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ツインブレイバー  作者: 月城 響
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王宮へ

 次の朝、早くから起きて朗たちは身支度を整えた。昨日の酒場に居た客たちに出会うといけないので、今日は違う姿に見えるよう幻術をかけた。昨夜のように簡単に術が解けないよう、今日は幻術の上からさらに幻術と見破れないような霊術もかけてある。


 アルは髪を茶色に変え、朗は美しいブロンドの女性に変身だ。桶にためた水に自分の姿を映してみると凄い美女である。


「久しぶりに女性に戻った気分はどうですか?」


 桶の水で洗った顔を拭いている朗にアルテウスが声をかけた。


「これってアルの趣味?」

 少し不服そうな朗にアルはにっこり微笑んだ。


「いいえ、私は元の朗のような黒髪が好きですよ」


 このナンパ男。きっと茶色の髪の女性にも「君の髪が一番美しいよ」なんて言ってるんだろうなぁ・・・。


「で、どうやって王宮に入るの?王様なんて簡単に会ってくれないよ」

「美男は警戒されますが、美女はどこでも歓迎されます」


 それでこの姿なのか・・・。朗は納得した。




 王宮へ向かうと昨夜アルは言っていたが、彼はすぐには王宮に向かわず、商人や人々でにぎわっている繁華街へと向かった。たくさんの商店が軒を連ねる中歩いていると、驚いたように人々が自分を見ているのに気が付いた。男も女も立ち止まって朗が通り過ぎるのを見ている。


「すげー美人」

「いい女だ」

「チェッ、男がいるのか」


 そんな声を聴くと、朗はスカーフか何かで顔を隠したくなった。本当の自分ではないのに、好奇の目が常に自分を追ってくる。美人ってそんなに気分のいいものじゃないなと朗は思った。



 王宮がそろそろ通りの向こうに姿を現した時、アルは人目に付かない路地裏に朗を連れて入った。


「王宮に行くんじゃないの?」

「その前に準備がありまして。アキラ、ダンスは踊れますか?」

「ダンス?私が踊れるのはフォークダンスくらいだけど」


 フォークダンスが何かは分からなかったが、アルは「それで十分です」と言って朗に再び幻術をかけ、着ている服を変えた。キラキラ光る金色の玉飾りが付いた輪が頭と首元、両手首さらに両足首まで飾り、両腕と両足は薄く透けたピンク色の布から見えている。派手な緑の胸当ての下は何もなく、へそまでしっかり外に出ていた。


「なんなんだよ、これは!」


 朗はわなわなと震えながらアルをにらんだ。


「踊り子の衣装です。ほら、私も。似合っているでしょう?」

 彼はノースリーブの袖から見える腕の筋肉を膨らませポーズをとった。


「絶対やだ!こんな恰好!」と叫ぶ朗を何とか説き伏せて、王宮の裏門までやってきた。裏門とはいえ、王宮の門なのでかなり大きく、2人の強面こわもての門番が門の両側に立っていた。


 アルが朗を伴って門前にやってくると、門番らが両側から槍を突き付けた。


「怪しいものではありません。私どもは国から国へ芸や踊りを披露して回っている旅芸人です。ぜひご余興に王様の前で踊らせて下さいませ」


 アルが頭を下げたが、彼らは「邪魔だ、帰れ!」「王はお前達になどお会いにならん!」と乱暴に2人を追い返そうとした。


「お、お願いです!きっと王様も気に入って下さいますわ!」

 朗も思わず前に出た。


「帰れと言っているだろう!」


 門番の1人に強く肩を押され、朗は道端に倒れこんだ。お尻を打った朗が顔をしかめて立ち上がろうとした時、誰かが自分に手を差し出しているのに気が付いた。


「大丈夫ですか?お嬢さん」


 見上げると、30がらみの身なりのいい男が立っていた。


「いえ、あの、自分で立てます」


 そう言った朗を助け起こしながら、男は2人の門番をちらりとにらんだ。


「まったく乱暴な者達だ。門番を変えるよう、王に提言せねばならぬな」


 槍を突き付けていた門番達はそれを聞いて、驚いたようにその場で直立した。あまりに若いので気づかなかったが、男の衣服には王の側近である10人の大臣だけがつけることを許される幻の霊獣、きんちょうをかたどった紋章が付いている。


 10人のうち9人の大臣は皆かなりの年だが、一人だけその才を買われて若くして大臣になった男が居る。その男に違いない。


「も、申し訳ありません。ラスゴラス卿!」


 声をそろえて叫んだ2人の門番には目もくれず、ラスゴラスと呼ばれた男は朗に笑いかけた。


「いつもは馬車で表門から登城するのだが、たまには歩いて裏門から入るのもいいだろう」


 彼は乗ってきた馬車に手を振って帰るよう指示すると、朗の肩に手を回し、開かれた裏門から中に入って行った。その後をアルも門番にニヤリと笑いかけながら通って行った。


醜男ぶおとこに変身していて正解だったな。いつもの俺なら門前払いだ。自分の容姿にはずいぶん自身のあるアルは、見栄えのいい好色そうなラスゴラスを見て思った。




 城の中に入るとラスゴラスは自分の執務室にやってきてドアを開け、朗を先に部屋にいれた。続いて入ろうとしたアルに「お前は隣の部屋で待っていろ」と告げると、バタンとドアを閉めた。


 マクベスの居所もわからず、朗まで色男に取られてしまったアルはムッとしながら呟いた。


「これはマズイな・・・」


 今の朗は見かけこそかなり色気のある大人の女だが、中身は17歳の少女だ。あんな百戦錬磨のプレイボーイ(自分がそうなので分かる)をうまくかわすすべを心得てはいないだろう。





 ラスゴラスの部屋はさすがにこの国のトップ10に入る大臣の部屋らしく、広く落ち着きがあった。華美な飾りつけはほとんどなく、たくさんの書類や分厚い本が並んだ書棚が奥の壁一面に備え付けられている。


 ソファーの前でぼうっとそれらを眺めていた朗は、近づいて来たラスゴラスに目を戻した。


「あの、本当に王様の前で踊らせてくれるんですか?」

「ああ。今日は王のお楽しみの品が届くはずだからな。その余興で踊らせてやろう。だが、その前に・・・・」


 いきなり手を取られた朗は身を引く間もなく体をすくい上げられ、側のソファーに倒れこんだ。一瞬、何が起こったのか分からないまま、朗はすぐ目の前にある男の顔を見つめた。


「王を楽しませる前に私を楽しませてもらおう。お前達のような放浪芸人はこうやって身分の高い者を楽しませてくれるんだろう?」


 やってない、やってない。そんなサービスやってないぃぃぃっ!


 朗は叫びたかったが、怖くて声も出なかった。それに幻術で女になっているだけなので本当の体は男のままなのだ。胸なんか触られたら一発でばれてしまう。そしたら怪しい者だと言われ、また昨日の夜のように大騒ぎになって・・・。


 などと考えている間にラスゴラスの手がゆっくりと髪を撫で、そのままグイッと顎を持ち上げた。


 ダメ!絶対ダメ!ファーストキスもまだなのに!!


「わ、私、好きな人が居るんです!」


 口づけする寸前だったラスゴラスはむっとして顔を上げた。


「好きな人?あのブ男か?」

「ち、違います。国に居る人で・・・。か、片思いだけど・・・」


 朗の目に涙が光っているのを見て、ラスゴラスは小さくため息をついた後、彼女を助け起こした。


「もういい。興ざめした」


 彼はムッとした顔のままソファーに座っている。どうやら怒らせてしまったようだ。このチャンスを逃したら、もう王には会えないかもしれないのに・・・。


「ご、ごめんなさい」

「めそめそするな。じゃあ、他の事をやって私を楽しませろ」

「他の事?」

「踊りを踊るのが仕事だろう。そうだな。剣舞がいい。そこの剣で剣舞を舞え」


 当然剣舞など踊ったことも見たこともない。もし妙に踊ってもっと彼を怒らせたら、今度こそ王に会わせてもらえなくなるだろう。それでも今は自分の出来ることを精いっぱいするしかなかった。朗は壁に飾ってあった剣を取り、鞘を左手に握りしめた。


 以前、剣道振興の興行に行った時、居合い抜きの先生が演武をするのを見た事がある。あれの真似をしてみよう。


 朗は剣の柄に手をかけギュッと握ると、素早く引き抜いた。鞘を捨て両手で柄を握る。


「やあっ」 


 袈裟懸けに右から左から振った後、くるっと回転して後ろを切る。素早く切り替えし、ジャンプをしながらラスゴラスの鼻先に切り込み、後ろに下がる。


 朗が剣を鞘の中にしまうのを目を丸くして見ていたラスゴラスは、急におかしそうに笑い始めた。


「妙な剣舞だが、太刀筋はいい」


 彼は跪いている朗の前に立つと、彼女の顎を人差し指で持ち上げた。


「お前、私の所で働かないか」

「あ、あの・・・」

「返事は後でいい。今から議事会だ。まあ9人の老タヌキが、いかにして己の地位と金を守るか話し合う陰謀会合だがな。準備が出来たら人をやる。ここで待っていろ」


 ラスゴラスがニヤリと笑って部屋を出た後、朗は力が抜けたように肩を落とした。ふと気付くと、アルが外から窓を開けて中に入ってくるのがわかった。


「アル・・・」

「大丈夫かい?悪かったね。見張りが居てなかなか抜け出せなかったんだ」


 そう言いつつ彼は朗を立ち上がらせた。朗はただじっとうつむいている。


「怖かったんだね。本当にすまなかった」


 そっと頭を撫でられて思わず涙が出そうになったが、ぎゅっとこらえ彼に笑顔を返した。


「もう大丈夫だよ。ありがとう、アル」




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