勇者と盗賊退治5
長かったクライマックスへの道のり……。
灰芽は呆気にとられた。なんというか、予想の斜め上なんてレベルじゃなかった。むしろドリルで穴掘って地底探検に行くような方向性の違いを感じた。
薄々感じてはいたが、この盗賊たちは、なんかおかしい。発想とか、色々。
「……王子を?」
「うん?」
「誘拐…?」
「あ、ちなみに目的は身代金だな」
部外者にここまでぶっちゃけていいのだろうか?
頭を抱えて唸る灰芽と、その膝の上で真似をしているレイミーをほのぼのと眺めながら、盗賊たちは愚痴り始めた。
「大体なあ、盗賊退治で名を馳せてる王子殿下のとこに盗賊団で手紙出したら、普通本人来ると思うよなあ?」
いえ、普通はありえません!
「だよなあ。なのに、ほんとは一個も王子の手柄じゃなかったとか、王子は国民を騙してなにがしたいんだ?」
自分の人気取りがしたいんじゃないでしょうか?
「盗賊退治したぞーってお触れ、王子様の名前で出たもんな?」
そして、王子。お前最初から確信犯か。
「まいったなあ。これじゃうちの村、総出で夜逃げだな!」
全然まいってるようには見えないです、おじさん。むしろ楽しそうなんですが。
「夜逃げっつっても、どこの国行くよ?」
外国に行かれるとか、非常に困るんですが!国の評判も落ちるし、そもそも大事な国民苦しめちゃ駄目でしょ。なにやってんの王様と王子。
灰芽は盗賊たちの話と聞きながら、心の中でだけツッコミを入れていた。声に出さないのは、未だ精神的ダメージから回復しきれていないから。このおっさんたちは、精神的ダメージという点で、後の勇者をかつてないほど追い込んでいた。やはり、なかなか出来る人物のようだ。
「ええと、なにがあったんですか…?」
しばらく無言でおっさんたちの愚痴を聞きつつ、内心でツッコミを入れていたら気力を取り戻せたあたり、灰芽のツッコミ属性は結構末期なのかもしれなかった。
「ん?ああ。いやな、俺たちの村って管轄が王子様らしいんだけどな?」
「…ああ。ここら辺一帯はあいつの領地ですもんね……」
「代官がさ、年貢持ち逃げしたらしくてよぉ」
「……はい?」
「年貢をも一回払えとか、やってらんねえだろ?」
「……ええ。はい。ですね」
こういう手段とっちゃうのも仕方ないと思います。というか、国民騙したり無能な役人使っていたり…
「……なにをしてるんだ、金爛…っ!」
灰芽は呪詛と共に、王子の名前を呟いた。王子のお守から解放された(と本人だけが思っている)ここ数年なかったことである。
あと、何気に自分が被った数多の被害がカウントされていない。ある意味、どこまでも扱いやすい人物だった。
「…おーい。灰芽くーん?大丈夫かー?」
その表情は苦悩に染まっており、思わず被害者な盗賊予備軍たちは、灰芽のいいように使われていたのだろう怒り狂った心中を思って心配した。
はっと我に返った灰芽は、人のいいおっさんたちの心配顔を見て、にっこりと笑った。
遠目に見るだけなら、眼福と言っても過言ではない笑顔だ。イケメンを地で行く王子とは分野が違うのだが、十分張り合いが取れるだろう。灰芽の分野が何かについては、これ以上ダメージを与えないためにもあえて言及はしないが。
ただ、その笑顔は、
「おーい、灰芽君。黒いオーラが立ち上ってるぞー?」
「大丈夫かー?正気にかえれー?」
思わずおっさんたちが涙目になるくらいには、邪悪なオーラがあふれ出ていた。そのまま灰芽は小首をかしげる。肩より長いくらいの麦色の髪が、膝の上で同じ動きをしていたレイミーの視界をふさいでバタバタと払うような、心いやされるはずの光景も、怯えたおっさんにはあまり効果はなかった。
「正気ですよ?それよりも、あの馬鹿王子に一矢報いれて、さらに皆さんが抱えている問題も解決できる素晴らしい方法があるんですけど、協力してもらえませんか?」
今だけは、灰芽はキラキラに輝いていた。王子にも負けないくらいに。そして、当然ながら、盗賊たちに申し出を断るだけの勇気は残っていないのだった。
ゆうしゃ は とうぞくたち を せっとく(?) した。
とうぞくたち は ふるえあがった!
とうぞくたち が なかま に なった!
次回からは、
被害者たちの復讐編「勇者と盗賊たちの王子退治」になります。