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赤い花を追って

作者: 佳奈

学校の帰り道、急な登り坂を前にして足を止めた。ふいに僕は通り過ぎていく景色に目を移した。青く高い空。春のにおいと共に僕の視界に入るどこかなつかしい草花。りんりんぐさ、おおいねのふぐり、たんぽぽ、からすのえんどう、しろつめぐさ。春の野に咲く草花だけ僕はたくさん名前を知っている。そんな事が少し嬉しく思えた。反対側にある古い、そして乾いた建物を見た。三年前に封鎖された役場。僕が何気なく視線を前に戻そうとしたとき、僕ははっとした。その場にふさわしくない。南国で花を咲かすような、大胆で、美しい、真っ赤な花を見つけた。それは、建物のガラスで出来た入り口の中に置かれた植木鉢から花を咲かせていた。僕はまるでその花の虜になったように恐る恐る近づいた。その姿は小さな星の王子様が美しいバラに恋をしたように盲目的な何かを思い起こさせられるようなものだったと思う。僕はガラス越しにその花に触れた。入り口には鍵がかかっていた。ガラス越しの日光浴びて育ったのだろう。僕はそのたくましい生命力に感心した。


そして

僕は考えた。想像してみた。

金色の月だけが妙に明るく照っている夜。夜の闇は黒と言うより紺色のような、宮沢賢治の世界のような、童話から抜け出たような不思議な色を帯びている。僕は赤い花の為にそこに立っている。ようやく僕はそばにあった大きな石を手に取る。花が傷つかないように、僕はその石をガラスに向かって投げつける。割れた隙間から夜の闇が入り、優しく赤い花を包み込む。そして僕はその花に触れる。

その時世界はどれだけ輝くだろう?


そんな事を僕は花を見ながら考えた。その行動に憧れた。そして、もちろん花を外に出したいという思いもあった。だけど、小説のようには上手くはいかない。僕は立ち止まり、迷った。こんな昼間にそれを実行して良いのか?いや、夜だからと言って出来るものではない。それよりもこの建物は一体誰が所有しているのだろうか?罪に問われるのだろうか?僕の現実が僕の想像を薄くさせていく。


ああ、その一歩を超えたい。


僕の中の本能とも呼べるような願いがその現実を突き抜けていった。

ガラスの割れる音が現実の世界に響いた。その音を僕の耳が確かに聞いた。


一週間くらい前の帰り道に本当にそんな花を見つけて、私は同じように想像をしてみました。

だけど、結局ガラスは割れなくて、私は越えられないな、と思いました。そういえば、夏の夕暮れに誰もいない小学校のプールを前にした時、フェンスを越えたいと思いました。ぷかぷか浮いたら気持ちよさそうだな、と。だけどやっぱり出来なくてがっかりしたことを思い出しました。

その先にあるものが孤独なのか何なのか私には分かりませんが、いつか、その一線を常識にとらわれずに越えられるようになりたいなぁと思いました。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 比喩表現がとても素敵にできていて、自分も主人公と同じようにその赤い花に触れたいという気持を抱きました。 ガラスの割れる音と共に、彼が目にするのはどんな光景なのか… その薄いガラスが現実と童…
[一言] 赤い花への思いから伝わる純粋さと好奇が混在する少年。ロマンチストですね。 この雰囲気、好きです。 小説として評価しますと、少年の思いだけで綴られた一本調子の話なので、一輪の花を見ても何も感じ…
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