06通目 エルフ族長フィロストレリアからドラゴン王アルベリッヒへ
『木叢の館』より
親愛なる兄上アルベリッヒ殿へ
謹啓 兄上、と書き綴っていいものか、少々迷いました。照れ、というものでしょうか。例の件を妻に相談したところ、
「あの子を城に留め置くのはだめよ。いつかしおれてしまうわ」
とのこと。エルフ族にとってゴブリンといえば親切にすれば多少の善いことが、虐げれば多少の不幸が舞い込むと噂のただの小鬼に過ぎない存在です。
敵でも味方でもないものでしたが、親切にして悪いことはない、と、書簡に印を押してやることにしました。妻も、可愛い妹が再び妹になることを喜んでいますしね。
妖精便の子達に聞いてみたところ、あのボトム王はゴブリンにしては珍しく謹厳実直な性格だとのことです。チップを上質な砂金で払ってくれるのは、身体の小さい妖精達にとってはコインより助かるとのこと。
我々『兄弟』としても、多少みすぼらしくとも領内に鉱脈を持ち、謹厳実直である王を味方に引き入れることは悪くはない話でしょう。
鉱脈といえば本来はドワーフ族の管轄ですが、彼らはこの大陸のどこかに隠遁してしまってすっかり話も聞かなくなってしまった(武器を作らされるのに倦んだ、というのがもっぱらの噂です。人間達が他の種族を制圧すべくあちこちで迷惑をばら撒いていた百年ほど前の話ですね。それにしては解せないことも多いのですが)
アンフィーサ妃はつつがなくお過ごしですか。妻のベラが心配しています。
暖かい夜具、というものはこの南の森には元々なかったため、縫い上げて送るまでにもう少し時間がかかるでしょう。
兄上には、火のように熱い火酒をお送りします。
この森の果実で作った特製のものです。是非ともご賞味いただければ。
『鷲の大崖』には僕の弟のシーバスレリアが様子を見にいく予定です。
旅に長けた剽軽者の弟です。館になかなか帰ってこない(婚礼の次の日にふらっと現れて妻をびっくりさせていましたが)のだけがたまに傷なのですが。
弟はいても兄がいたことがないため、少々無礼な手紙になっていることでしょうが、何卒ご寛恕願います。
それにしても、書簡、というのはつくづく面白い文化ですね。
また面白い事柄があったら、兄上には真っ先にお知らせしようと思う次第です。
それでは。 敬白
あなたの忠実なる弟にしてエルフ族族長
フィロストレリア・エルフェンノルン




