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廃棄少女は終末世界で深海の夢を見るか  作者: 宮浦 玖
第二章 傭兵のお仕事
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傭兵のお仕事:3

「……よっと」


 十数秒間の自由落下の末、サクラは遺跡内部へと降り立った。

 その表情は落下の衝撃などまったくなかったかのようだ。いや、実際に衝撃は彼の肉体に届いてはいなかった。


『粒子残量、九十パーセント』


 彼の右手に握られた剣から、抑揚よくようのない合成音声が流れる。


「ドローンの位置からちょっとズレたけど……まあ、許容範囲か」


 風にあおられ、落下予定地点より少し離れたところに着地したサクラは周囲を見渡し、先行させたドローンを探し出す。


「ドローン発見。それじゃ、引き続きサポートを頼むぞ」

『あの、サクラさん! なんであの高さから落ちて無事なんですか!』


 驚きと心配が混ざった大声がインカムから直接鼓膜(こまく)に叩き込まれ、サクラは即座にインカムの受信音量を下げた。


「うるせぇ……ああ、そうか。『鉄の灰』を知らないなら、当然『粒子防壁りゅうしぼうへき』も『アルマ兵装へいそう』も知らないのか……説明するの忘れてたな」

『防壁に兵装……? あの、簡単でいいので説明を――』


 言い切る前に、レイミアの声に別の緊張が混ざる。


『サクラさん! 二時の方向に運動体反応があります! 数は三つ』

「こっちも目視で確認した……ありゃ、『企業』の小型無人機だな」


 サクラはちょうど近くにあった岩陰に隠れ、それらを遠巻きに観察する。

 それらは四脚の肉食獣を模した外観をしており、点在する瓦礫がれきを軽快に飛び越えつつ、奥へと続く石畳の通路を進んでいた。

 隊列が組まれたその動きは迷い込んだという雰囲気ではなく、明確な目的を持って行動しているとすぐに見て取れた。


『どうして、こんなところに『企業』の無人機が?』

「『企業』もこの遺跡には目をつけてたってことだろ。旧世界の遺産や技術は金になるからな」


 あの無人機達の目的も、サクラと同じくこの遺跡の調査であろうことは想像に難くない。


『あの、ちなみにですけど、あの無人機に見つかるとどうなるんでしょうか?』

「そりゃ、調査の邪魔者には容赦ようしゃなく攻撃してくるだろうよ」


 生きた人間相手なら、安全確保を名目にいくらでも交渉の余地はあるが、あれらは死を恐れぬ自律機械だ。一緒に仲良く探索とはいかないだろう。


迂回うかいルートを探します。少し待ってください』

「おいおい、まさかアイツらに隠れてコソコソ調査する気か? それじゃあ日が暮れちまうだろ」


 今回の依頼内容は遺跡全体の調査。ここで迂回したところで、どうせまた別の地点で鉢合わせになるのは容易に想像できる。


「それに『粒子防壁』と『アルマ兵装』について説明するのにちょうどいい」

『サクラさん、まさか……』

「アイツらをぶっ潰して強行突破する」

「だ、大丈夫なんですか?」

「まあ見てろって」


 心配が隠し切れないレイミアを他所よそに、サクラは瓦礫の影を利用して少しずつ無人機達に近づいていった。


「さて、まずは『粒子防壁』についてだな。鉄の灰については覚えてるな?」


 無人機達にあと一歩というところまで迫ったサクラは、本当にインカムとドローンのカメラ越しにレイミアへのレクチャーをはじめた。


『はい。ネフィリムコアが生成する、有害な金属粒子ですよね?』

「その通り。だが、鉄の灰……正式名称は“ネフィリミニウム粒子”っていうらしいが、コイツはただ有害ってだけじゃなくてな、もう一つ別の特性がある」

『別の特性ですか?』

「カメラを一番手前の無人機にフォーカスしろ」


 指示を出すと同時に、サクラは片手で持つのにちょうどいいサイズの石を拾いあげ、鋭い動きで一番手前の無人機へと投げつけた。


『あっ!』


 レイミアの驚く声がインカムから聞こえる。だがそれは、サクラが突然石を投げつけたからではない。

 彼女が驚いたのは、サクラが投げた石が半透明の膜のようなものにさえぎられ、無人機に当たる前に地面に落ちたからだった。


『敵性反応を検出』

『見つかっちゃいましたよ!』


 石を投げつけられた無人機のアナウンスは即座に他の二機にも外敵の存在を知らしめ、三機は背部に機関銃を展開し、その銃口を外敵――サクラへと向けた。


『排除行動に移行します』


 しかし、サクラは冷や汗一つ流さず、淡々と説明を続ける。


「ネフィリミニウム粒子には、接触したエネルギーを吸収する性質がある。たとえば、熱エネルギーや物理的な衝撃だな。その性質を利用し、一定量以上の密度を保った粒子の膜を周囲に展開することで……」


 そして、ついに三つの銃口は同調しているかのように、まったく同時に火を噴いた。


『サクラさん、危ない!』


 レイミアの悲痛な叫び。だが、サクラは何事もなかったかのように返事を返す。


「よく見ろ。無傷だよ」


 その言葉通り、無人機が放った無数の銃弾は、一つとしてサクラの体には届いていなかった。

 それらは、彼を包み込むように展開された薄い粒子の膜に阻まれており、数秒もしないうちに、全てその場に落下した。


「鉄の灰……ネフィリミニウム粒子を利用した防御機構、それが『粒子防壁』だ。今の『企業』製兵器には標準装備の便利な代物だよ」

『あらゆる衝撃を吸収する障壁……もしかして、落下の衝撃もその粒子防壁ってやつで軽減させたんですか?』

「お、そこまで気づいたか。なかなかいい発想力をしているな」


『敵性反応、なおも健在。高濃度の粒子反応を検知。攻撃パターンCへと変更』


 無人機はサクラがまだ健在だと確認すると、更に機関銃の勢いを強めていく。


「さて、説明の続きだ。粒子防壁は見ての通り、たいていの攻撃は防ぐ鉄壁の守り。それを突破するには、兵器が貯蓄している粒子を使い切らせるしかないんだが――」


『粒子残量、八十パーセント』


 無人兵器からの無数の銃弾を防いだことで、サクラの剣は更に貯蓄粒子の減少をアナウンスする。しかし、そのペースは非常に緩慢かんまんだ。


「この通り、通常の銃火器じゃ、削れる粒子はごくわずか。だから、昔の戦争では敵兵器一体を倒すために、バカスカと飽和ほうわ攻撃の撃ち合いをしていたそうだ。そんな不毛な戦争を変えるために開発されたのが……」


 遂にサクラは大剣を両手持ちで構え、戦闘態勢へと移行する。

 そして、彼は一足飛びで無人兵器へと肉薄し、あっという間に三体の無人兵器を六つの鉄くずへと変えてしまった。


「ネフィリミニウム粒子を攻撃に転用した、白兵戦用個人兵器、『アルマ兵装』ってわけだ」


 真っ二つに切り裂かれた無人兵器達はピクリとも動かず、サクラはそれこそ害虫を駆除した程度の気軽さで手近な残骸を足先で小突く。


「これで大体わかったか?」

『はい……『企業』で作られた兵器には、粒子防壁っていうバリアがあって、サクラさんの剣は同じようにバリアで身を守れるし、相手のバリアを壊すこともできる……ってことですよね?』

「かなり大雑把ではあるが、その認識でいい」


 彼女が一番重要なところは理解しているとわかり、サクラは剣を握る力を緩めて臨戦態勢を解いた。


「そういうわけだから、俺はある程度の物理的な脅威に関しては自力で対処できる。あんたはその前提でサポートを続けてくれ」

『はい、わかりました』

「…………」


――切り替えが早い……っていうよりは、コイツ、飲み込みが恐ろしく早いんだな――


 もう少し「戦闘行為を避けろ」と食い下がられると思っていたサクラは、予想を裏切るレイミアの返答に舌を巻く。


『あ、でも! 『企業』の調査機を壊しちゃいましたけど大丈夫なんですか? あとで報復とか、指名手配とか……』

「問題ねぇよ。あの型式は完全自律式で動く代わりに、拠点に戻らないと本部に情報を送れない欠陥機だ。ぶっ壊せば俺の顔が『企業』にバレる心配もない……っていうか、ぶっ壊さないほうが後々マズい」


 サクラが無人兵器達の殲滅せんめつを決定したのも、実を言うと調査の効率化よりもそちらの理由の方が大きかったりする。

 色々と言ってはいるが『企業』と対立することの危険性を、彼は嫌というほど理解していた。


「あとは、ここにいるのが小型機程度だけかどうかだが……」


 一抹いちまつの嫌な予感を抱きながら、サクラは遺跡の奥へと足を進めた。



TIPS:

【ネフィリムコア】


旧世界の遺跡から発掘された金属構造体。

有機物、無機物を問わずにあらゆる物質を浸食、吸収、分解し、金属素粒子【ネフィリミニウム粒子】へと変換する性質を持つ。

その際、大量の電気エネルギーが発生するため、それを利用した発電技術が現代のエネルギー問題を一手に担っている。


原子構造、発電のメカニズム、全てが謎に包まれており、現代の人間の手で新造することは不可能である。

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