60通目 リネッテから姉姫二人へ
尊敬する
アンフィーサお姉さまと、ベラお姉さまへ
拝啓 煉瓦を積み終えて漆喰を塗り終わった後のほんの微かな匂いにもすっかり慣れて、今あたしは陛下と一緒に『鷲の里』の新居にいます。
初めてあの懐かしい大崖で皆に会った時と同じように、さっきまで里の皆で、新たな館の完成を記念して、飲めや歌えの大宴会。
そして、夜。『鷲の大崖』の謁見室に初めて足を踏み入れたあの時とは違って、寝台も机もきちんと城下町から運ばれてきたものになっています。
緑の本を読みながらルネと一緒に、カーテンや絨毯で天幕を作って、寝台を枝でしつらえていた日が、まるで昨日のことみたい。
あの野趣あふれるベッドも懐かしいけれど(時々陛下と二人で、いつかどこかでふたりきり、緑の本を片手に冒険の旅などをしてみたいなどと話す夜もあったけれど)、あたしも陛下もエルフ族の暖かいお布団が大好きなので、冒険の旅はシーバスレリア達にひとまず任せよう、という話になりました。
オリバーが焼いて、マリィがきちんと手配してくれた新しい煉瓦で出来た館。里の中心に建っている、あたし達の素敵な家。
陛下の執務室もきちんと設えてあって、『木叢の館』ほど多くはないけれど、本なども揃っています。平原を通る古書商達から買い揃えていったものです。
里には常夜灯だけでなく、宿も出来て、時には平原を行き交う人達が泊まりに来たりもします(ヤギの白パンはすっかり名物になりました)
それと、なかなか修理できなかった綿花の織機も、城下町の熟練した職人達の手でようやく修復できました。たまたま馬車の奥に積んであったので、崖の崩壊に遭わずに済んだ一台です。
里の周囲で綿花の栽培を始める話も持ち上がっています。ベラお姉さまの御子の清潔なおむつに間に合うといいのだけれど!
さらには何と、念願のお風呂がやっと、館の中に設置されました。
『鷲の里』が、あの懐かしい崖の住まいと異なっているのは、上下水道が、今までよりもずっと、整った設備になったことです。
そして、アンフィーサお姉さまが贈ってくださった化粧品の中に、香りの良い石鹸があったのが、何よりも嬉しい限り。今まではムクロジの実で身体を洗っていたのよ。
昨日までは一緒に空の月や星を見ながら一緒に眠っていたけれど、今宵はその、愛するヒトの顔を見ながら眠る予定になっています。ああ、ビーゼン老の竪琴の音が聞こえてきたわ。愛するヒトの、少し小さな足音も。
そう、良い香りは何よりも大事なのです。私の愛するヒトは、とっても鼻が良いのだから!
そして今は朝。
ああ、愛してるって世界で一番素敵な言葉ね。百万回だって言いたいわ。
百万回聞いたって飽きないに違いないわ。だって、飽きないのだから!
だからお姉さま達にも言います。愛してます。心から。
そして、あたしの陛下は、枕元のペンを取るあたしの手の甲に唇を落として、こう言いました。
「これを、そなたの義姉上達に届けるように」
接吻って素敵なことね。
手の甲への接吻は『尊敬』を意味するそうです。
だから、『六番目の誓い』を、あたしからお姉さま達に、こうして届けようと思います。
ペンの先に、愛って届くのかしら。もしも届いていたら、いつものように、お返事を宜しくお願いします。
あなた達の妹リネッテはいつでも、お姉さま達のお手紙を、楽しみに待っているのだから。 敬具
本当に世界一幸せな、あなた達の妹
リネッテ・ブリンク




