58通目 煉瓦職人見習いオリバーからボトム王へ
ボトム王へ
拝啓(手紙の正しい書き方を、隣にいるマリィに教わりながら書いているところだ)懐かしき我らの陛下!
あれからまだ数ヵ月も経ってないのに、もう平原が恋しい。マリィがいてくれて本当に助かっているけれど(そのマリィがきっちり書き記してくれた煉瓦の納品書も同封したので確認を宜しく)、いつかまた休暇を取って遊びに行こうと思う。
うちに来てくれたマリィは、受付嬢から会計までまさに百人力だ。時々建具組合とかから問い合わせが来る『ゴブリン族にちょうどいい家具の大きさ』などにもきっちり細やかにこたえてくれる。
さすがは侍女やってただけあるし、あんなにゴブリン嫌いだったはずの親方にも
「オリバー、お前よりよっぽどマリィのほうが役に立たぁな!」
って気に入られている。そんな俺は工房で、ゴブリン族向けの煉瓦、軽さと丈夫さ、雨期の平原向けの耐水性をもっと追求しようと、粘土や長石と一日中格闘している。近いうちに、もっと質の良い配合の煉瓦が作れると思う。良い値段で買ってくれよ!
城下町のエコールも忙しくしていてなかなかゆっくり話せないけど、私書箱兼秘書の妖精アナーサが事務所にいつもいてくれるので、今までにあった色んな話を彼女に聞かせてやっているよ。
ドラゴン便は予想外に需要があって人手(もちろん『人』ではないけれど)が足りなくなったので、外の世界に興味がありそうな若いドラゴン族を雇おうかって話になってるところだ。この城下町にドラゴンが住めそうな家ってどれくらいあるんだろうな。
建物関係の組合一同、いままでは『なんとなく』の付き合いだったのが、平原のゴブリン向けの大発注のおかげで、最近は皆で仲良く協力し合うようになってる(飲み会の数が増えたのがたまにキズだな、と思わなくもないけども)
ボトム王には感謝しておいてくれって皆に言われたので、俺が実はトロル討伐の時に『ボトム王の臣下』になった旨を話したら、皆面白がって聞いてくれた。地位ってこんな時にも役に立つんだな!
リネッテ姫にも宜しく。
城下町の結婚式で『五つの誓い』をやるのが突然大流行しだしたって近所の神父さんが(俺の家の斜向かいには小さな教会があるんだ)首を傾げていたので、あの中庭での『由来』の詳細を、この目で見た通り、事細かに説明してやったら、
「三番目の姫様がゴブリンの王様に嫁いだと聞いたときには、わしも大変心配したが、その王様がそんな伊達男だったとはのう。よかったよかった」
って何故か安心していた件も『ご報告』しておいてほしい。
そんな城下町だけど、ドラゴンになった美しいアンフィーサ姫の恋物語、ゴブリンの王様に嫁いだ可愛いお姫様の歌、巨大なトロルを討伐した勇敢なる王達の『首飾り』の歌(『トロルの首をひとまわり! ひとまわり!』ってやつだ)、色んな歌が流行ってる。
全部、あのビーゼン老が残していった歌だ。
歌を聞く度に、皆が恋しくなる。
でも、ゴブリン向けの煉瓦がきちんと焼けるようになるまでは、マリィと、マリィとすっかり仲良くなったお袋と、うちの親方を大事にしようと思う。
片方になったあの靴は、部屋の寝台の横に置いてある。あの日の冒険を忘れないためにも。
そして、たった一時でも、俺のことをきちんと『臣下』って呼んでくれたヒトがいることは、すごい自信になっている。
冒険の幕は閉じたけど、一緒に冒険したマリィは相変わらず隣にいてくれるし、もしかすると俺は、けっこうな幸せ者なのかもしれないなって思う。
また何かあったら手紙を送るよ。次は俺が焼いた煉瓦も一緒に送れるといいな。では、敬具(こういう書き方で良いのかわかんないけど、マリィは笑って許してくれたから、これで良しとするよ)
陛下の忠実なる臣下にして煉瓦職人見習い
オリバー




