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勇者と盗賊退治2

 灰芽がいずこかに消え去った部屋で、王子はのんびりと手紙を書き始めた。


「殿下、勇者は行きましたか?」

「ああ。ちょうどいい。この手紙を出しておいてくれ」

「かしこまりました」


 王子は腹心の部下にいましがた書きあげたばかりの手紙を渡した。部下の方も心得ており、手紙を受け取ってかすかに微笑むと、さっさと部屋を出て行く。


《拝啓、わが愛しの婚約者殿。

 近々、そちらに伺いたいと思います。ご都合がよろしければ、一週間後にそちらでお会いしましょう》


 後は鳥肌の立つような美辞麗句がぎっちりと詰め込まれたその手紙を受け取ったかの姫君は、


《あなたの婚約者様のところへ行くはずの手紙が、何か間違ってわたくしのところへ届いてしまったようなのです。よろしければ、こちらから婚約者様に転送いたしましょうか?》


 王子が一方的に婚約者扱いしているだけだということを、灰芽は知らない。そして、この時はまだ、姫も自分が婚約者扱いされていることを知らないのだった。








 一方、灰芽は途方に暮れていた。

 地図に記されていた、盗賊団のアジトの入口に、茫然と突っ立っている。

 王子に怒鳴り込みに行っただけだったので、もちろん丸腰。あえて言うなら、戦闘力0.1のお子様サイズのゴーレムが一体。しかも庭掃除専門の。


「…なんていう悪夢だ。目を覚ませ、覚ますんだ自分…」


 早朝から今に至るまでのめまぐるしい状況の変化及びその理不尽さに、灰芽は遠い目をして目が覚めるのを待つ。しかし、夢ならばまだしも、現実から目覚めることはできない。

 そんな灰芽を、腕の中から気の毒そうにゴーレムのレイミーが見上げる。そのつぶらな瞳は、主への憐れみに満ちていた。


「おかしら、変なのがいますぜ」

「んん?なんだあのガキ」

「デケエ人形抱えてますぜ」


 そんな悲劇の一人と一匹を、影から観察している数人の男たちがいた。もちろん、盗賊たちである。

 レイミーは別段人間に似せた姿をしているわけではなく、何か魔法を使う中二具合の深刻な少女たちのマスコットキャラクターのような愛くるしい外見をしており、一般人にはぬいぐるみにしか見えない。

 そして、盗賊のアジトの洞窟の前でぬいぐるみを抱えている少年というのは、怪しいを通り越して不審者だった。盗賊たちの感想は一つ。


 もう幼児じゃないだろうに。


 少年とぬいぐるみの正体を知らない盗賊たちは余裕があった。なぜなら、灰芽の背が低いこともあり、気の弱そうな乙メン少年にしか見えなかったから。その少年が振り返るまでは。


「なっ…」

「あいつ…!」


 しっかりと見られた(・・・・)と感じた盗賊たちは戦慄した。



 もちろん、灰芽は最初から気付いていた。ただ、そのことを認めたくなかっただけだ。彼はこれは夢であると信じたかった。そのためには、第三者である盗賊さんたちとご対面はしたくなかったのだ。もう諦めたけど。


「あの、すいません。盗賊って、あなたがたであってますか?」


 これが、盗賊たちと灰芽の、双方の人生を変える出会いになるとは、このとき誰も思っていなかった。

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