなぁ・・・。朗は暗く湿っぽい壁を見回しながら思った。まさか今更スドゥークが自分を捕えよと命じたとは思えないが、朗は不安だった。突然、牢の中から伸びてきた手に腕を掴まれ、朗は驚く間もなく牢の鉄格子まで強引に引き寄せられた。怯えながら朗は、鉄格子の向こうにある男の顔を見て更にぎょっとした。


 浅黒い痩せこけた顔の中から飛び出たように血走った眼。ぼうぼうに伸びた髪は薄汚れていて、ほとんど白髪だった。枝のようにがりがりの手や指は死人のように冷たいのに、とても振りほどけない力があった。


 朗は恐怖で息が止まったようにそれを見ていたが、突然空気の波動が起こって、男が頭から後ろに吹き飛んだ。ディーオが男の額に向かって霊術を放ったのだ。その力は空間をゆがめたように見えたが、彼の力はどうやら透明のようだ。


 吹き飛ばされた男はよろよろと立ち上がると、手首にはめられた鉄のかせの音を立てながら再び近づいて来た。


「おのれ、ディーオ。このわしに霊術を放つとは、思いあがった逆臣め。スドゥークの腰巾着が」


 呪いの言葉にディーオは軽蔑のまなざしを向けると、朗の肩を抱いてその場を通り過ぎた。その間も男は叫ぶのをやめなかった。


「その女はスドゥークの新しい女か?どんな女を連れてきても、あの男が永遠の命を捨てるものか。わしらが全員死ぬのを待っておるのだ!」


 朗は後ろを振り返って見た後、黙って歩き続けるディーオを見上げた。


「ディーオ・・・あの人、6枚の羽があった・・・」


 ディーをは小さくため息をつき、朗の肩から手を離した。


「怯えさせて申し訳ありませんでした。確かにあの男は王族です。いえ、王族でした。いつもは別の塔に幽閉されているのですが、そこを見事に破壊して逃亡を図ったので、今一時的にここへ移されていたのです。すっかり失念しておりました。お怪我はないですか?」


「うん。王族なのに幽閉されるなんて、あの人、何をやったの?」

「それは・・・・」


 ディーオは少し言葉を選ぶように間を開けた。


「暗殺を謀ったのです。スドゥーク様の」

 朗は驚いて息をのんだ。あのスドゥークがそんな目に遭っていたなんて。


「王族って事はスドゥークの血縁なんでしょ?」

「はい。あの方の名はドラクルール・ラダ・ナーシュ。今は亡き第2王聖子の一人息子で、スドゥーク様の甥にあたられます。あの方が小さい頃は、いつもスドゥーク様のあとをついて回ったものだとスドゥーク様がおっしゃられておられました」

「そんな・・・」


 スドゥークの気持ちを思うと、朗の心は痛んだ。


「スドゥーク、辛かったよね」

「そう思われるならスドゥーク様の側に居て、話し相手になってあげて下さい。あの方には心を許せる者が少ないのです」

「私は・・・」


 朗がどう答えていいかわからずうつむいた時、ディーオが立ち止まった。


「アキラ・・・・?」


 目の前の牢から響いて来た懐かしい声に、朗は驚いたように顔を上げた。2メートル以上ある大柄な男は座っていた石の台から立ち上がって朗をじっと見ていた。3日前別れた時より少し疲れたような表情だったが、それでも朗は嬉しそうに叫んだ。


「マクベス・・・!」











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