vs.ザッコス
――ザッコスと決闘当日。
そういえば、ザッコスはどこで待っているんだろう。闘技場で待ってるとしか言ってなかったけど、アーリキタの街では闘技場が何箇所かあるらしいし。
「ザッコスの待っている闘技場まで案内するよ」
いつものことだけどノエルさん、頼りになるー。
優秀なナビのおかげで、ザッコスの待つ闘技場に無事到着できた。
ノエルによると、闘技場と一口に言っても、有名闘士のタイトル戦が行われるような、公式の闘技場もあれば、無名の闘士が飛び入り参加するような闘技場もあるようだ。
今から俺とザッコスが戦うのは、大通りから離れたところにある若干グレーな闘技場で、たびたび死人も出るらしい。
当然、賭けも行われており、レベルや冒険者の階級や過去の戦績なんかでオッズが決まるのだとか。
闘技場で戦うとファイトマネーがもらえる。この闘技場だと無名の飛び入りで、勝って10000イェンで、負けると1000イェン。
ダンジョンで希少な鉱物を含んだ岩を持って帰ることに比べれば、勝っても負けても俺に利益はほぼ無い。
血気盛んな冒険者といえども、そこらで殺し合いをすれは厳しい罰が待っている。闘技場は、そういった連中が決闘するにはもってこいの場所なのだろう。
闘技場に入ると、ザッコスがいた。他のパーティーメンバーも一緒のようだな。ザッコスは俺に気が付くと近づいてきて嘲笑う。
「低レベル、逃げなかったのか? わざわざ死ににくるなんて間抜けだな」
「口げんかしに来たわけじゃないんだ。さっさとやろう」
ザッコスは「フン」と鼻を鳴らし、俺に背を向け歩き出したので俺は付いていった。
闘技場中央に設置されている舞台に、俺とザッコスが向かい合って立つ。
ザッコスは剣を抜き、俺も木剣を構える。それを見たザッコスはまたも嘲笑う。
「なんだその剣は? ここをガキのどもの道場かなんかと勘違いしてんのか?」
「ハンデだよ」
俺もザッコスを煽るために、ニッと笑みを浮かべて言い返した。
「抜かせ、まともな剣を買う金がねぇだけだろ」
ザッコスはそう吐き捨てて、力強く地を蹴った。俺に肉薄すると、両手持ちした剣で斬撃を繰り出す。
三日前は全く反応できなかった奴の動きが、今ではスローモーションに感じてしまう。
近づく刃を紙一重で躱し、木剣をザッコスの肩を打ち付ける。
ザッコスは一瞬態勢を崩すがすぐに立て直した。奴は後ろに跳んで距離を取り、鋭い目つきを俺に向ける。
「チッ、油断した! まぐれでいい気になるな!」
「まぐれ、か……」
レベルは同じでもチートスキル『天才』のおかげで、俺とザッコスのステータスの差は歴然だ。
さらに言うと、こいつの剣はおそらく我流だ。オウデルさんの指導を受けた俺から見ればまったくなっていない。
こいつはもはや俺の敵じゃないな。刃の付いた剣だとすぐに勝負がついてしまうだろう。
でもそれでは駄目だ。たっぷりお仕置するためにわざわざ木剣を持ってきたんだ。
ザッコスの振るう剣を捌き、何度も木剣を打ち付ける。ザッコスもそれなりの耐久力があるようで、息は上がっているもののなかなか倒れない。
「三日前とは別人だな……。どんな手品を使いやがった?」
ザッコスは目を血走らせている。俺は構えを解いて棒立ちした。
「手品が見たいのか? なら見せてやるよ。好きなとこを切ってごらん」
手のひらを上に向けて突き出し、クイクイと動かしてザッコスを煽る。
「舐めやがってー!」
ザッコスは、真正面から渾身の力で剣を振り下ろす。刃の唸りが空気を切り裂き、俺の肩めがけてまっすぐに迫る。俺はその一撃を棒立ちのまま受けた。
ウッ、痛い、でも斬れてない。
服は切れてしまったが、アイギスの盾が発動し俺の肌で刃は止まった。
俺の肩に刃を押し当てながら、驚愕しているザッコスの目を見ながらニヤリと笑みを浮かべた。
「お前の攻撃なんて、効かないんだよ」
俺の体に押し当てられている刃を左手でおもむろに握って、右手に持った木剣でザッコスを打ち付けると、奴は苦痛に顔をゆがめて剣を離した。ザッコスの顔色は青ざめている。
もろに切りつけたのに、びくともしない俺を見て戦意を失ったのか。
俺はザッコスの剣を投げ捨てると、連続で何度も木剣を振るった。
傷だらけのザッコスが地に伏して、「参った」と言いかけたところで、木剣で打って黙らせる。
なぜか観客たちは大喜びで歓声を上げる。悪趣味な奴らだ。いや、俺も人のことは言えないか。
「マユに謝ったら許してやる」
するとザッコスはマユの方に向かって、額を地にこすりつけながら「すまん! 俺が悪かった!」と詫びた。
マユに謝ったならこれ以上痛めつける気はない。俺が背を向けるとザッコスは「参った」と負けを宣言した。観客からはブーイングの嵐だ。
ザッコスは、モブーラに担がれて闘技場の舞台から退場した。
俺が闘技場の舞台から降りると、フィリスが近づいてきて問う。
「たった三日で本当にザッコスより強くなるとは。どうやったんだ?」
あー、この子も綺麗だな。前はそれどころじゃなくて気が付かなかったけど。
「知りたい? 俺のパーティに加入したら分かるかもよ?」
「カイト……」「カイト様……」
マユとクレアが、揃って大きめのため息をついた。
「そうだな、ザッコスのパーティに加入したものの、ヤツの横柄な態度に嫌気がさしていたところだ。私もカイトのパーティに加えてもらうよ」
フィリスは俺のパーティに加入してくれるみたいだ。やったね! と思っていたら、ついでにヨワーネも近寄ってきた。
「私もあんたのパーティーに入れてよー」
ヨワーネも美人と言えなくはないけど、ちょっとな……。好みの問題はあるかもしれないが。それにこの前、俺のこと低レベル君とかって馬鹿にしたし。
「やだ」と断ると、ヨワーネは両手で胸を寄せて迫る。
「好きなだけいいことさせてあげるよー」
豊かな膨らみと谷間が強調されたというのに、全く気分が盛り上がらない「ゴメン、俺の好みじゃない」と断ると、ヨワーネは膨れっ面で去っていった。
そのやり取りを聞いていたフィリスは俺に問う。
「私はカイトのお眼鏡にかなったのか?」
「うん、フィリスは美人だから好きだよ」
女神様に貰ったモテモテ容姿は、フィリスにも通じるのか多少の不安はあったが、渾身のイケメンスマイルをぶつけてみた。
「そ、そうか……。よろしく頼む」
フィリスは頬を染め、目を逸らした。これは……効いているな。
今の俺の容姿は、全ての女子をチョロインと化す、スーパーチートスキルなのかもしれない。
そう思うと、笑いがこみ上げてきたのだった。




