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ツインブレイバー  作者: 月城 響
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魔族との戦い

 見破られないよう慎重に幻術をかけ、姿を消した後、彼らは5人そろって町へ飛んだ。極彩色の町ははるか遠くにまで広がり、エルドラドスの繁栄をうかがう事が出来た。


「人通りが増えてきたな。そろそろ町の中心かもしれん。降りてみよう」


 マクベスの提案に従って、彼らは建物と建物の間にある細い路地に降り立った。姿を消しているのだが、物音や声が響くと困るので、彼らは路地の中から人でにぎわう街の様子を見てみた。魔族はみんな黒か赤の髪色をしていて、浅黒い顔の人が多いようだ。妖精の国よりもどちらかと言うと人族の国に近い雰囲気があった。背中に付いている羽は黒く、天空族の羽をそっくりそのまま黒くしたような感じだ。


「想像していたのとずいぶん違うな」

 マクベスの呟きにアルが答えた。


「ええ。私も魔族は天空族よりもっと上から下まで真っ白だと思っていました」

「え?どうして?」

 不思議そうに朗が聞いた。


「光のない暗い洞窟の奥に住む生き物はたいてい真っ白ですよ。目も退化しているし。でもここは地下の癖に妖精の国より明るい。私だったらこんな明るい所にばかりいたら不眠症になりますよ」


 言われてみればそうだ。妖精の国の夜は本当に暗い。城や家の中には灯木がついているが、それも人の国のろうそく程度の灯りなので、夜城の中を動き回ると時々段差でつまずく事があった。


「じゃあ、ここの灯木は太陽の光と同じなんだ」


 太陽光に24時間さらされているのだと考えれば、彼らの肌が浅黒いのもうなずける。紫外線量は本当の太陽よりかなり少ないだろうが・・・。


「地下にある太陽か・・・。それこそまさに暗地王の力なんだろうな」 

 再びマクベスが呟いた。




 アデリアは暗地王からこの国の善導者に妖精族が助けを求めに来ることは伝わっているはずなので、この姿のまま王城へ行けばいいと言ったが、どこまで話が伝わっているかは分からないし騒ぎを起こすのも不本意なので、とりあえず幻術で魔族のふりをして王城を目指すことにした。


 全員の髪を目立たないよう黒髪に変え、街に居る魔族と変わらない服装にした。いざ路地から出ようとした時、朗が「ちょっと待って」と声をかけた。


「赤だ。この国の女の人はみんな赤い髪をしているよ」


 言われてもう一度町を見回し気が付いた。確かに男と女で髪の色がはっきりと別れている。男は黒髪、女は朗と同じ赤毛だった。


「とんでもない間違いをするところだったな。姫の髪を赤毛に変えねば・・・」

 

 マクベスの幻術によってアデリアの髪が徐々に赤く染まっていくのを見ながら朗はふと思った。


― どうして私の髪は、魔族の女と同じ赤色なんだろう ―




 彼らは路地から出、街の人々に交じって歩き始めた。途中、店の前を通ると見た事のない乾燥した食べ物や、少々気味が悪いくらいに色の濃い飲み物を売っていて、それを勝手に手に取ろうとするアデリアを制するのが大変だった。


「兵だ!王城の高空部隊だぞ!」


 人々の声にドキッとして朗たちは空を見上げた。建物の屋根と同じくらいの高さを2、30人の兵が飛びながらやってきた。


「上を見ないで。このまま通り過ぎましょう」


 アルの声に皆は空を見上げるのをやめ、なるべく目立たないように行こうとした。だが突然、一番前を歩いていたマクベスの上から槍が降って来て地面に突き刺さり、彼らの行く手を阻んだ。部隊の先頭を飛んでいた4枚羽根の男が部下からもう一本の槍を受け取りながらニヤリと笑った。


「幻術で目くらましをしても、俺の鼻はごまかせん。妖精のにおいがプンプンしてくるわ。まあ、妖精のにおいを嗅いだのは初めてだがな」


 敵対心丸出しの大男に、マクベスとアルは剣を抜いて飛び上った。街を歩いていた魔族たちは、叫び声をあげながら逃げていく。だが朗は剣を抜かなかった。アデリアと柾人の前に立って叫んだ。


「我々はパルスパナスから救援を請いに参った使者です!どうかエルドラドスの王に会わせてください!善導者には暗地王から話があったはずです!」


 すでにマクベスとアルの周りは十数人の兵に固められ、他の兵はみな空から長い槍を下に居る朗たちに向けている。もし今攻撃されたら・・・・。朗は汗のにじむ右手に力が入るのを抑え込むように奥歯をかみしめた。隊長である高吏はニヤリと笑うと、再び手に持った槍を朗の目の前に投げつけた。


「暗地王から?そんな話は聞いておらんなぁ。俺達が受けたのは、パルスパナスからの使者を捕獲せよ、という命だ。生死は問わずな」


 男が剣を引き抜くと同時に、朗も剣を引き抜いた。


「でああああぁっ!」


 朗が剣を振り回すと、その周りに金色の波動が沸き起こり、向かってきた20本以上の槍をすべて弾き返した。他の兵がマクベスとアルにも襲い掛かる。空から向かってくる敵と戦いながら朗は後ろに居る柾人に叫んだ。


「柾人!アデリアを連れて逃げて!」

「え?でも・・・」


 ここまで来て逃げるなんて・・・。それじゃあ俺は何のために来たんだ?


 柾人は首を振って前へ出ようとしたが、アデリアが柾人を押しのけた。


「こんな男に守ってもらわなくても自分の身くらい自分で守れるわ!」


 アデリアが両手を広げ霊力を放とうとしたが、再び朗が叫んだ。


「アデリアは戦っちゃだめだ!柾人、アデリアを連れて逃げて!お願い!」


 上空に居るアルとマクベスも向かってくる兵の槍を交わすのに懸命だ。霊術を使えば下に居る朗達に当たるかもしれないし、間違いなく建物を破壊し、一般の魔族を巻き沿いにするかもしれない。それに救援を請いに来ているのに、その国の兵を殺すわけにはいかなかった。


 アル達も朗やアデリアの事を気にしながら何とか逃げる手を考えていたが、エルドラドスの兵は妖精のにわか作りの兵と違って非常に統率がとれていた。ここの兵も下級兵にしては皆腕が立つ。彼らの1人も傷つけずにただ逃げるのは非常に難しく、マクベスもアルも防戦に回るしかなかったのだ。


 一方朗もアデリアと柾人を守りながら必死に兵を防いでいた。柾人は何度も朗の試合を見に行ったことがあるが、こんなにたくさんの敵と戦っている朗を見るのは初めてだった。当然剣道の練習や試合は、一対一が基本だ。なのに朗は周りから襲い掛かってくる幾人もの敵にまったくひるむことなく、峰打ち(相手を殺さないよう刃の背で打つこと)を食らわしている。


 朗の剣はとても早くてとても柾人には見切れなかったが、朗は大きな剣を竹刀と同じように振り回しているのだ。その姿は戦うと言うより、まるで舞を踊っているようにも見えた。だが重い剣で戦う朗が追い込まれているのは確かだ。


― どうすればいい・・・? -


 柾人は周りを見回しながら考えた。上空に居るマクベスとアルも自分の事で精一杯のようだ。


― どうすればいいんだ? ―


 焦る気持ちの答えが出る前にまた朗が叫んだ。


「行って、柾人!」


 朗の汗にまみれた表情を見た時、柾人は隣に居るアデリアの手を掴んで後ろに走り出した。


「なんなの、お前。放しなさい!」

 嫌がるアデリアに柾人は叫んだ。


「行くんだ!」


 アデリアは一瞬躊躇したが、柾人と共に走り出した。朗と戦っていた兵が数人柾人達を追おうとした。それを見て朗は思い切り地面をけって空中に飛び上ると、それらの兵を後ろから叩き落とした。


 今、朗は金色の光に包まれながら空中に居た。息を整える為に大きく深呼吸すると剣を正面に構え、前方に居る兵をにらんだ。


「この先へは行かせない。絶対に・・・・!」





 アデリアは後ろを振り返った後、前に居る柾人に後ろから抱き付いた。びっくりして立ち止まった柾人はすでに空中に居た。アデリアが後ろから柾人を抱き上げ飛び立ったのだ。男を抱き上げているのでアデリアは必死の表情だ。それでも地上を走るよりは早かった。2人は建物の間を縫って逃げ去った。



 遠巻きにこの戦いの様子を見守っていた魔族の市民が叫んだ。


「援軍だ!しかも地王軍だぞ!」


 マクベスとアルが顔を上げた先に、空を飛ぶ霊獣に乗った一群が見えた。鋭い目とくちばしをした霊獣は全身真っ黒で、羽と尻尾の下部に黄色い模様があり、それが暗闇でぼうっと光っていた。


― この国には空を飛ぶ霊獣が居るのか・・・? ―


 アルは敵の槍を受けながら思ったが、それよりも新手が来た方が重要だった。しかも地王軍と言う名がついている以上、王軍の中で最も精鋭の部隊に違いない。


 霊力は使わないでいようと思っていたが、地王軍の中央部隊が来る前に逃げなければ助かるすべはない。マクベスを見ると、先程の高吏とにらみ合っていた。あの男も剣ではマクベスにかなわないので、霊力を使う気だ。アルはもうずいぶん離れてしまった朗に叫んだ。


「アキラ!霊力を放つから逃げなさい!」


 彼がそう叫んだ瞬間、高吏が黄色い光の霊術をぶつけてきた。マクベスとアルも同時に霊術を放った。白と青と黄色の光がぶつかり合い、その瞬間大きな音を立てて爆発音が響き渡った。


 魔族の兵が吹き飛ぶのと同時に朗も金色の光に包まれたまま爆風に弾き飛ばされた。当然近くに居たアルとマクベスも巻き込まれ、吹き飛ばされた。





 追手から逃れられたアデリアはなるべく人目につかない暗闇を目指した。やっと民家がまばらになってきた場所まで来ると、柾人を持っていた手を緩めた。ここには月の光もないので当然民家と民家の間は本当の闇だ。その闇の中に放り出された柾人は「うわぁっ!」と叫びながら地面を転がった。どうやら下は土のようだが2メートルくらい上から落ちた柾人はかなり強くあちこちを打ってしまった。


 痛さをこらえながら上を見上げると、アデリアの腰袋に入った灯木が光って、彼女の姿がぼうっと闇の中に浮かんで見える。逃げる途中でアデリアは元の姿に戻っていたので、透き通った羽根が淡く光り、柾人は昔見たピーターパンのアニメに出てくるティンカーベルを思い出した。


 アデリアはいかにも疲れたように腕をさすった後、灯木を腰袋から出してゆっくりと柾人の側に降りてきた。


「まったく、あんたなんかを抱えてたから、腕が痛くなっちゃったじゃない」


 助けようとしたのに助けられた柾人は、ただ「すみません」としか言えなかった。


「それにしてもどうして逃げ出したのよ。私はアキラを助けたかったのに」


「でもアキラはお姫さんを戦わせたくなかったんです」

 アデリアの剣幕に柾人は小さな声で答えた。


「そんな事、分かっているわよ。善導者の私が戦ったらどんな交渉も決裂するわ。それが分かっていたから仕方なく逃げたのよ。だけどお前はなんなの?あんな偉そうな事を言ったくせにアキラをおいて逃げるなんて!」


「それは・・・ホントに最低だと思います。でもアキラは交渉の事だけを考えて逃げろって言ったんじゃない。お姫さんが戦ったら今度は兵がお姫さんを追う事になる。アキラはお姫さんを絶対に守りたかった。だから行けと言ったんです」


 朗の気持ちがわかったアデリアは黙り込んだ。そんにまで自分の事を考えてくれていたと思うと嬉しくて、もう怒る気にはなれなかった。


「アデリアよ」

「は・・・?」

「さっきから聞いていたらお姫さん、お姫さんって。私の名はアデリアよ。お姫さんなんて呼ばれ方、嫌だわ」


 瞳をそらして言ったアデリアを、柾人は初めてかわいいなと思った。


「わかりました。じゃ、アデリア」


 いきなり左頬に走った衝撃に柾人は目がくらくらしつつ、叩かれた頬を押さえながら言った。


「なんで叩くんすか?」

「誰が呼び捨てにしていいと言ったの。アデリア様と呼びなさい。アデリア様と!」

「す・・・すみません・・・」


 気の強い女には、とことん弱い柾人だった。











 


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