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廃棄少女は終末世界で深海の夢を見るか  作者: 宮浦 玖
第四章 軍靴の音は静かに
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軍靴の音は静かに:3


 アジトの内装はギルドのように整備されてはおらず、どちらかと言えばサクラと共に調査した旧世界の廃墟をそのまま利用したような感じだった。


「凄い人ですね……」


 彼らに受け入れられたレイミアが最初に驚いたのは、何よりその人数だった。


「今は大事な作戦で外に出ている人が多いから、これでもけっこう少ない方よ」

「そんなにも、コーラルから地上に来た人がいたんですね……」


 レイミアは当初、せいぜい数十人規模の小さな寄り合いだと思っていた。しかし、ガリアによれば、実際のコミュニティに所属している人々は千人に近いらしい。


「あっちが居住エリアで、向こうが作業エリア」


 身体検査を終え、擦り切れて生地が薄くなったワンピースに着替えさせられたレイミアは、ガリアの案内を受けてアジト内部の説明を受けていた。


――人は多いけど……静かだな――


「ギルドとは結構雰囲気が違うんですね」

「ギルド?」


 レイミアとしては何でもない感想のつもりだったのだが、それを聞いたガリアは未知の言語を聞いたような表情を浮かべた。


「ギルドっていうのは地上の商業都市です。ここから西に行ったところにあって……」

「まぁ……ヴェルフェルトさん、あなた、地上に来てどれくらい経つの?」

「一か月とすこし、ですけど」


 そう答えた瞬間、ガリアはレイミアの肩を抱き寄せた。


「一か月も……それは大変だったでしょう。地上人に何か酷いことをされたのではなくて?」

「あ、いえ。私は全然……」

「でも安心して、ここは皆の手でコーラルと同じようにしているから、その……ギルド? よりも居心地がいいはずよ」


 ガリアがレイミアのこれまでの生活をどのように想像したのかはわからないが、彼女の善意から出たであろう同情を拒絶するわけにもいかず、レイミアはされるがままになる。


「コーラルと同じように……ですか」

「ええ、そうよ……といっても、まだまだ不完全だけどね」


 改めて周囲を見回し、このアジトの整備が進んでいない理由がなんとなくわかった。整備が行われていないわけではなく、大規模な修繕よりも、コーラルの光景を再現することを目的とした細かな作業が優先されているのだ。

 コーラルでの生活が恋しい気持ちは少なからず理解できるレイミアだったが、それでも、彼らのこだわりはいささか本末転倒なようにも思えてしまう。


――それに、コーラルに似せようとするなら、どうして……――


 それは、レイミアがアジトに入ってから、ずっと感じていた違和感――あるいは、不穏な気配ともいうべきものだった。


――どうして、火薬の臭いがするんだろう――


 それは、レイミアが地上に来て最初に感じた、争いと死の臭いであり、コーラルには決して存在しないはずの臭いだった。



「しまった……手癖で二人分作っちまった」


 サクラはフライパンで二つ並んだ合成肉のハンバーグを見下ろし、ため息を漏らす。


――あいつがいなくなって、もう三日経ってるっていうのによ――


「もったいねぇ」


 別に廃棄するわけでもなし、明日に回せばいいだけなのだが、思わずそんな言葉がこぼれてしまった。

 サクラがキッチンで立ち尽くしていると、ノックもなく玄関の扉が開き、フライトジャケットを着たままのストークが飛び込んできた。


「ちょうどいい。ストーク、これ食うか?」

「あー、後だ後! いますぐ組合のBBS(けいじばん)を開け!」

「仕事の話か」


 サクラの目つきが鋭くなり、彼はフライパンを電子コンロに戻すと、すぐさまつけっぱなしのパソコンの前に座った。


「えっと……BBSってどこから行くんだっけ?」

「ほんとに何年傭兵やってんだ、この機械音痴……変われ」


 言われるままに席を譲ると、ストークはサクラの十倍の速さで端末を操作し、あっという間に目的の画面を表示した。


「……なんだこれ、まるでお祭り騒ぎだな」


 そこは主として傭兵同士の情報交換や、即興の仕事仲間を募ることを目的とした交流の場であり、サクラも過去に何度か利用したことはあった。

 だが今のそこは、サクラの記憶と同じものと思えないほどのにぎわいを見せていた。

 感想を漏らしている間にも、目で追えないほどの勢いで新規の書き込みが次々と流れている。そこからサクラがかろうじて抜き出せたのは『コーラル』と『レジスタンス』の単語くらいだった。


「なにがあったんだ?」


 ストークに聞いた方が早い。サクラはそう判断し、モニターから情報を拾うことを断念した。


「コーラルで自爆テロが起こったそうだ」

「はぁ?!」


 それはほとんど無意識に飛び出た絶叫。

 サクラはこんなに大きな声が出せたのかと自分で驚くほどだった。


「さすがにデマだろ……」

「ところがなんと、情報の出所は企業連合の正式発表だ。ここに来る途中に昔の知り合いから裏も取れた。間違いはないみたいだぞ」


 ストークの目つきも真剣そのものであり、これが冗談や与太話の類ではないことを如実にあらわしていた。


「正気じゃねぇな。コーラルは『企業』の心臓みたいなもんだぞ……どこがやったんだ?」

「下手人は『蒼穹そうきゅう解放戦線』……ありていに言えば反企業レジスタンスだな。被害にあったのはEGOコーラルだそうだ」

「EGOコーラルって、この辺で一番近い……」


 そこまで言って、サクラの脳裏に一か月前の記憶がよぎる。



『どこのお嬢様だよ、お前は』

『どこと言われると……EGOコーラル第七十九地区ですが……』



「コーラル側の被害は?」

「ほぼゼロだろうな。ちんけな爆弾一つでどうこうなるものじゃない」

「そうか……」


 サクラは、彼女がこの場にいなくてよかったと一瞬安堵(あんど)してから、未だにそんな発想をしてしまう自分に呆れる。


「だが、被害がないからと言って『企業』にもメンツってものがある。間違いなく、レジスタンスを潰しにかかるだろうな」

「なるほど。傭兵どもが騒ぐわけだ」


 『企業』直々の仕事なら、十把じっぱ一絡ひとからげの民間の依頼とは報酬ほうしゅうも桁違いだろう。

 それどころか、末端の雑用程度であったとしても、その経歴にはくがつくのは間違いない。

 傭兵達はその最上級の“うまい仕事”が降ってくるのを、大口を開けて待っているというわけだ。


「お前の目標のことを考えれば、このチャンスは逃すべきじゃないと思うが?」

「たしかに、名前を売るには絶好の機会だが……この騒ぎに飛び込むのは骨が折れそうだな」

「あえて、レジスタンス側からの依頼を狙うってのもなくはないが……」

「冗談じゃない」


 サクラは語気を強めて、ストークの意見を切り捨てる。


「放し飼いの無人機を壊すのとはわけが違うんだ。俺は『企業』に正面から喧嘩売るほど馬鹿じゃねぇよ」

「そうだな」


 サクラが「俺は」と強調した意図をくみ取ったのか、ストークはそれ以上何も言わなかった。

 そんな重くなった空気を無視するように、端末からアラームが鳴りだした。


「うわっ! 今度はなんだ?!」

「音声通信の着信音だろ……なんで持ち主のお前が驚くんだ」

「あー、この前レイミアが使ってたやつか……これ、どうやって止めるんだったっけな」

「お前、嬢ちゃんと一緒に住んでいる間に、もう少し機械の扱い方を教わっておけばよかったんじゃないか」


 端末の前で右往左往するだけのサクラに代わり、ストークがそのまま音声通話の発信元を確認する。


「ええっと……なんだ嬢ちゃんに紹介した情報屋か」

『やっほー、レイミアちゃん久しぶりだねー。元気してる?』


 スピーカーから、気色の悪い男の猫なで声が届く。

 サクラがストークに疑惑の視線を向けると、ストークは「腕は確かなんだ」と一応の弁明をした。


「悪いねぇ、レイミアちゃんじゃないが元気にしてるよ」

『……なんだ、ストークかよ。先に言えよ』


 通信先の男は露骨に態度が悪くなる。


『じゃあ彼女に伝言だ。探してたコーラル棄民コミュニティに関する情報が……』

「あいつ、調査依頼をキャンセルしてなかったのか……」


 当初の予定とは全く別ルートからコミュニティの情報が手に入ったこともあり、彼女自身も依頼していたことをすっかり忘れていたのだろう。


「悪いが、それならもうこっちで見つけたよ」

『は? ……おい、お前ら。レイミアちゃんは今どこにいる?』

「今頃は、コーラルのお仲間達と仲良くのんびり過ごしてるんじゃないか」


 サクラの言葉の直後、スピーカーからガタンッ、と立ち上がったような音が聞こえた。あるいは、情報屋がテーブルを殴ったのかもしれない。

 どちらにせよ、通信機の向こうにいる彼の声は穏やかさとは程遠いものに変わっていた。


『オイオイまじかよ! テメェら素人はニュースも見ねぇのか?』

「ニュース?」

『『コーラル棄民コミュニティ』ってのは当然だが、正式名称じゃねえ……っていうか、その組織のごく一面でしかなかったんだよ。おかげで調べるのに手間取ったぜ』


 サクラの視線は、自然とモニターに映しっぱなしになっていた傭兵組合の掲示板に向けられた。


「……おい、まさか!」

『正式名称は『蒼穹解放戦線』今、最も世間を賑わせている反企業レジスタンスだ』

「…………」


 サクラとストークは息を呑んで絶句する。


――ってことは、俺達が三日前にアイツを運んだ場所が、コーラルにテロを起こしたレジスタンスのアジトだったってことかよ――


『特別サービスだ。追加情報をタダでやる』

「追加情報……?」

『お前ら傭兵は『企業』からのレジスタンス討伐依頼が来るのを待っているんだろうが、それは時間の無駄だ。レジスタンスの殲滅には『ホーネット』がもう動いている』

「『ホーネット』っていや、企業連合直属の正規軍じゃねぇか」


 ストークが動揺するのも当然だった。

 地上で生まれ育った人間で『ホーネット』の名を知らない者はいない。

 各企業から選抜された生え抜きのエリート達で構成された、文句なしの地上最強の軍事組織――それが『ホーネット』だ。

 サクラはストークを押しのけ、マイクを掴んで叫ぶ。


「おい! 掃討作戦の日程は!? ここまで言ったんだ、どうせそこも握ってんだろ!」

『さっき言ったろ、“もう動いてる”ってよ』


 情報屋はもったいぶることなく、サクラの質問に最悪の回答を返す。


『……今日だよ』

TIPS:

【企業連合軍 地上管制部隊『ホーネット』】


企業連合が保有する正規軍の正式名称。


第一部隊から第六部隊までが存在し、シンボルは六角形とスズメバチ。部隊ごとに背景の六角の色とスズメバチの羽の形が異なる。


企業連合の成り立ちから、複数の企業からの出向者による混成部隊となっている。そのため、コーラル生まれとも地上生まれとも違う独特な価値観を持つ者が多い。


地上管制部隊の名の通り、地上における反企業勢力の掃討が主な職務であるが、他にも企業の会合の護衛や、レイミアの地上への廃棄のような“人道的な処置であることを証明する立会人”としての職務も担当している。


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