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56通目 侍女ルネより煉瓦協会受付マリィへ

ロバの馬車の中より

可愛い私の後輩マリィへ


 前略 新しい職場が決まったとのこと。嬉しい限りです。しかも、あなたの優しい『騎士様』のお誘いという話。


 この老骨、思わず快哉を叫んでしまいました。


 よく働くのですよ。私はゴブリン達の今後の必要物資のリストをまとめてから、森へと帰ることになりました。


 あの後、私達は城門前の広場に集まりました。アンフィーサ様が、その美しい人間のお姿を、ドラゴンの姿に変える時が来たのです。


 ああ、これからアンフィーサ様は、長い時を生きることになるのでしょう。その生涯に幸多からんことを、祈りました。


「我らドラゴン一同皆、汝の決断を歓迎する。我が愛しい妃よ。本当に、尊敬に値することである」


「いいえ、わたくしの愛しい夫。わたくしは、わたくしの本当の生き方と幸せを、ようやく見つけただけのこと。そして魔法のようなその手段を見つけてくれたのは、妹夫婦達の力に他なりません。けれどこの新しい爪も翼も、赤い鱗も、今日からあなた様のもの」


 すると、赤く美しいドラゴンに『成った』妃の前で、あの威厳ある夫君をはじめとしたドラゴン族一隊が、一同静かに頭を垂れたのです。そしてアルベリッヒ王が仰いました。


「シュトラスレートルの美しき三妃の、常冬でなお紅く燃ゆる我が焔の一妃よ。此度、二度目の婚礼を、朕は『政略』ではなく『愛』で汝を娶ろう」


 ええ、そうです、マリィ。愛こそは全てに打ち勝つのです。


 蒼と赤の、まるで運命のように対になっているドラゴン達が、愛を確認しあうかのように、額をすり合わせ、そして舞いあがります。一同もまたその後に続きます。とても勇壮で、美しい風景。


「元気でなあ!」


「姫姉様を頼んだぞお!」


 すっかりドラゴン達と仲良くなったゴブリン達が、馬車の上からそれを見送っています。


「いい木材を持っていこう!」


「これから頑張るんだぞ!」


 最後尾に連なる若いドラゴン達が、ゴブリン達を激励する姿もまた見られました。


 そして『シュトラスレートルの美しき三妃』。そうです。私達のリネッテ姫もようやく、こうして世に認められたのですよ。


 ああ、マリィ、これほど誇らしいことがあるでしょうか。


 次に、エルフ達が一斉に乗馬します。


「小さき友よ、またお会いしましょう!」


「平原にも遊びに行きますよ!」


「良い資源を持っていきますよ」


「パンを焼いて待ってらぁな!」


「みどりの姫さんを大事にな!」


 フィロストレリア様がベラ姫様を抱きかかえて、微笑みます。


「利害関係という名目で政略結婚を提案した日が、もう何百年も昔に思えるよ。………僕は君も知っての通り、なかなかの悪い男だけど、もしかしたら人生で最大の善行を成したんじゃないかな」


 ベラ姫様が微笑みます。


「私の可愛い悪い人。『もしかしたら』、ではなく、『まぎれもなく』でしてよ?」


「君が言うなら間違いないな。我が森を彩る賢く可愛い僕のみどりの姫。さあ、帰ろう!」


 またもゴブリン達に見送られて、エルフ達を乗せた騎馬隊は整然と列成して、爽やかな一陣の風のように去っていきました。


 そしてボトム王とリネッテ姫が馬に乗り、ロバの馬車達を先導します。


 ふとリネッテ姫が、シュトラスレートル城のバルコニーを見上げると、そこには母后様が立っておられました。


 娘の視線に気付いたのか、そうでないのか、さっと城の中へ戻ってしまわれたけれど。


 リネッテ姫様も、口元に笑みを浮かべて言います。


「……さあ、あたし達も、平原に帰りましょう」


「皆の者、これからが正念場であるぞ」


「『木叢の館』に預けた子供達も、ちょうど戻ってくる頃合いよ。皆無事で、本当に良かったわ」


 エコール様とシーバスレリア様の姿が見えなかったのは、そういう理由だったのです。


「さあ、ビーゼン老も乗って。帰ったら、皆で美味しいパンを焼きましょ」


「ほほう、そいつは楽しみであるな!」


 平原の復興が一心地付くまでは、ビーゼン老も一緒にいてくれるそうです。元気とはいえ故郷の崖を喪ったゴブリン達には、愉しい竪琴の音色が、新天地では何よりもの慰めになることでしょう。


「まずは水車小屋を移転するところからだけど!」


「あの小屋が無事で何よりである。これからのためにも、増築せねばな」


 小さな背丈の『いつもの』ボトム王ですが、リネッテ姫様は最良の選択をなさったのです。


「あの緑の本と火打ち石は?」


「ちゃんと持ち歩いているわ。本は少し、表紙が汚れてしまったけれど」


 雨期の雨が通り過ぎ、爽やかに晴れ渡る空の元を、ガタゴトとロバの馬車が歩みます。ボトム王が言いました。


「………我が花冠、愛しい我が王妃よ。雨の後の虹の麓には、宝があるという。きっとそれは『政略ではなく、愛で』のみ、手に入るものなのだろうな」


 リネッテ姫様が微笑みます。


「きっと、そうに違いないわ。宝物、これからいっぱい増やしていきましょ。あたし達、一緒ならきっと何だってできるわ」


 そして昼ごろ、樽を持ったエコール様とその背に乗ったシーバスレリア様が、空から降りてきたのです。


「さあ、おチビ達、空の旅は楽しかったかい?」


「ドラゴンねえちゃん、またいつか乗せておくれよお!」


「次からは料金が要るからね!」


「砂金でいいの?」


「もちろんさ。にしても、さすがゴブリン族! 気前が良い子は大好きだよ」


 ドアが開かれて、『木叢の館』で小さなエルフ達と交流を共にしていた小さなゴブリン達と、子を産んだばかりのゴブリンの母親が降りてきました。


「無事に生まれたのね!」


「あのお館のエルフ達皆、とても良くしてくださりまして、姫様」


「ちゃんとお礼の手紙を書いておくわ。安心してちょうだいね」


 小さなゴブリン達がシーバスレリア様に、


「館の皆によろしくねえ」


「また遊びに行きてえな!」


 と笑っています。


「森で迷わないコツを今度教えよう」 


「へへっ、エルフのにいちゃんもいつだって、おれたちのところにきていいんだからな!」


 シーバスレリア様が優しく微笑みます。


「君達のご両親と、王様とお妃様を大事にね」


 リネッテ姫とボトム王が顔を見合わせて、同時に馬を飛び降りました。そして、目を丸くするシーバスレリア様を、同時に力いっぱい抱きしめたのです。


「あたしたち、あなたのことも大好きなのよ。いつだって帰ってきて」


「シーバスレリア、唯一無二の我が友よ。そなたがおらぬと、我らは寂しいのでな」


 そんな二人の大小の頭をシーバスレリア様は撫でながら笑います。


「新婚夫妻の邪魔をしたら野暮だろうなあ、とか考えていたんだよ。何で君達は、そういうところがわかっちゃうのかな………」


「そもそもあなたが一番最初に『野暮なこと』を聞いてくれたおかげで、今のあたし達があるのよ」


「はは、それを言われちゃあ立つ瀬がないね!………ちょっとエコールの手伝いで、城下町の適当な場所にドラゴン便の本拠地になりそうな物件を見つけたら、また平原の新しい町に帰ってくるよ。必ずだ。ドラゴンだけで物件を探すのは苦労するからね」


「ちゃんと私からも言ってやるから安心しなよ。シーバスレリア、あんたはこんなにも愛されてるんだ。堂々と応えてやってもいいんだからね!」


「エコールだって! ドラゴン便開設おめでとうって言いたかったのよ。お祝いの花はたっぷり届けるわ」


「それと、料金表が出来たら速やかに我らに送ってくるように」


「もちろん、この私がみすみす最高の上客を逃すわけないじゃないか! 大好きだよあんた達!」


「城下町の煉瓦協会にはマリィもいるわ。宜しくね」


「あの可愛い子をもしもいじめるやつがいたら、この私が頭から囓ってやるよ! 安心しな!!」


 そう言って、樽のドアを閉め、二人は手を振りながら飛び去っていきました。


「人間の城下町に、我ら三種族が根付く日も遠からず来るだろうな」


「とてもいいことだわ」


 マリィ、あなたはその第一号なのです。あなたも、鍵のかかっていた『種族の扉』を開けたひとり。立派に勤め上げることができるでしょう。


 わからないことがあれば、いつでも手紙を寄越してください。その他はあなたの『騎士様』に何事もよく相談するように。


 オリバーは賢く、勇気ある子です。必ずあなたを助けてくれるはず。それと、山羊のパンが大好きとのこと。もしも城下町で材料が手に入るなら、焼いてあげるととても喜ぶでしょう。


 それでは、あなたのこれからの活躍を願いながら。 あなかしこ


いつまでもあなたの良き先輩でありたい

侍女ルネより

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