55通目 アンフィーサから妹姫二人へ
アンフィーサ・ドラコスリーベから
愛しい妹達へ
拝啓 きっとこれが、わたくしの『筆跡で』書ける最後の手紙になることでしょう。けれど代筆用の妖精の子を雇おうと思います。お手紙はいつでも送ってきてちょうだいな。待っているわ。
美しいドレスは着納めですが、エルフ族の粋を極めた昨晩の美しいドレスだけは、宮殿の部屋に飾らせて貰うつもりでいます。
これからは、赤い鱗がわたくしのドレス。『常冬の宮殿』へも飛んで帰ることが出来ます。つまりいつでも、皆に会いに行ける身体になったということでもあるの。
もっとも、妃としての責務は山積みですが!
可愛いリネッテ。我がドラゴンの住まう山から平原の新しい住処へは、良質な木材を運ばせましょう。平原では不足することでしょうから。
それと、わたくしの化粧品などを贈ります。城下町で買った分も。お肌に合うといいのだけど。
日差しの強い平原では、お肌にもきちんと気を配ってちょうだいね。あなたは元々、とても可愛らしい子だったけど、これからは、日々美しくなっていくのでしょうから。
ええ、そうよ、わたくし達の可愛い花冠のお姫さま。愛することは信じること。雨期を終え、虹の架かる果てしない平原のように、あなたを遮るものはもうなにもないのです。
賢きベラ。お腹の御子に必要なものがあったら、なんでも遠慮なく言ってちょうだいね。もちろん、五倍の大きさではないものを贈ります。わたくしのドレスや宝飾品は、今宵の最も美しい思い出の一着を除いて、全て贈ります。
フィロストレリア様のお持ちになった数々のお酒は、本当に美味しかったので、わたくしの夫からも後ほどお礼の品をお送りする旨、宜しく伝えてちょうだいな(お酒はほどほどに、と言いたいところだけれど、わたくしたちの夫たちが親睦を深めてゆくのはとても良いことですものね)
出産というのはわたくし達全員にとって未知の大冒険。それに挑むのだから、決して勇気を忘れずに。
そしてわたくしにとって今宵は、『人』の姿で送る最後の晩です。
愛する夫と長きにわたる人生を共に歩む選択をしたことに、悔いはありません。
満月草で人間の姿をしていても私の夫はとても美しいけれど、やはり、いつもの、あの蒼い鱗の荘厳な姿と立ち振る舞いに、わたくしは心から惚れ込んでしまったの。
けれど、わたくしは、どんな姿であってもアンフィーサ、あなた達の姉です。どうかそれだけは、忘れないでいて。
困ったことがあったらいつだって助けに行きますし、今宵一晩で一気に人々の間に名が知れ渡った、美しいあなた達姫君を狙う、野蛮な不届き者が現れても、飛んでいって頭から丸ごと齧りつくことができるのです!(冒険者組合にその旨通知しておこうかしら?)
満月草の件は、私達全員の共有する、愛のみが知る大いなる秘密。中庭にいた皆には『三種族同盟の秘術』ということにしてあります。
けれど、満月草の花が浸された酒の瓶は、僅かですがわたくしの『常冬の宮殿』奥の宝物庫に、花もまた研究用に『木叢の館』で栽培を試みている最中とのこと。
『本当に』困ったことが起きた場合は、また皆で相談しましょう。
書きたいことが、山ほどあったはずだけれど、ここでペンを止めておきます。未知の世界を恐れないだけの力があることと、助けてくれる善き人々を信じて。
私達には幸せになれるだけのすべてを、もう既に手にしているのだから。 啓白
いつまでもあなたたちの姉
アンフィーサ・ドラコスリーベ




