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勇者と盗賊退治4

 灰芽と盗賊団は、衝撃的な出会いと怒鳴り合う関係から一転、現在盗賊のアジトで膝を突き合わせて情報をまとめていた。先ほどまでの殺伐とした敵味方な雰囲気ではない。彼らは、同じ相手に騙されたかもしれない同志として、不思議な連帯感を持っていた。


 言うなれば、被害者の会。加害者はこの国の王族。というか次期国王。


 自分の未来が、詐欺師に握られているかもしれないのだ。彼らの表情が真剣になるのも、仕方ないのかもしれない。


「…要するに、だ。今まで俺らが王子殿下の偉業だと伝え聞いていた話は、ほとんど全部あんたのしたことだったと」

「……そうみたいですね。こっちも、人前に姿を見せたわけではないし、俺自身積極的に噂を聞こうともしなかったんで…」


 お互いに、ものすごく疲れた顔で、盗賊の頭と灰芽は顔を見合わせ、ついで同時に溜息をついた。とはいえ、ここまで灰芽の耳に入らなかったということは、何らかの裏工作もあったのだろうが。


「やってられない…」

「あんたも苦労してんだな…。いいぜ、おっちゃんたちでよけりゃ、いくらでも話聞いてやるよ」

「あ、ありがとうございます…!名乗ってませんでしたね。灰芽です。こっちのゴーレムはレイミー」


 かわいらしい不思議マスコットキャラ系のレイミーは、その見た目を利用しつくした完璧(に、人の心をガッシとつかむよう)な、お辞儀をした。まわりにいたほとんどの盗賊の顔がほころび、そのうち数人は娘に持って帰りたいと呟いていた。


「というかですね。今日も夜中に叩き起こされて呼び出され、気がついたらここに飛ばされてたとこからおかしくないですか?」

「なんだその不憫すぎる話。あんたの親は?守ってくれねえのかい」

「いえ、いつもならそんなことないんですが、今日に限って遠出していまして」

「……計画的犯行だな」

「ですよねー」


 盗賊たちは非常に灰芽に同情的だった。心根の優しい人ばかりなのだろう。着ているものはそれらしくボロボロだが、普通のおっさんたちと話しているような、妙な安心感と温かさがある。


「今回ばかりは、もう強制労働(ボランティア)やめて帰りたい」

「おお。そうだったな。そういや、あんたそれできたんだった」

「あぁ。そう言えば、おじさんたち今回の討伐対象でしたね。何したんですか、もー」


 灰芽はすっかりくつろいで、うっかり拗ねてしまった。自分の見た目にコンプレックスしかないので意図的に意識しないようにしているが、美少女顔なのだ。態度まで子どもっぽくなってしまえば、父性本能や庇護欲を刺激された男たちが堕ちるのはあっという間だった。


「いや、まだ何もしてねえんだけどなー」

「えー?それなのにあいつが俺よこしたの?変だなー」

「したっつったら、脅迫状送りつけたくらいか?」

「あー。むしろそれしかしてねえわ」


「…はい?」


 盗賊、もといおっさんたちはそうだそうだと気楽に頷き合っているが、灰芽の方は一気に血の気が引いた。なにしようとしてたんだ、このおっさんたち!?


「ち、ちなみに、なんて…?」

「うん?どうだったっけな?」

「ほらよ。お頭の娘っ子が念のためっつって、写しといたのがあるぜ」


 灰芽は引き攣った顔で、何とかお礼を言ってその紙を受け取った。思うことはただ一つだけ。家族もグルか!だけであった。


『草々  王子殿下

 このたび、我々はあなたに蹴散らされた盗賊たちの無念を晴らすべく、決起しました。宣言だけでもしておこうと思い、筆を執った次第です。

 盗賊はじめました。以後よろしくお願いします。    敬具』



 その手紙を見て、灰芽は言いたいことがたくさんあった。どれから捌いていこう?流したい。でも流したら後悔する。灰芽は葛藤していた。やがて、


「…えと、草々って使うほど、殿下と仲いいんですか?」

「いや?会ったこともねえよ。でもよ、拝啓から始まって時季の挨拶とかたるいじゃん」

「そこはちゃんとしましょうよ!意味ない定型句でも!読み飛ばされるとわかっていても…!」

「様式美ってもんか?」

「そうですよ!相手は王族です、そういう無駄に細かいとこにうるさいんです!」


「だが断る!」


「断らないでください!というか、文はこれだけなんですか?」

「そうだ」

「もっと詳しく書いてくださいよ!恨み事があるならちゃんと!」


「だが断る!」


「なんでですか!?」

「恨み事などないからだ!」

「威張るな!文章がザルすぎるわ!」

「…娘と同じことを言うなあ」

「しみじみしてないでくださいっ。て言うか、まさかですけど、住所書いたんですか?この住所書いたんですか?」

「手紙を出すなら当然だろう」

「~~~っ」


 灰芽は悟った。勝てない。話が通じないと。できたばかりの盗賊団の場所をなぜ具体的に早く知ったのかとか、疑問に思うだけ自分が馬鹿らしくなってきてしまう。しかし、灰芽の度肝が抜かれるのはここからであった。


「大体、王子殿下にこの場所が分かってもらわなくては困るんだ」

「……はあ。なんで?」

 

 疲れ切った灰芽の返答は適当だったが、おっさんたちのリーダーは人の悪そうな顔で笑う。言うなれば、これはそう、父親世代の会心のオヤジギャグを思いついた時の顔。灰芽は嫌な予感がして、レイミーをそっと抱き寄せた。


「なんてったって、俺らの狙いは王子誘拐と身代金獲得だからな」



 

お手紙の作法解説


『拝啓』 で始まったら、新緑の燃える頃~などの時季に見合ったあいさつ文を入れなきゃいけない。


それを省略するのが『草々』を書き出しに持ってくる場合。略する意味があるらしいです。でも、ある程度親しい人じゃないと失礼にあたるという……。

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