59通目 ゴブリン王ボトムの手紙
我が親愛なる兄上およびその美しき妃達
および 関係者一同へ
粛啓 平原の中央に我ら一族の新たに集落を移転する計画を立ててから、はや数ヵ月。
いつの間にやら『鷲の里』と呼ばれるようになった我が新しき里に、昨日、二軒目の水車小屋が完成した。諸兄の尽力に感謝を。
赤く輝く美しい妃を改めて迎え入れた『常冬の宮殿』の歓びは、如何ばかりのものであったろうか。
宮殿にまさしく美しい炎が灯ったにも等しいことであろう。
我は毎日我が妃と共に、陽が落ちる刻限になると、夕刻の散歩と見回りを兼ねて、里の中央に建てた常夜灯を灯しに行く。
そして我が妃が婚礼時に義姉上より押し戴いた火打ち石で、このまだ新しい常夜灯を灯す度に、アンフィーサ義姉上こそが、アルベリッヒ兄上の、そして、ドラゴン族における新しい灯そのものであったのだ、などと語り合う次第である。
城下町のドラゴン便に若き新鋭達が加わったと聞いて、休憩所を建てたところ、大変喜ばれた次第。
平原で狩った獣の肉や果実、そして山羊の白いパンなどを共に食しつつ、城下町や『常冬の宮殿』、時には『木叢の館』の様子などを、いち早く聞くことが出来るようになった。
そして、この里は以前よりも『木叢の館』に少し近い位置に建つことになった。ただ、『エルシノアの実』を届けるのも、今月が最後であろう。
我ら里の皆一同、特にあのトロルの討伐の際に『木叢の館』に避難し、エルフの子供達と誼を結んだ我らがゴブリンの子供達が、『新たな小さき友』を、首を長くして待っている。
我もまた我が妃と友に、母子共に安らかな出産であらんことを祈る次第である。
シーバスレリアは、ビーゼン老と共に、ドワーフ族の生き残りを探す旅に出ることになった。
勿論、きちんと手紙を書くように、そして平原の我らの元にも顔を出す様に、更にはベラ義姉上の出産の折にはきちんと『木叢の館』に帰る旨、約束を交わすことと相成った。
城下町からは新しい新種の煉瓦が届いた。我が臣下にして今や立派な煉瓦職人でもあるオリバーの焼いたものである。
我が館は最後まで布張りの天幕であったが(王たるもの里の皆より先に良い寝台で眠るわけにはゆくまい)、これで雨期にも無事備えることが出来た。この天幕で、妃と共に夜明けまで月明かりや星明かりを見上げながら眠る愉しみを、新たな館が出来るまでもう少し、心ゆくまで堪能しようと思う。
例のトロル達の遺骸は大小共に『崖』を破壊した土で埋めることとなった。この難事業の手助けを申し出てくれた冒険者組合には大いなる感謝を。
そして『銀行』なる新しき制度を採り入れるとのことで、我が里の砂金を幾分か預ける旨を告げたら大変喜ばれた。
城下町での買い物のみならず、大変世話になった各組合への支払いも、これで安全かつ捗るというものである。
さても、全て世はこともなし。妃が我が館の裏手の花畑で冠を編む指の美しいことよ。
末筆ながら、一同の多幸を祈念し、ペンを置く次第である。 頓首啓白
ボトム・ゴブリンロード




